私の『家』とは何処か。別に建物に拘らなくとも、地域が『家』と呼べるのでは。そこから地域愛は育まれる……のかもしれない。
こんななんちゃって哲学が浮かんだのも、美味しすぎるお菓子を久しぶりに味わったからです。お菓子万歳。
目の前にある箱を見て、正確には中身を見て、私は息を飲みます。こんな事があって良いのでしょうか。信じられません。私の前に、自由に食べても良いと税込1,728円のお菓子達が整然と並んでいるのです。『THE DROS』のアソートボックスSが置かれているのです!
これは夢か幻か。いいえ、これは紛れもない事実。早い、早すぎる。心の準備が間に合っていません。
ドキドキとする心臓を抑えつつ、熱を持つ指先がフィナンシェの包装に触れます。なんと耽美、何という威厳! これはお菓子ではなく芸術品だったのでしょうか。いやいや私、貴方は今からこの芸術を口にするのです。
包装を開けた途端に立ち昇る、重みすら感じる重厚な香り。チーズにローストされたナッツ、蜜とバター。控えめですがアーモンドの香りもある気がします。最早これだけで気圧される勢い。なのに脳は早く口にするのだ、と気を急かします。
ゆっくりと、前歯がフィナンシェの端を齧りました。
風吹く草原と色とりどりの花畑、雄大な山脈と降り注ぐ陽光。ああ、これこそ至福のとき。
詳しい感覚は書き出せません。私の文章力では力不足。ただ食べればわかります。
舌と喉を広大な宴へと連れて行く味、否、マリアージュ。喉を通り過ぎても終わらない、香りの余韻は大笛の調べ。
こ、これはいけない……! 罪悪感すら抱く壮大な刺激は、とても今日中に食べ尽くすことを許しません。
信じられるでしょうか。このボックスにはフィナンシェだけでなくクッキーまで収められているのです。どれだけの景色、どれだけの物語が、この小さな箱に詰まっているのでしょう。身震いします。
箱から取り出した一つを味わった後、私は蓋を閉じます。とてもではありませんが、これは私一人が欲望趣くままに食べ尽くせるものではありません。他者と分け合わなければ私が耐えられないのです。
そんな慄く私の前に、新たなる箱が飛び出てきました。な、なんと、Mary,s のミルフィーユ!? しかも和栗ですと!?
参りました。みんなでワイワイ食べるのが一番です。だから取っておきましょう。
今日の真理。重すぎる感動は、一人では持て余します。
皆様も是非食べてみてください。まさに『物語』そのものといったお菓子です。生産者、企画者、製造者の方々、誠に感謝申し上げます。
親しい人に手渡せば、好感度は鰻登りですよ。