悪役転生の最新話、「062 選択」で様々な意見を頂くことができました。
今後の糧になるだろうという貴重なコメントが多く、お礼という形でSSを書かせていただきました。
あくまでも本編には関係ない『if』感覚で見て頂けると幸いです。
変更点は近況ノートに記載しておりますので、お目を通して頂けると幸いです。
今後ともよろしくお願いします(^^)/
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「これなら……どう、でしょうか?」
「悪くない。でも、その場合、このあたりが手薄になるわ」
ノブレス魔法学園、図書室。
王立図書館ほどではないが、多くの書物がこの部屋に保管されている。
その一角、四人掛けの席で、シンティアとセシルが、バトル・ユニバースを指していた。
といっても、真剣勝負ではない。
シンティアは初心者で、セシルは超がつくほどの上級者だ。
きっかけはシンティアから。
『セシルさん、一局お願いできませんか?』
その理由は、厄災時のセシルの見事な手腕に驚いたから。
もちろんシンティアもバトル・ユニバースの事は知っている。
セシルが、その世界王者だということも。
だからこそユニバースを通じて交流を図り、そして戦い方を学ぼうとした。
「ではこちらは?」
「さっきよりは良いと思う。でも、それだとこの騎士が浮くでしょ? 魔法使いは攻撃範囲が大きい、だからそれをうまく使うのよ」
指導局、といっても、シンティアからすれば遊びではない。
他人から見れば微笑ましいかもしれないが、バトル・ユニバースは騎士や軍師の間でも戦いの練習として使われることが多い。
強くなりたければバトル・ユニバースをやれ、そして上手くなれ、それは、この世界での格言である。
それをセシルは厄災で示した。彼女の名前は、今学園で一番知名度が上がっているともいえる。
「これは……七手目で私は積みでしょうか」
深く考えこんだ後、シンティアが悲し気に言った。
セシルは頷き、そして静かに笑みを零す。
それは愉悦からきたものではなく、シンティアの成長速度に対しての喜びだ。
まだ数十局しか指していないというのに、予測に関して目を見張るものがある。
思えばヴァイスもそうだった。一局を終えるたび、ヴァイスは凄まじい成長をしていた。
ヴァイスとシンティアが被る。そして、婚約者同士だと知っているからこそ笑う。
ああ、似た者同士、そして、凄い二人だと。
「シンティアさん凄いよ。有段者でもそこまで読めない人は多い」
「それは褒めすぎですわ。私はもっと強くなりたいです。セシルさん、良ければお時間があるときは、申し訳ないけれどお願いできませんか?」
「もちろんよ。私はバトル・ユニバースのお誘いなら、三日間不眠不休でも大丈夫。何だったらご飯もいらないかも」
まさかそんなご冗談を、とシンティアが言いかけるも寸前で止まる。セシルの表情は真剣そのものだった。
それもそのはず、セシルにとってそんなことは日常茶飯事だった。
幼い頃、父や母が止めないと彼女は駒を動かすことをやめなかった。
今でこそ落ち着いたが、バトル・ユニバースの合間にご飯を食べる、バトル・ユニバースの合間に眠る、というのが、彼女にとっての日常生活だった。
今日は午後で授業が終わり、ヴァイスは訓練室に籠っている。リリスは座学の予習。
時間はたっぷりある。
シンティアは、事前に用意していたお弁当を出す。
もちろん、お水とお茶も。
「流石にそれは悪いですわ。でもセシルさんが良ければ、ここで夜までどうですか? もちろん、ご飯はしっかりと食べて」
「ふふふ、嬉しいお誘いね」
二人は言葉通り、何十時間もバトル・ユニバースをプレイした。
ノブレス魔法学園の図書室には閉館はない。。
深夜、早朝、常に空いている。
それもあって、夜中になってふと気づく。
ああ、もうこんな時間だと。
当然、シンティアから声をかける。
「セシルさん、遅くまでありがとうございます。そろそろ終わりましょうか、本当に楽しかった。そして勉強になりました」
「あら、もうこんな時間なのね。いえ、こちらこそ」
「初めは教えてもらうだけのつもり、勉強のつもりだったけれおd、気づいたら、ただ楽しくなっていたわ」
シンティアが褒めたのはユニバースのことだが、セシルにとっては自分が褒められるよりも嬉しかった。
満面の笑みを浮かべ、シンティアの手を掴み――。
「そうだよね!? 面白いよね!? 嬉しいなあ! こうやってバトユニ仲間が増えると、凄く嬉しい! あ……。ごめんなさいっ! んか、熱く語っちゃって……」
普段は物静かなセシルが前のめりに興奮していたことに、シンティアは驚いた。
だが数秒後、ふふふと笑う。
「いえ、私も本当に楽しかったです。それに、とても勉強になりました。今まで私は、身の回りのことしか考えていませんでした。それを厄災でよく理解したのです。私もいつか、セシルさんのように全てを見通せるようになりたいですわ」
「そんな……。ううん、私は自分がなぜノブレスにいられるのかもわからないくらい弱いから、シンティアさんが羨ましい。でも、そう言ってもらえて光栄だわ。シンティアさん、ありがとう」
「こちらこそ」
たった一日、いや半日ですらないのだが、二人の絆は固く、そして強くなった。
「シンティアさん……そういえば最後に聞きたいことがあるんだけど」
「どうしましたか?」
セシルは、口ごもりながらシンティアに尋ねた。
「ファンセントくんって、なんで悪人って言われたんだろ? 正直、私にはそう思えなくて」
セシルの問いかけに、シンティアも考え込む。
初めて会った時、ヴァイスから間違いく悪を感じた。
だがパーティーで出会った時は、まるで別人のようにも思えた。
自分だけではなく、リリス、ゼビス、ミルク、大勢がそう思っていることを知っている。
「……変わったんだと思います。でも、変な話ですが、たまに別人が乗り移ったんじゃないか、なんて思うこともありますわ。まあ、ありえないんですけど」
「シンティアさんにこんなこというのもあれだけど……実は私もその可能性があるかなって思ったんだよね」
「「え?」」
二人はじっと顔を見合わせ、そして――笑う。
「あはは、なんて、ありえないよね。シンティアさんごめんね、また明日」
「うふふ、そうですわね。ありがとうございます。セシルさん」
二人は笑顔でその場で分かれ、そして歩き出す。
その数秒後、頭に再び浮かび上がる。
『『別人が乗り移るか……』』
なんて、ありえないか、と自問自答しながら、部屋に戻るのであった。
一方、同日、同時刻、訓練を終えて湯に遣っていたヴァイスは――。
「くちゅん……。誰か俺の噂をしてたか? まあでもこの学園なら当たり前か。クックック、明日は誰を叩きつぶそうかなあ」
真実に近づいているかもしれない、なんて、知る由もないヴァイスであった。