人には誰しも教えてくれる師がいる。人生なら親、又は祖父母。勉強なら学校の先生。料理なら母親。
そんな中、もし、もしだ、自分の師が女性で、とても人懐っこい猫のような感じで自分に接して来たらどうする?
正直に言おう。男としては、「気があるのでは無いか?」と思ってしまう。
更にだ、それがくっそ可愛いロリだったら、あなたならどうする。
「今日から私が君を教える師匠だよ。これから楽しい魔法学の授業だから逃げたらだめだよー?」
■
この世界には魔法学というものがある。
魔法学は一般的に言うと魔術を人生全てをかけて追求して行くものであり、この国、シアリス王国は魔法学に優れた人材を多く排出している。
その排出される人材の多くは王立リミティウム学園の卒業生である。その中でも過去に三人だけ、異常な成績を納め卒業した卒業生がいたらしい。
だがそもそも、この三人の事は現在では都市伝説とか、ただの噂とか言われている。
リミティウス学園の生徒達はこの三人に「禁忌に触れた魔女」「未来を作り変えた獣」「世界を眠らした魔術師」という二つ名をつけた。なんとも恥ずかしい。二つ名だ。
こんなおかしな噂があるリミティウス学園に通っている俺はというと…。
筆記成績八〇七中八〇七位…ビリ。
実技成績八〇七中八〇五位………ほぼビリ。
ただの落ちこぼれである。
俺は、先生からも見放され、友人のほとんどを失った。
そして、今日俺は多分留年と言われるであろう。何故なら、現在呼び出されて、学園長室にいるからだ。
向かい合わせになっているソファには俺と学園長が腰を掛けていた。
「レイト・ラヴィ君、我が学園は自分から学園を去ることがあっても退学という措置は取るつもりはしたくないんだよ」
「学校の評判に多少なりとも響くからですか?」
「そうだとも」
この流れでだいたい今から言われる事が予測出来た。学園の成績の悪い生徒を切り捨てるってのはただの噂だと思っていたが、本当らしい。
「すまないが次の師弟実習で基準の成績を納められなかったらこの学園を中退してもらいたい」
疑いが確信に変わった。
「なら、こっちからも条件がある。もし、基準を大幅に越えた成績を納めたら………一つこちらの言う事を聞いてもらう」
学園長は唖然とした表情で黙り込む。
「好きにした前」
「話は終わりです。失礼します」
静まり返った学園長室からレイトは黙って退出した。
退出し、長い学園の廊下を歩きながら自分の置かれている状況を考え直す。
そして、ある結論に至った。
「師匠にする人に………宛がない…」
師弟実習はこの学園の創立当時からの恒例行事である。
学園の卒業生を師匠として、師匠の家で二年間共に生活しながら魔術を教えてもらうというものである。
「まーた、辛気臭い顔しちゃってえー。なんかあったレートー?」
煽るような言い方で曲がり角からひょこっと顔を出し、赤髪のアホ毛を右へ左へ犬の尻尾のように振っている少女は俺から離れて行かなかった少ない友人の一人、カルラ・エアードである。
同じリミティウス学園の二年生
「カルラ…待ち伏せしてたろ」
「さーてどうでしょー?」
無邪気に笑うこいつを俺は気に入ってる。
だが、カルラは人を苛立たせる天災である。
この前は学園長の社長椅子に転移魔術仕込みの魔法陣をつけて、椅子に座った学園長を近くの下水に転移させた。
丁度角まで来てカルラの足元を見ると飲み物が入っていたであろう空き瓶が転がっている。
「どんぐらい前からいた」
「……………三十分前」
俺の事をそんな長々と待ってくれる可愛げのあるカルラさんは俺は知らない。
「待たせて悪かった。帰りにケーキ食べに行くかー」
ケーキという単語を耳にした途端、カルラは急に目の色を変えた。
「私も行くー!おっごれー!」
「好きにしろ。奢らないけどな!」
「奢らないとこーだ!」
そう言いながらカルラは俺の腕に抱きついてきた。腕を締め付ける力が意外と強く、無理に剥がそうとすると腕が外れるかもしれない。
にしても、カルラの胸元凄く暖かい。
「どーだ?奢る気になったかー?」
「暖かい、それと邪魔」
「失礼な!私のおっぱい堪能しといて邪魔って!何事だ!」
別に堪能してはいないのだが…。
「八十一ってとこか…」
「凄!当たり!て違うわ!死ねしケーキ奢れ!」
ケーキを奢らせる事に対する執着心が強すぎる。
「はいはい、分かった分かった。離れろ」
「嫌だ」
結局、カルラが腕に抱きついている状態でケーキ屋に向かう事になった。