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オタオタSS 静、愛の沼

※本編の流れとは関係ないサイドストーリーとしてお楽しみ下さい。



「……グス……グスッ」

 三石宅、静のマンガアトリエにて、静と麻凛愛、手伝いの成瀬の三人がマンガの作業を行っていた。
 その中で、静の様子がおかしいことに気づいた麻凛愛と成瀬は声をかける。

「先生、どうしました」
「ちょっと悲しいことがあって」
「悲しいこと? なんか嫌な奴がいたんだったら、あたしがぶっとばしてやりますけど」
「そうじゃないの、悲しいことって言うのは……」

 話を聞いた二人は眉を寄せる

「「ユウ君が、一緒に寝てくれなくなった……」」
「そうなの、いつもはなんだかんだ言って一緒に寝てくれてたのに……どうして……」
「そりゃ年頃ですし、一応彼女みたいなのもいるわけでしょ?」
「伊達、水咲、日本のトップ企業……」
「でも……一緒に……寝たい」

 悩ましい吐息を吐く静の色気に、二人はなんとなく事情を察する。

(どうするあっちゃん、こりゃ絶対立つから避けてんだぜ)
(なる先輩下品)
(ほんとのことだろうが)
(先生は真正のブラコン、弟成分が足りなくなるとペンの進みも悪くなる。定期的に弟成分を吸入させないと)
(やべぇ薬みたいに言うなよ)

「あの……先生。週何回くらい一緒に寝たいんですか?」

 麻凛愛の質問に、静は伏し目がちに手のひらをパーにし、更に指二本をつけたした。

「「週7」」
「それもう嫁ですやん」
「先生ジャンキーすぎ……」

 静は大きなため息を付き、ペンタブのペンをパタンと倒した。

「苦しい……ユウ君と一緒に寝られる案を考えてくれたら給料上げても良い」
「雇用主が圧倒的強権を使ってきたぞ」
「給料はいいけど、先生のやる気が下がるのは良くない」

 麻凛愛と成瀬は相談し、なんとか一緒に寝られる方法がないかを考えた。

「どうやって一緒に寝るか……」
「一緒に寝るのを嫌がってるなら、何かしら大義名分があればいいんじゃねぇか?」
「例えば?」
「ん~そうだな、ホラー映画見て一人で寝られなくなっちゃったみたいな」
「なる先輩それいけるかも。ホラー映画怖がる女の子は可愛い」
「じゃあママさんホラー映画見た後、寝れなくなっちゃったのテヘで夜押し寄せましょう」
「わかった合法夜這いね!」


 ――その日の夜
 三石宅では、静、成瀬、麻凛愛、俺の四人で夕食を取っていた。

「今日は全員勢ぞろいですね」
「あー、まぁちょっとな」
「なる先輩」
「あたしが言うのかよ。いいけどさ」
「どうかしたんですか?」
「いや、あの食後映画見ねぇ? フトフリで皆見たいっていう映画があんだよ」
「へー、いいじゃないですか。なんて奴ですか?」
「そりゃ見てのお楽しみよ」

 食後、片付けを終え風呂に入った後、俺の部屋に全員が集まっていた。
 オタク女子っぽい猫耳フード付きのパーカーにペンギンのぬいぐるみを抱えた麻凛愛さん、ポッチの浮いたタンクトップにホットパンツ姿の成瀬さん、透けたセクシーなランジェリー姿の静さん、上下黒のスエット姿の俺がソファーに横一列になってモニターを見やる。
 成瀬さんは自分のアカウントで動画サイトにログインすると、見たい映画を検索する。

「えーっとこれだな。電気消そうぜ」

 俺は何を見るんだろうと画面を見ていると、なんだか不気味なキャンプシーンが映し出される。そして女性の絶叫と共に、マスクを被った男がチェーンソーを振り回す。

「これってもしかして……」

 俺は嫌な予感がしつつ見続けていると、タイトルが表示される。【テキサスジェイソンVSメガロドンシャークX】

「ホラー映画では?」
「み、皆どうしても見たかったのよね?」
「お、おう、そうだな」
「コクコク(ガタガタブルブル)」
「見たかったってわりに、皆顔が青ざめてますが」
「ホラーなんかなんも怖くねぇ、なんも怖くねぇわ」

 成瀬さんは自身に言い聞かせるように繰り返す。

「じゃ、じゃあ見ますか」

『キャーワーヒャー』←画面内で凄惨な光景が繰り広げられている。

「うわ、スプラッタ要素きつ……」
「画面真っ赤じゃねぇか」
「こ、怖いわユウ君」

 静さんはがっちりと俺の左腕を抱き、麻凛愛さんは右腕を抱く。

「は、はわはわ、手が……ふきとんで……」
『キャアアアアア、あれはジェイソンシャークよ!』

 長かった二時間が終わり、電気をつける。すると皆顔が青くなっており、想像以上に恐ろしかったホラー映画の効果は大きかった。

「まさか負けかけたジェイソンが、未来からフューチャージェイソンを呼び出して戦うとは思えませんでしたね」
「お、おぅ、そうだな」
「ダブルチェーンソーエックス切りはヒーロー物みたいで、ちょっと熱かったです」
「お、おぅ、そうだな」

 そうだなBOTと化している成瀬さん。

「成瀬さん、後半ずっと布団かぶってましたけどちゃんと見てました?」
「ば、バッカ見てたに決まってんだろ!」
「ほんとにぃ~?」

 俺はていっと成瀬さんの腹を突くと「うひょわ!」と凄い声を上げてのけぞる。

「やめろバカぶっとばすぞ!」

 お返しにコブラツイストでギリギリと締め上げられた。

「なるちゃん……あんなにイチャイチャして、羨ましい……」
「あれイチャイチャしてんのですかね……」
「じゃ、じゃあ皆さん、夜も遅いんでこれにて解散ということで」
「「「う、うん」」」

 30分後、俺は困っていた。

(やっば、全然寝れん……)

 悲鳴が耳にこびりついており、この状態で寝るのはかなり難しい。

「しょうがない、今日は起きてようかな」

 そう覚悟した時、玄関がガチャガチャと鳴る。
 何者と思い起きると――



「いや、別にあたしはそういうんじゃなくてさ」
「まだ何も言ってませんよ」
「怖いとかまったくないんだけど、多分お前が一人で寝るのきっついだろうなって思った配慮だから、まぁしょうがねぇけど一緒に寝てやるのも姉貴分のつとめかなって」
「成瀬さん、めっちゃ舌回りますね」

 彼女は明らかなごまかしの言葉を口にしつつ俺の部屋へと入ると、ベッドが既にこんもりしていることに気づく。

「ママさんもう来て……」

 布団をめくると、猫みたいに体を丸くした麻凛愛さんが既にスタンバっていた。

「あっちゃん、お前が来ちゃダメだろ」
「なる先輩頭にブーメラン刺さってる」

 そんな話をしているところに静さんもやってくる。

「ゆ、ユウく~ん今日一緒に寝ましょう」
「静さんもか、もういいよ皆で一緒に寝よう」
「皆?」

 静は既に成瀬と麻凛愛がスタンバっているのを見て、眉を寄せる。
 その顔は、なんでみんないるの~? と困っている。

「「す、すみません先生」」

 結局、静さんを真ん中にして成瀬さんと麻凛愛さんがベッドの両サイドを固める。その結果、俺の寝るスペースがなくなってしまった。

「じゃあベッド狭いと思うけど、三人で使ってくれていいから」
「ユウ君違うの、そうじゃないの」
「大丈夫だよ、俺は床で寝るから。三人いれば怖くないね」
「違うそうじゃねぇんだ」

 皆仲良しだなと思いながら、俺は床で眠りにつく。

 それから一時間後――

「ぐぅ……重い……身動きが……とれない」

 俺は、肉の壁に埋もれて身動きできなくなる夢を見ていた。
 はっとして目を覚ますと、俺の上に覆いかぶさる静さん、左右を固める成瀬さんと麻凛愛さん。三人はベッドから降りて、床に移動してきていたのだ。
 全員がっちり俺の関節をロックしており、身動きすることができない。
 静さんが寝返りを打つ度に、キングスライムがむにゅむにゅと潰れる。

「夢の原因はこれか……」

 これじゃトイレ行けないぞと思っていると、起きていた麻凛愛さんから話しかけられる。

「ユウくん」
「麻凛愛さん」
「ごめんね、今回のは先生からユウ君が一緒に寝てくれなくなったって聞いて、自分となる先輩で考えた作戦なの」
「だから急にホラーを見ようって言い出したんですね」
「先生は凄く寂しがりやだから……たまに甘えてあげてほしい」
「……そうですね」

 めちゃくちゃ世話になってるくせに一方的に親離れするのは、あんまりだもんな……。
 でも負担になりたくないって気持ちもあるんだよな……。

「ユウくんは今先生に乗っかられて嫌?」
「いえ、全然むしろ暖かくて気持ちいいくらいです」
「先生もそうなんだよ。好きな人が寄りかかってくれる方がきもちいい」
「…………」

 翌日――俺が起きたときには、皆起床して部屋に帰ったのか姿は見当たらなかった。

「なんか3匹の犬にめちゃくちゃなめられる夢見たな……」

 自分の唇に触れてみると、なんだか濡れている。
 これは俺の涎だろうか?

「ユウ君おはよう」

 エプロン姿で朝食を作る静さん。いつもどおり糸目でおっとりとしており、人妻的雰囲気が漂う。

「…………」

 俺は彼女に後ろから抱きつく。

「はぅ、ユウ君!?」
「…………」
「ど、どうしたのかしら?」

 赤面してオロオロとする静さん。歳上なのにこんなこと思うのは間違ってるのかもしれないが、可愛い人だ。
 背中越しに大きな胸の谷間が見える、これは男を狂わせるボディだ。
 腰に抱きついた腕をそっと上に上げ、胸を押し上げる。

「柔らかい」

 完全に朝食を作る手が止まってしまった静さんは、ゆっくりと俺の手を取り自分の胸へと導く。

「ユウ君、昔はずっと私の胸で遊んでたね。今はなくなっちゃったけど」
「もう高校生だからね」

 静さんの胸に触れると、彼女の体がピクリと反応する。

「別に高校生とか関係なく甘えてもいいのよ」

 ぐっ、このダメンズメーカーめ。
 甘えたら甘えた分、愛情の泥沼に引きずり込んでくる。いや、正確にはこちらが勝手に沈んでいっているだけだが。

「静さんに触りたくなっちゃうからダメだ」
「いいのよ、だって義姉弟だもの。これくらいスキンシップの範囲よ」

 そっかスキンシップの範囲なら問題ないな(洗脳済み)

「……静さん、今日も一緒に寝よっか」
「お風呂も一緒に入る?」
「…………」

 俺のシスコン度が上がった。
 麻凛愛さん、成瀬さんの給料が上がった。

1件のコメント

  • 心が潤った
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