ミサトは艶然《えんぜん》と微笑むと、結界の内側に向けて、その白皙《はくせき》の手を地へとかざした。
何かを始める気なのは分かる。
だが、その瞳に宿る昏《くら》い輝きに、俺は本能的な戦慄を覚えた。
「――いでよ、血肉の茶会」
ミサトの唇から、呪詛のような甘い声が漏れる。
直後、彼女の足元から直径十メートルに及ぶ真紅で液体のような魔法陣が滲み上がった。
それは、まるで大地が血を流しているかのようにドロドロと広がり、脈打ちながら地中へと沈んでいく。
――ゴゴゴゴゴ……。
内臓を震わせるような地鳴り。
次の瞬間、床の石畳を突き破り、せり上がってきた「それ」に、俺たちは言葉を失った。
現れたのは、椅子とテーブル。だが、それは精緻《せいち》に組み上げられた白骨の骨格に、いまだ生々しく濡れた赤黒い肉組織が美しく蛇のように巻き付いた異形の家具だった。
椅子の座面は、誰かの肉を丁寧になめして張ったかのように妖しく明滅し、テーブルの天板は、凝固した鮮血を磨き上げたかのように滑らかな漆黒の光沢を放っている。
しかし、そのおぞましい基盤の上に並べられたのは、王室の晩餐会で使われるような、純白磁に金彩が施された最高級の茶器だった。
湯気を立てる紅茶の香りと、微かに漂う鉄臭い血の匂い。そのあまりの不調和が、見る者の精神を狂わせるような美を放っている。
さらに異様なのは、テーブルの周囲を彩る庭園だった。
配置された花壇を構成しているのは、美しく仕分けられた臓物や、白く美しい指先ばかりを集めた人体のパーツ。
そして、その肉の土壌から、ひまわりのように咲き誇っているのは、大きさも形状も異なる無数の頭蓋骨だった。
あるものは笑い、あるものは絶望に顎を落とした白骨の頭部が、夕暮れの赤い残光を浴びて、まるでダリアの花園のように咲き乱れている。
夕日の赤、結界の赤、そして大地を満たす血の赤。
すべてが混ざり合う空間は、この世の終わりを具現化した地獄のようでありながら、あまりにも荘厳で、網膜に焼き付くほどに美しかった。
ミサトは、そのおぞましくも完璧な悪魔の庭園を、愛おしそうに見つめた。
そして、流れるような所作で歩みを進める。
肉と骨で編まれた椅子の前で足を止めると、ドレスの裾を揺らし、まるで本物の高貴な女王のように優雅に腰を下ろした。
しなやかに足を組み、背筋を伸ばす。
周囲を満たす凄惨な赤。狂気の家具。骸骨の花園。
その中心で、この世のすべての美を独占したかのように微笑む彼女の姿は、まさに――。
《鮮血の女王》の名に相応しかった。