明るい話にしたいので没にした下り
――――――――――――――――
「依然…消息はつかめず。か」
「その方がいいかもしれません。報告例が出れば閉鎖区域が拡大し
出現頻度か高まればハンターの士気にかかわります」
カージテッドやワークホリット含む至徒と呼ばれる存在はあれから雲隠れしたように発見が難渋《なんじゅう》している。
為政者の重鎮たる男とその部下は机を隔て報告をしている。
発見次第始末する。という事の目途が立たぬ今鬼のいぬまに洗濯ならぬ至徒のいぬ間に経済のレートがインフレーションを起こしている。
それは単純に被害の出ぬうちに資源を独占していたいからであり国専属のハンターを奔走させ必要な素材を確保し高額で売買。
日本以外に至徒が出現しないよう諸外国が日本との接触を避けているからだ。
故に日本の円安は沼の様に底なしに低下し右肩下がり(デフレーション)が収まることはない。事態は悪化の一途をたどるばかりだ。
トップランカーは世界でも指折りの実力者でありそのトップが敗北に喫し昏睡状態にあるというのは日本の信用を失墜させるには十分だった。
そして交易自体もひとえに日本のハンターが優秀だったからでありそれがなくなれば交流する理由《メリット》もない。
日本人の画期的な発想と想像力。それにより日本独自のダンジョンには日本にしかない希少な素材が採取ないし交流を絶つことで日本のポップカルチャーや伝統文化に触れられないのはデメリットであるが
それ以上に至徒に太刀打ちできる人材が乏しいというのも事実。トップランカーを超える人材はいないわけではないが至徒打倒に割くのは愚策と判断したからだ
日本に戦略核が落とされないのが温情と言えるほどに危険視されながらも
恩赦によってダンジョンを破壊されないという状況にある。
「まったく…安保条約はどうなっているのだ…」
「見事に破約されてますね…。立ち回りが早い」
市場《しじょう》のインフレと日本のデフレの要因はそれだけに収まらず
ハンターによる違法の横流しによる流通も確かな要因と言える。
ハンターライセンスがある以上権利と特許は確かでありライセンスを持ったハンターがハンティングをしてはいけない理由はない。
彼らが確保した資材を違法抵触《グレーゾーン》ギリギリで行使し
日本への違法入国や独自の素材の売買を個人で行っている。
本来ならライセンス剥奪事案であるが黙認されているのは外国との交流を完全に絶てないからであり日本は他国との交易で国を保っている立場にあるからだ。
完全な鎖国状態になれば他国の援助なしに国を維持することになり
至徒がいる危険な中ダンジョンで資源採掘をしなければならず
それによって日本は長くとも5年は国を存続させるのが限界とされる。
故に国同士の交流は必要不可欠であり日本側の要求が飲めず接触を他国が避けている状態ならば生殺与奪は外国が持っていることになる。
要求できる立場は海外側にありアメリカなどは日本との交流がなくとも国を持続させるほどの資材に軍事力とコネクションを持っている。
だからこそ関心を引く要因として横行するハンターの個人営業を黙殺するという判断は愚かであり泥沼であることは承知であるがそれ以外に方法はない。
弱小国家という身分故に気に入られなければ飼い殺しさえされない状態にあるのだ
そんな事態を収拾しなおかつ信頼回復する手立てを思索しているが
その唯一の方法が至徒打倒という《《不可能に目をつむらなければならないが》》
「裏で行われていた改造人間の資料はどうなった?」
「全部資料実験器具ともにきれいさっぱり処理されてます。国の汚点ですからねぇ。抹消したかったと思いますよ」
「今となっては唯一の打開策だというのに、間が悪い…!!検挙した関係者は?」
「彼らの釈放は完了しています。情報統制しているとはいえバレなきゃいいんですがね」
「なりふり構っていられる場合ではない…!汚名は後で濯げばいい。今は国の存続がかかっているのだ…!!」
確かに。復興のためならば多少のことは許されるだろう。
だが倫理面に問題がある人体実験という事実は歴史から消すことはできない。
未来永劫背負うべき汚名と受け入れる覚悟に政府はある
「女神の捜索は…っ!」
「駄目ですね…。未だに消息がつかめません
頼りにしていたドイツのハッカーも今では頼れませんからね」
「ほかに良い情報はないのか!!!」
激高と共に当たり散らすもその行為はただ空しく空気を震わせ消えゆくのみだ