変更分は遊園地デートが始まって、観覧車に入るまでのシーンを加筆しました。大きな変更点はありませんが、キャラの把握ができれば思っての修正です。↓に変更箇所だけ載せておくので、掻い摘んで読みたい方はこちらを読んでください。
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「とりあえず、遊園地に来ましたけど……」
……ん?
「えとっ……デートってなにをすればいいんでしょう?」
……え?!
「その、こういうのはじめてなので……」
唐突な無計画《ノープラン》発言に『コースケ』は目を剥いたが、純粋無垢な表情で頭を傾げられた。
……もしかして、試されてる?
『コースケ』は腕を組んで、わざとらしく「考え中」のポーズをとる。結局、悩んでも答えは分からずじまいであったが、『コースケ』は一つのアトラクションを指さす。
蛇道のようにくねくねと曲がり、肉体的にも精神的にも揺さぶりをかけてきて、絶叫は免れない品物。いわゆるジェットコースターだ。
突然、デートプランを一任された者による苦し紛れではあった。
しかしながら、彼女はそれを目の前にしたとき、『コースケ』の後ろに隠れた。そして、「じーっ」とそのアトラクションとにらめっこを始めた。……あの、マコトさん?
「大丈夫、なんですか? その……ジェットコースターに食われたり、しない?」
おもわず噴きだしかける。彼女の渾身のギャグかと思った。しかし、その瞳は真剣そのものだ。話を聞いてみると、幼い頃、身長制限でジェットコースターに乗せてもらえなかったときの親の言い訳が「ルールが守れない悪い子はジェットコースターに食われるぞ」だったらしい。それをいままで信じてきたそうだ。……なにその、箱入りお嬢様エピソード。
とりあえず、誤解を解いて乗ってみた。彼女はおそるおそる座席に座る。しかし、動き出してからは、道路交通を覚えたての園児のように左右確認を何度もしていた。
……なにこのかわいい小動物、とその姿を見つめていた間に、ジェットコースターが急降下という不意打ちを食らって、本物《マジ》の絶叫をしたのはここだけの話だ。
三分後。
ジェットコースターから降りた二人の姿は乗る前と真逆のふうになっていた。マコトは「新……世界……!」と目を輝かせ、『コースケ』のほうはかるく表情筋が引きつった。最初にこれは刺激が強すぎた、と言わざるをえない。
しかし、ここで一念発起。これ以上の刺激はない、と自分を奮い立たせる。
「オムレツ好きなの?」「むかし、こっちに住んでたって聞いたけど本当?」「異性と行く遊園地はじめてで……」……いろいろな世間話を交えながら、コーヒカップ、恐怖の館、宝探しなど、アトラクションをこなしていく。
ケイジョウから盗んだ……もとい、貸してもらった手帳を頼りに、話題を振っていった。手帳には、ラッキースケベの被害に遭った人物データがことこまかく書かれていた。こんなことしていたのか……とは思ったが、その中の一人、マコトの項目は三日間の収拾量とは思えないほどびっしりだった。予習・復習はばっちりだ。これに関してはケイジョウに感謝しなければならない。
彼女もデートに慣れてきたのか、次のアトラクションを見つけては足を速めはじめた。しかし、そこでぴたっと足が止まった。
「……すみません、一人だけはしゃいでしまって」
いやいや、と『コースケ』は手を振る。『コースケ』からすれば、このデートのそもそもが不思議だった。
出会って間もない、しかも、会話もろくにしたことのない相手とデート。……こういうものは仲良くなってからするものではないだろうか?
当然なことを言ったつもりだった。しかしながら、彼女は首を傾げた。
「デートとは親睦を深めるためのもの。いままでの親密さを表す発表会ではないと思うのですが……違うでしょうか?」
こともなげに、彼女は言葉を紡いでいく。
「なので、これは、このデートは、私とあなたの親睦を深めるためのものです。私は、あなたと、親睦を深めたいと思っています」
まっすぐ、しっかりと、言葉にされた。
「それではだめ、でしょう……か?」
彼女は俯きかけながら、上目遣いで見てくる。
まぶたの裏を撫でられるようなこそばゆい感覚を覚え、『コースケ』はおもわず目を逸らしかける。……正直、半分くらいこのデートは美人局的なものを想像していた。が、今となっては美人局でも良いような気がしてきた。……自分でも単純だな、と思うが。
「それに、私には……」
彼女はなにかを言いかけて、どこか切なそうに眉を寄せた。しかし次の瞬間、くるりっと彼女は小気味よく踵を返す。まるで曇った表情を払うように。そんな顔は気のせいだったのではないかと思せるくらいに。
「次、あれに乗りませんか?」
彼女は指をさす。その先には大きな赤い車輪のようなアトラクション。俗に観覧車と呼ばれているものだった。