本編から引っ越ししました。
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ロランは、ネオンライトがちりばめられた酒場のカウンターで一人、酒を次々と口に運んでいる。彼が飲んでいるのは、ストレートのハイプトニック、アルコール度数30度のかなり強い酒だ。
「マスター、この若者と同じものを、彼にもおかわりを」
痩せた男がバーテンダーに向かって腕輪型端末を掲げると、端末からはチリンという電子音が鳴った。
男がロランの隣に座ると、柔和な笑顔を向けた。
「お兄さん、結構飲んでるね」
バーテンダーは手際よく酒を用意し、カウンターに音もなく置いた。
琥珀色の酒の中で氷がカランと音を鳴らす。
「星界に!」
痩せた男はグラスを掲げ、乾杯を提案する。そしてロランの返事も待たずにグラスの中身を一気に飲み干した。
「くぁ~~~効くなぁ、ずいぶん強いのを飲んでるんだね」
ロランは最初、この男を警戒するようににらみつけていた。しかしタダで酒が飲めるのなら、と考えを改める。
「まぁね」と小さく返事をして、乾杯を返す。
「星界に」
「いやぁ、最近は景気が良くてねえ。懐が潤っているんだよ」
「ふん……羨ましいね」
「いやいやお兄さんもその若さで宇宙船持ってるんでしょ、すごいよね~……」
「若い奴がいないわけじゃないんだ」
ロランはブスッとした表情のまま答えた。
「そんなことないよ、20代くらいだろ?凄いねえ。特にお兄さんはボンボンて感じがしない、のし上がってきた感じがするよ…………」
痩せた男が薄く笑い、ロランの腕輪型端末をちらりと見た。
そしてロランの態度を気にすることなく話を続けた。
ロランは初めはぶっきらぼうにしか返事をしていなかったが、痩せた男の話に引き込まれ徐々に口数を増やしていく。痩せた男は、若くして星系間輸送業を営むロランを熱心に褒め称え、ロランはそれに気を良くして、以前の依頼を失敗した話を始める。
「宇宙アメーバなんて、4年も輸送やってて一度も会わなかったぜ、ビギナーズアンラックだ」
※ビギナーズアンラック、初心者を脱した直後に見舞われる不運のことを指す。
気を良くしたロランは酒が進み、舌が空回ったところで痩せた男に次の依頼の内容を漏らしたのだ。すると男は宙賊が居ないとされる穴場の航路図の購入を持ち掛けけてきたのだ。
「へえ、実はそんなお兄さんに良い話があってね……」
痩せた男はニヤリと薄笑いを浮かべる。
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