僕はいつも通り放課後、校内に仕掛けたカメラを確認する。
AIを搭載し、シャッターチャンスがあれば僕に通知がいく。
「シャッターチャンスです」
左耳につけたイヤホンから声が聞こえる。映像を確認し、僕はいつも通りシャッターを切ろうとした。
なんと。
女子生徒が校舎の窓から飛び降りようとしていた。
何がシャッターチャンスだ。普通に大ピンチだろ。
僕が比較的現在地から近かった現場に駆けつけると、唖然として立ち尽くす風紀委員たちがいた。
「……何事?」
「鏡谷先輩、今、映画同好会のリーダー、2年生の浅草美記がそこの窓から飛び降りました」
浅草美記は知らないけど、映画同好会のリーダーなら知っている。
規則に抗う人物だと。
でもここ、3階だよ。恐怖心とかないのか?
「彼女は大丈夫なのか?」
「それが俺が覗き込んだときにはいなかったんだよ……」
3年生の風紀委員も言う。
「僕のカメラで確かめようか?」
「不本意だけど……頼む」
部室に戻って風紀委員と共にカメラを確かめる。
「……あっ」
「いたの?」
中庭を歩いていた少女。彼女こそが浅草美記らしい。
しかも、彼女のそばには走り高跳びなどに使うクッションを持った生徒もいた。
「……やられたみたいだよ」
「分かってる。まさかこんなことになるなんて……」
「浅草さんはこういうことするタイプ?」
「こういうことするかどうかは予想できなかった。ただ彼女はいつも想像を上回ってくる」
ふむ。通常営業というわけか。
「今から追うの?」
「そうだけど」
「僕に任せてよ。君たちが行ったら逃げるだろうけど、僕なら穏便に収められる自信がある」
「……分かった」
風紀委員から許可をもらい、僕は浅草美記に会いに行った。
「こんにちは」
「鏡谷先輩?」
「初対面だよね?」
2人の他メンバーを連れた彼女は、純粋に首を傾げる。僕こそ、なんで名を知っているのか聞きたい。
「鏡谷先輩は有名人ですよ。そんな先輩がどうして私たちに声をかけたのかは分かりませんが」
「君が校舎の窓から飛び降りたのが見えたものでね。なかなか危ないことをするね」
「……あれは演出ですよ、風紀委員の追跡を撒くために校舎から飛び降りて颯爽と逃げ切る。そういうシナリオですから、怪我はありません」
「なるほど」
映画同好会会長。その肩書は伊達じゃないらしい。
「それならよかった。じゃあ、僕はこれで失礼」
思った以上に面白い子が2年生にまだいたようだ。
部室に戻ると、風紀委員が待っていた。
「逃げられてしまった。僕が風紀委員の協力者だと察したのかもしれない」
「本当に?」
風紀委員の1人が僕に尋ねる。
「やだなぁ、僕はいつだって風紀委員に従順でしょう。撮った写真も全て、貴方たちに引き渡している」
「……まあ逃げられるのはいつものことだからいいか」
「先輩!」
諦める3年生に、まだ捜索したいらしい2年生。
「いざという時は強制的に捕まえるだけだ」
……やっぱり風紀委員って職権濫用がすぎるよな?
「部長、さっきの人は?」
「鏡谷透。3年生の写真部部長。学校中にカメラを仕込む、盗撮魔で有名な人だよ」
「あの人が!?」
正直私も実際に会うのは初めてだったけれど、温和そうだった。とても盗撮魔には見えない。
いいギャップだ。
「風紀委員に協力してるって噂だけど……あの場で何も言わなかったってことは、逃がしてくれたのかな?」
「確かに風紀委員が追ってくる気配もないですし、普通に言葉を交わしただけでしたね」
「あの人が私を見てるってことは、巻き込……シナリオに入れられそう」
鏡谷透。西園寺先輩の協力者であり、風紀委員にも協力するふりをしている二重スパイ。
「滾るねっ……!!」
風紀委員が写真部から去って、他の部員と僕は言葉を交わしていた。
「部長今度は何したんですか?」
「いや、風紀委員から頼まれごとをして手伝ってたんだ」
「ホントですか?」
「ホント、ホント」
各々自分が撮った写真整理をする部員たち。
「そういや、浅草美記って知ってる?」
「浅草さん?」
「知ってる?」
「隣のクラスだし知ってます。ちょっと変わってるけど大人しい人ですよ」
大人しい。3階から飛び降りるような人が?ますます興味が湧いてきた。
「今度写真撮らせてもらおうかな……」
「撮らせてくれますかね?」
「うーん、でも、上手く丸め込めばやってくれそう」
少なくとも撮られるのが嫌いなわけではないだろうし。
「彼女はきっと、画になるよ」