みなさんはチョコいくつもらえました?
私? 私はね……。
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最近のセシリアはテレビの使い方を学んでいる。
今日もニュース番組の映像を食い入るように見つめていた。
「何か面白いものでもあったか?」
そう声を掛けながら番組を覗き込んでみると、何やらバレンタインデーの特集を組んでいるみたいだ。
セシリアは、音声であれば聞き取れるが文字は視覚から読み取れない。なのでどういうテロップが表示されているのかイマイチ分かっていないのだろうが、「恋する女の子のバレンタイン!」やら「想い人に贈るのにオススメのチョコ菓子第一位は!?」みたいな映像がテレビにはあって、それをまじまじと見つめている姿は、なんというか、かなり、居心地悪くなるような光景でもあった。
なんだこれ。
「タクヤ殿! この世界には、ばれん、たいん、でい……なるものがあるようです!」
「そうだな」
「私もタクヤ殿にチョコを贈りますよ!」
またこいつはこういうことを言って……。
正直母チョコや妹チョコと同レベルには感じる。これは俺の感性が悪いのかもしれない。
……………。
まあ、誰かから受け取ったような経験なんて、俺にはほとんどないわけで。
気持ちは嬉しいが、
「お前、チョコ買って来れないだろ」
「な……」
わなわなとショックを受けるセシリアがいる。
その通りなのだ。残念ながら、何が起こるか分からないので彼女には単独行動を禁じている。
それには彼女も了承済みで、俺がそういうと簡単に引き下がった。
「……このお家にはチョコはないのですか?」
観念したセシリアは次に上目遣いでそう聞いてくる。……だいたい、考えていることは分かるのだが、はて。
それで満足するならいいかと思い、素直に、家の冷蔵庫のなかに保管しているア○フォートの在処を教えた。
いそいそとセシリアが室内を移動し、ぎこちなくも冷蔵庫の扉を開け、なかからそれらしきものを取り出す。
ご機嫌よく帰ってくるセシリアが、俺の目の前に立って、両手いっぱいの個包装菓子を差し出した。
なんか、フリスビーを飼い主へ持ち帰る洋犬……。
「はっぴーばれんたいんです! タクヤ殿!」
「……ありがとう」
こんなにはいらないけども。
渡してくれるんだろうなとは漠然と思ったけど、いざ渡された、どっさりとした贈り物にはついつい俺の頬も緩む。俺が以前買った菓子なのは変わらないが、そこにはセシリアの真心が加算されているわけで。
「ハッピーバレンタイン。セシリア」
こう返すのが正解かも分からないが、セシリアの満足げな笑顔を見ていると、(これはこれでいいか――)なんて、ささやかな幸せを享受するみたいだった。