祖父の形見の金貨を売りに行った。
こう書くと、なんだか私が不孝者のように思われるだろうが、実際に売ろうとしたのは母である。私はただの随伴者であった。だから、どうか私のことは責めないでいただきたい。
母方の祖父は、奇妙なほど投資に夢中になる人であった。株券やら、不動産やら、そして金貨や銀貨。祖父にとっては、どれも遊戯の延長だったにちがいない。けれど死んでしまえば、残された者には、ただの換金可能な金属片にすぎなかった。無念なことだ。いや、むしろ当然か。人の情など、相場には影響を与えない。
市内には買取屋が二軒ある。母は、その両方へ足を運んで、どちらが高く値をつけるかを見極めるつもりでいた。冷静で、残酷なまでにシンプルなやり方である。
最初に訪ねたのはW店。出てきたのは三十代のスーツ姿の男で、にこにこと実に愛想が良かった。だが、その笑顔の裏に、どうにも油ぎった欲望の影が透けて見える。彼は銀貨を鼻で笑い、銀行へ持ち込めと突き放したが、金貨には途端に目を輝かせた。「一枚三十万ですね」そう告げたあとで、胸を張り、「うちは一番高いんです。他にも行ってみてください。きっと分かりますよ」などと明るく言う。愛想よく言えば言うほど、こちらの警戒心を和らげられると思っているらしい。私は、その軽やかな笑みに、逆に薄ら寒いものを感じた。
次に訪ねたK店では、四十代ほどの女性がボーダーの服姿で応対した。素朴で、商売気もあっさりしている。そして金貨一枚、三十一万と値をつけた。
所詮、世の中とはこの程度のものである、と私は妙な納得と、どうしようもない寂しさを覚えた。祖父の形見も、値札をつけられてはブランコのように揺さぶられ、三十万から三十一万へと揺れるだけの、ただの金属片に過ぎなかった。