ちょっとだけ、私の昔話を…|ㅎ.ㅎ)
昔、山道で全く人の通らないところで、恋人と写真を撮りました。
そこからは海が見えていて、月がキラキラと反射して綺麗だったからです。
車を停め、ガードレールへと歩く。
その先は崖。
横を見ると、この道の先が疎らな街灯を揺らしています。
曲がりくねった道の先は、ほんの少し下ったところにある神社に続いていました。
ぼんやりと光る茜色が、その輪郭を私たちに教えてくれます。
私は、その色彩に、何だか不思議な気持ちになりました。
恋人は、キラキラと光る海に夢中です。
私も、彼の横顔を見て、気持ちが海だけを見つめ始めました。
静寂の向こうで、波の音が聞こえる気がする。
背中に聳える山肌からは、小さな足音が時折聞こえる。
その隙間を縫う様に、太鼓の音が聞こえてきました。
とても小さな旋律です。
それは、最初、聞き間違えかと思うほどでした。
どんどんどん、どんどんどん。
どこか、祭囃子の様に聞こえる反響に、ふと視界を横に動かしました。
目に映ったのは、先ほどの神社。
お祭りの練習でもしているのかなと想いましたが、今は夜中です。
何の音だろう…と、辺りを見渡していると、恋人も音に気付きました。
ただ、彼は、その音を奏でるものを探そうともせずに、帰ろうかと私の手を引きました。
その日、ついに音の正体を知る事はありませんでした。
あれから何ヶ月経ったでしょう。
私たちは、恋人の地元へとドライブに行きました。
穏やかな街並み、小さな寂しさの中に暖かさが溢れる商店街、畦道に咲いた花とモンシロチョウ、恋人が幼少期に遊んでいたお城、昔からあるスーパーで買ったジュース。
澄み渡る青が、少しずつ今日の終わりを詩い始めます。
助手席に座り、運転する恋人を見つめる私。
流れている曲は、彼のお気に入りの曲の一つ。
そのプレイリストは、一年前から変わらず、二人だけの空間を楽しくさせてくれます。
すっかり暗くなった道を走る車は、私たちだけです。
窓の外を通り過ぎていく、たくさんの店を見つめながら、今日という大切な宝物を噛み締めていました。
最後に、一つだけ。
そう囁いた彼の言葉に、私は頷きました。
行き先は、城下町。
お昼に見た色彩は、ライトアップの演出で幻想的に彩られています。
彼は、その側道に車を停め、写真を撮り始めました。
彼のお気に入りの車と、幻想的な城下町。
そのマリアージュが、彼の好きを詰め込んでいる様で、私も好きになりました。
何度もスマホのシャッター音を響かせる彼。
静寂に紡がれていく彼の嬉しそうな音色を見つめ、私も思わず微笑みました。
やがて、彼は、幻想的な城下町だけにレンズを向け、幾つかの場所から撮り始めました。
私は、その後を着いていき、彼が切り取る世界を見つめる。
それが、とても幸せで、ただただ静寂とシャッター音の共鳴に身を委ねていました。
その旋律に紛れ込み始めた音。
聞き覚えのある音色。
どんどんどん、どんどんどん。
私は、あの日に見た海と、茜色の神社を思い出しました。
最初は、気のせいかと想いましたが、振り向く彼を見て、確かに響いていると確信しました。
慌てて車へと戻る、彼と私。
手をかけ、開くドア。
大きくなる旋律。
それと共に、この音の正体が突きつけられました。
彼がいつも流している曲。
その重低音だけが、車から漏れていたのです。
私たちは、視線を絡ませ合いながら、思わず笑ってしまいました…|ㅎ.ㅎ)