目が覚めると、そこは知らない天井だった。
白い天井じゃない。石の天井だ。
しかも、薄暗くて苔むしてる。
ベッドも布団もない。硬い板の上に寝かされていた。
「……マジかよ」
俺、佐藤悠真、三十二歳。
日本の玩具メーカーで働く、ただの残業戦士だ。
昨日、いや、もう何日前かわからないけど、
終電を逃してタクシー代をケチって歩いてたら……トラックが来た。
で、気がついたらここ。
異世界転生。
ラノベで読み飽きたテンプレそのまんまだ。
とりあえず体を起こす。
手足はちゃんと動く。痛みもない。
服は見慣れない麻のチュニックに着替えさせられていた。
部屋の隅に置かれた木の椅子。
その上に、小さな布袋と水差し。
袋を開けると、中には硬パンと干し肉。
そして、一枚の紙切れ。
文字は読める。日本語じゃないけど、なぜか頭に直接意味が入ってくる。
『ようこそ、転生者よ。
お前には特別なスキルは与えなかった。
なぜなら、お前が持っている“それ”だけで十分だからだ。
楽しんでくれ』
署名はない。神様の悪戯ってやつか。
俺はため息をついた。
「……スキルゼロって、最低じゃねえか」
でも、すぐに気づいた。
俺が持ってる“それ”って、一体なんだ?