城壁に近づくにつれ、胸の奥がざわめき始めた。
まず、規模が違う。
石積みの城壁は、江戸城のそれをはるかに凌駕していた。切り揃えられた巨石が幾重にも重なり、空へ向かってそそり立つその姿は、要塞というより山そのものだ。
――おいおい。
その周囲を、さらに異様な光景が取り囲んでいる。
緑や灰色の肌をした小柄な人影。
牙を剥き、粗末な武器を振り回す者。
鎧代わりの皮をまとった獣のような大男。
ゴブリン。
オーク。
そして、頭ひとつ抜けて巨大な――オーガが、数体。
以蔵は思わず立ち止まった。
城壁の上では、人が戦っている。
いや――人に似た者たちだ。
金属鎧を身に着け、顔立ちはどこか江戸で見た渡来人に近い。
必死の形相で、槍を突き出し、弓を引き絞り、眼下の人外どもへ雨のように矢を浴びせている。
怒号。
悲鳴。
鉄と肉のぶつかる音。
「……なんじゃ、こりゃ」
口をついて出た声は、乾いていた。
一瞬、思った。
――地獄に落ちたか。
斬って、斬って、斬り続けた報いか。
首を落とされた先に待っていたのが、これか。
だが。
以蔵の口元が、わずかに歪む。
「……はは」
笑いが、込み上げてくる。
地獄でも、人は戦うのか。
なら、ここは悪くない。
いや――
**己向きの地獄じゃ**
胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
思い返せば、剣を振るうたび、必ず理由があった。
師のため。
同胞のため。
尊王のため。
大義名分という名の鎖に縛られ、斬ってきた。
だが今は違う。
命じる者はいない。
守る主もいない。
掲げる旗もない。
あるのは――
目の前で血を流し、喰らわれようとしている者たちと。
剣を振るえる、この身体だけだ。
「……好きに斬って、何が悪か」
腰の刀に手をかける。
見慣れぬ拵え。だが、柄を握った感触は、確かに己の剣だった。
地を蹴る。
草が弾け、風が裂ける。
若返った脚が、獣のように地面を駆ける。
オークの背中が見えた。
――近い。
考えるより早く、身体が動く。
踏み込み。
一閃。
刃が首筋を断ち、血が噴き上がる。
叫びは途中で途切れ、巨体が崩れ落ちた。
「……ああ」
胸が、震える。
理由はいらない。
許しも、命令もいらない。
ただ――
**斬りたいから斬る**
それだけの剣。
以蔵は、笑みを浮かべたまま、人外の群れへと飛び込んでいった。
作者の一言:はい、お疲れさまでした。とりあえず、こんな感じのお話でした。人切以蔵と呼ばれた男はこの異世界でどのように生きていくのか、そんな感じの話を書いていこうかなと思ってます。まぁ、続きが気になる方が多ければの話ですが……。では、改めて、続きが気になる方は感想欄に続き希望とだけでもいいので書いてください。