悪役転生の最新話、052 念願で様々な意見を頂くことができました。
今後の糧になるだろうという貴重なコメントが多く、お礼という形でSSを書かせていただきました。
あくまでも本編には関係ない『if』感覚で見て頂けると幸いです。
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タッグトーナメントが無事終わった後も、俺とカルタは秘密の特訓を重ねていた。
今日も放課後、訓練室で飛行訓練と魔法特訓だ。
あいつの為だけじゃない、これは俺の為でもある。
だが遅いな……。
もう来てもいいはずだが――お、来たか。
……ん? あいつ何を抱えてやがるんだ?
テクテクと走って――あ?
「にゃおん」
……猫?
「ご、ごめんねヴァイスくん!」
「ああ、てか、何してんだ?」
「猫……拾っちゃった……」
「にゃおん」
いや、そんなことはわかっている。
そうじゃなくて、なんで猫がいるってことだ。
つうか、ノブレス・オブリージュに猫なんたいたっけか?
まあでも、実際にいるんだから考えても仕方ないか。
「それは見てわかるが……特訓はどうするんだ」
「え、ええと……端っこで猫ちゃんに待機しててもらう……なんてできないよね。逃げちゃうかもしれないもんね」
「そうだな。……てか、ご飯はやったのか? 猫は胃袋が小さい。腹が減ってるかもしれねえだろ」
「……そうかも」
ったく。何もわかってない奴だな。
「ちょっと待ってろ」
「え? あ、う、うん」
食堂はそう遠くない。
猫が食べられそうなものを見繕って持っていくと、豪快に食べはじめる。
「にゃおにゃおん、もぐもぐもぐ」
「わあ、やっぱりお腹空いてたんだね。さすがヴァイスくん!」
「……ま、腹は誰でも減るからな」
俺は強くなりたい。その為には特訓しなきゃならない。
それも早くにだ。
急いでるが、猫に罪はねェ。
……ああ、お前も可愛いものが好きなんだな、ヴァイス。
「にゃおん」
食べ終わった猫は、俺の足にすりすり。
……ふん。
「え、ええと……今日の特訓――」
「今日はなしだ。だがノブレス学園内はペット禁止だったはずだ。どこで見つけた?」
「それがわからないの。気づいたら道の端っこにいたんだよね」
門は固く閉ざされている。
近くに森はあるが、猫が気軽に立ち入れるような生易しいもんじゃない。
こう見えて魔物か? いや、どうみても猫だな。
誰かに相談してみるか。
ミルク先生……『猫だと? どこから侵入した? 遠隔の可能性もある。叩き切る』
そこまではしないないだろうが、可能性はゼロじゃない。危険度40%
クロエ先生……『猫ですか? 侵入経路を洗い流すので記憶を確認してみますので、解剖してみま(ry』
駄目だ。あぶねえ。危険度60%
ダリウス先生……『猫!? 猫か!? かわいいな、かわいいぞおぉ! よし、俺が家で飼おう!』
……ダリウスだ。あいつしかいない。
「よし、ダリウス先生に相談しよう」
「え? 猫好きかなあ?」
「ああ、間違いない。俺のシミュレーションの結果だとそうだ」
「シ、シミュ?」
カルタが首を傾げる。だがその時、後ろから声を掛けられた。
気配は一切感じなかった。
だがそんなことができるのは、ただ一人――。
「あら、こんなところにいたの」
慌てて振り返ると、立っていたのは、銀髪のストレートヘア、透けるような乳白色の肌、エヴァ・エイブリー……先輩だ。
……ん? こんなところにいたのってのは?
「にゃんころりん、ほらおいで」
エヴァが声をかけると、猫はテクテクと寄っていく。
そのまま抱きかかえられると、大人しくなった。
「あ、エヴァ先輩の猫なんですか!?」
「カルタちゃんが見つけてくれたのね、ありがとう。そう、私の大事なパートナーなの」
エヴァは特別個室に住んでいるが、猫は禁止だ。
猫アレルギーはこの世界に存在していなかったので、問題があるわけではないが、学園のルールとして。
まあだとしてもエヴァに咎める奴なんて誰もいないだろうが。
「ヴァイスくんもありがとね」
「い、いえ。さっきご飯あげたので、今日はもうなくてもいいかもしれないです」
「ふふふ、ご丁寧にどうも。あら、特訓をしようとしてたの? だったら、私も混ぜてもらおうかなあ」
そんなエヴァの言葉に、カルタはぶんぶんと首を横に振る。
過去、訓練室でエヴァに手ほどきを受けた人がいるのは伝説的な話だ。
その人はとても強くなった代わりに、人の心を失ったとか。
……まあ、強くなれるならいいかァ?
いや、なしか。
「先輩に甘えすぎるのもよくないので」
「そう、じゃあね。ヴァイスくん、カルタちゃん」
「にゃおーん」
俺がそういうと、エヴァは去っていく。
嵐ではないが、嵐が去ったような感覚だ。
だがまあ、これで一件落着。全て解決だ。
「ふう……びっくりした」
「……だな。ま、でもこれで何も問題ない。特訓を始めるぞ、カルタ」
「う、うん!」
「返事は、はいだ」
「はい!」
――――
――
―
エヴァ・エイブリーの自室。
「ふんふん、それでそれで?」
「エヴァに負けたことが悔しくて、特訓をしてみてるみたいだニャン」
ベッドで横に寝ころびながら、猫と対話しているのは、エヴァだった。
猫の額には魔術の印象が刻まれており、エヴァが使役した超上級魔物である。
だがそれを悟らせないほどの擬態能力に優れていた。
「可愛いわねえ、下級生たちって健気だわあ」
「可愛いニャンねえ。そういえば、中級生のグリスが、エヴァの悪口をいってたよ。あの魔力バカはほんとめんどくさいってニャン」
「あら……グリスね。教えてくれてありがとう」
ちなみに今の姿は猫だが、自由に姿形を変えることができる。
エヴァは地獄耳、だがその真実は誰にも知らない。
もちろん、ヴァイス・ファンセントでも。
「ほら、ご褒美よ。美味しいメロメロン」
「ありがとニャンッ! エヴァと一緒にいると幸せしかないニャーン」
「うふふ、私たちはいい『パートナー』ね」
ノブレス学園でもし猫を見つけたら、そっと愛でるだけが……いいかもしれません。