こんばんは、多紀田朗です。
いつも『帰灯 〜鉄壁の消防救助隊長の受難と帰る場所〜』をお読みいただき、ありがとうございます。
本編は昨日をもって完結しましたが、今回は『帰灯』最後の小ネタ裏話として、修平が身を置いた「結婚相談所での婚活」について、少しお話ししてみたいと思います。
本編では、修平が数々の失敗や空回りを重ねながら、お見合い、仮交際、真剣交際へと進んでいく姿を描きました。私自身も、過去に結婚相談所で活動し、成婚退会した経験があります。
もちろん、相談所の仕組みや活動の進み方は、時期、地域、年齢、希望条件、所属する相談所などによって大きく異なります。ここからは、あくまで私自身が活動した中で感じたこととしてお読みいただければ幸いです。
◆会うところまで辿り着く難しさ
結婚相談所は、登録すれば自動的に結婚相手と出会える場所ではありません。
まずはプロフィールを読み、会ってみたい相手へ申し込みます。しかし、申し込んだからといって、必ずお見合いが成立するわけではありません。私自身も、十人単位で申し込んでも、なかなか一件のお見合いに結びつかないことがありました。
プロフィールには、年齢、職業、年収、学歴、居住地、家族構成など、さまざまな情報が並びます。それらは相手を知るために必要な情報ではありますが、その人の優しさや、一緒にいる時の安心感まで表してくれるものではありません。
けれど、プロフィールの段階では、限られた情報から判断するしかない。まだ会ってもいない相手からお断りが続くと、条件が合わなかっただけだと頭では分かっていても、自分自身を否定されたように感じてしまうこともあります。
活動を始める前には予想していなかった、静かな消耗でした。
◆「正解」を探しすぎてしまう苦しさ
ようやくお見合いが成立しても、次は初対面の緊張が待っています。
失礼なことを言わないようにする。
相手の話をきちんと聞く。
服装や食事の作法にも気を配る。
自分のことも適度に伝える。
そう考えるほど、「何を言えば正解なのか」「どこまで話してよいのか」と分からなくなっていきます。
修平が沈黙を選んだり、減点されないプロフィールを作ろうとしたりする姿には、私自身の活動中の感覚も少し重ねています。
ただ、婚活は試験ではありません。
失言をしなければ合格できるわけでも、完璧に振る舞えば相手から好かれるわけでもありません。一方にとって魅力的な部分が、別の人には合わないこともあります。誰かが悪いのではなく、生活の感覚や、会話の間、将来についての考え方が違うこともあります。
それでも活動中は、交際終了のたびに「自分の何がいけなかったのだろう」と考え込んでしまいます。修平が婚活を報告書のように分析していたのも、不器用な彼なりに、次は同じ失敗をしたくないと考えていたからです。
◆並行して関係を築くことの難しさ
結婚相談所では、仮交際の段階で複数の方と並行して会うことが認められている場合があります。
一人と会った翌日に、別の方と食事をする。その間にもメッセージを送り、次の予定を調整する。
選択肢を早く狭めすぎないための仕組みではありますが、実際に活動している側にとっては、時間的にも精神的にも大きな負担になることがあります。
休日がすべてお見合いやデートで埋まり、帰宅してからもメッセージの文面を考える。相手を雑に扱いたくはない。しかし、自分自身にも余裕がなくなっていく。
第7章で修平が一日に複数のお見合いを入れ、最後には巨大な彫像のようになってしまった場面も、かなり極端に描いてはいますが、こうした活動の疲労が下敷きになっています。
◆条件から始まる出会いに、感情を育てること
結婚相談所での出会いは、最初に互いの条件や結婚への意思を確認したところから始まります。そのため、出会った瞬間から恋愛感情が生まれるとは限りません。
「良い人だと思う。でも、まだ好きかどうかは分からない」
そんな気持ちのまま会い続けることもあります。これは、相手に魅力がないという意味ではありません。短い期間の中で、自分がその人と暮らす姿を想像できるのか。不安や弱さを見せられるのか。意見が違った時にも、話し合っていけるのか。
そうしたことを、少しずつ確かめていく時間なのだと思います。
費用や時間をかけて活動しているぶん、「早く答えを出さなければ」と焦ることもあります。しかし感情は、計画表の通りには育ってくれません。良い人だから好きにならなければならない、というものでもありません。好きになれなかったから、どちらかが悪いわけでもありません。
この「誰も悪くないのに、前へ進めないことがある」という難しさは、知美との関係を描くうえでも大切にした部分でした。
◆分析と改善だけでは届かないもの
私自身、活動を通して、自分の伝え方や相手との向き合い方を見直すことは大切だと感じました。
相手の話を聞くこと。
自分の希望だけでなく、不安も言葉にすること。
うまくいかなかった時に、同じことを繰り返さないよう振り返ること。
ただし、努力すれば必ず誰とでもうまくいくわけではありません。改善できる部分と、相性として受け入れるしかない部分は、別のものです。
修平は、失敗するたびに原因を分析し、行動を修正していきました。きっと彼なら、お見合いの申込件数、成立率、会話が途切れた回数まで表にまとめ、相川さんへ提出しようとしたことでしょう。
そして相川さんから、
「高村さん。人の気持ちは活動報告書では測れません」
と、静かに差し戻されていた気がします。
修平に本当に必要だったのは、完璧な会話術だけではありませんでした。
自分も幸せになりたいと認めること。
仕事への怖さを相手へ委ねること。
かっこ悪い自分を見せること。
そして、相手の不安を正しさだけで片づけず、一緒に抱えること。
それらを少しずつ覚えた先に、奈緒と駿との関係がありました。
結婚相談所での活動は、私にとって決して簡単なものではありませんでした。けれど、最初は条件から始まった出会いでも、会話や日々の積み重ねを通して、その人にしか向けられない愛情へ変わっていくことがあります。
それは「必ずそうなる」ということではありません。だからこそ、そうした相手と出会えたことは、当たり前ではないのだと思います。
修平という不器用な男が、何度も転びながら、最後には一人で正解を探すことをやめ、誰かと一緒に考える道を選んだ。その奮闘を最後まで見守っていただけたことを、嬉しく思います。
『帰灯』の小ネタ裏話にも、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
それでは、また!