善を差し出す掌の裏で
刃は音もなく研がれている──
祈りに似た囁きは
傷を塞ぐためではなく
人の記憶と居場所と役割を
より美しく、より従順に
縫い替えるために沈んでゆく
護ることと奪うこと
慈しみと支配
その境は夜露より脆く
月光に触れただけで形を失う
やさしさの顔をしたものほど
深く喰い込み
救いの名で差し出される手ほど
逃れがたい
沈黙はやがて服従に変わり
微笑みはゆるやかな拘束へ変わり
善意の衣は知らぬ間に血の温度を孕みはじめる
白く静かな気配の下で
世界は少しずつ
誰にも気づかれぬまま
戻れない方へ整えられてゆく──
紅蓮の嚮後 〜桜の鎮魂歌〜
第17章【誰が為の善】
第211話 定義無き境界線〜より
https://kakuyomu.jp/works/16818622175686771533/episodes/16818792436229485430
章題イラスト
ながいも🥔 様 (@NagaimoSasiEshi)