カクヨムコン11の受け付けが始まるまで、残すところおおよそ半月になってきました。そんな忙しない季節も遂にやってきたわけですが、いよいよ拙作『エレメンタル・ライフ』は第2章の終結が見えて参りました。
さて、前回の連載では「遷移する。」と題して、物語の主体をレアアースからdブロックの遷移元素へと遷移させていきましたが、明日から連載する新節では12族が主役になります。
日本では長きに渡り、12族を典型元素として扱ってきましたが、一方で海外ではしばしば12族も遷移元素として分類することが多く、乖離がありました。それから、2021年より、日本でも新課程では12族元素を典型元素から遷移元素へと改訂されましたね。
なぜそんなことが起きてしまったのでしょうか。
遷移元素には「横の並びで性質が類似している」「色を有したイオンが多い」「硬くて合金に適する金属」といった傾向があり、それがそのまま遷移元素の特徴として捉えるひとも多いでしょう。しかし、遷移元素の「定義」を知っている者はそう多くないです。その定義というのは「不完全なd軌道を有する元素、又はそのようなイオンを形成する元素」といった具合のものです。12族は「完全なd軌道」を有していることにより、また最初に提示した3つの特徴から逸脱していることにより、これまで日本では外されてきました。しかし、新課程ではそれを改め、12族を「例外的な性質を持った遷移元素」にしてしまったのです(ちなみに11族の銀も実は定義から逸脱した特殊な元素でありながら、常に遷移元素として扱われてきました)。
海外の解釈と迎合した点、また最外殻の電子の個数が2つの族を2族のみにした点、更に第4周期で初めて現れる族が他の遷移元素と共通している点で、私はむしろ周期表が捉えやすくなったと思っています。また遷移元素それ自体を「d軌道の電子を前の原子番号の元素から加えていく元素」として改めて認識できます。勿論、こうした視点に疑問を持つひとも多いと思いますが、新しい正解が世間一般に認められるのはそう容易ではありません。とにかくこうした変化には柔軟に対応することが求められるのでしょう。