キャラクターイラストは雛鳥様より。
Twitterに公開した空気令嬢の書き下ろしSS
文庫ページメーカーで視点ごとに背景色変えて書いたものなので、まとめちゃうと分かりにくいかも……
これはある人物の独白。
ある人物の懺悔。
ある人物の覚悟。
ある人物の願い。
ええ、私は無力で愚かな女でした。
貴方様が『悪』であるならば、私にも責任の一端はございましょう。
どうかどうか、お許しください。
貴方様が笑って生きられる未来の為に。
【レヴィーア・フローディアってどんな人でした?】
「……アレは賢明な女だった。常に三歩後ろを歩き、言われずとも己の役割を理解できる女だった。
——ええ、|私《わたくし》は閣下の婚約者でごさいました。
互いの年齢が一桁の時分に、親同士が決めた関係。
|私《わたくし》は今でも、初めてあのお方と出会った日の事を思い出せます。
二人きりで庭園にて語らう時間を設けられた|私《わたくし》たちは、ともに将来について話し合いました。
恥じらいながらも父君を超える立派な軍師になりたいと、語らうあのお方は大変愛らしかったと記憶しております。
やがて時は流れ、あのお方はどんどん立派に成長されました。
そして、隣国との長きにわたる戦争に終止符を打ち、英雄として凱旋されたあのお方は既に私の知る彼ではありませんでした。
大局を見据える瞳は冷酷で、何事にも容赦なく、父君をも超えたと称賛される言葉に対し、喜色を浮かべることもありませんでした。
他者に頼る事をやめ、お一人で何もかも背負うあのお方に、一体何があったのでしょうか?
残念ながらその真相を知る日は、|私《わたくし》に訪れないでしょう。
とにかく敵の多いお方ですから、足手まといにならないよう|私《わたくし》は表舞台から姿を消し、陰ながら見守ろうと判断致しました。
だって|私《わたくし》はあの方とは違い、頭が回る訳でもありませんでしたから、お役に立てないのならせめてもと……
しかし、それは間違っていたのでしょう。
「それ故にアレは愚かな女だった」
—— |私《わたくし》はあのお方が|変わっ《壊れ》ていくのを、見ている事しかできませんでした。
誰よりも近くにいましたのに、|私《わたくし》たちの距離はどこまでも遠かったのです。
……いいえ、遠くなってしまったのは|私《わたくし》が逃げてしまったからでしょうか。
閣下の婚約者として、あのお方の側に立ち続けるべきだったのでしょうか。
あのお方のために言葉をかけ続けるべきだったのでしょうか。
もし|私《わたくし》に力があれば、もし|私《わたくし》に勇気があれば、何か変わっていたのでしょうか?
「自惚れるな。貴様に何ができる? 貴様がいようがいまいが、私は変わらない。私の望む未来は変わらない」
——ええ、そう。ですから|私《わたくし》は願いました。
無力な|私《わたくし》は、どう行動すべきか分からなかった|私《わたくし》は、ただ願いました。
このままにすべきでないと、|私《わたくし》のちっぽけな良心が、|私《わたくし》を突き動かしました。
確かに|私《わたくし》たちの間に愛はないのでしょう。しかし情はございます。
二十年です閣下。
約二十年、見てきた貴方様が破滅する様をどうして黙って見ていられましょうか。
どうして平和を約束された国が、混乱を喫していくのを見ていられましょうか。
貴方様が諸悪の根源だと皆が謗るなら、|私《わたくし》にだって責任の一端はございましょう。
過ぎた事は変えられませんが、この先の未来を変える努力はするべきでしょう?
「ならば貴様の行動で示せ、レヴィーア・フローディア。言葉にも、過程にも何ら価値はない。この世で大切なのは結果のみだ」
話はこれで終わりだと言わんばかりに、リベル様は目の前の書類に意識を戻した。
何度もループを繰り返す中で、私は一つ分かったことがある。
それはリベル様が意外と良く話す方だと言うこと。
一定以上の関係さえ築ければ、リベル様は私の質問に対して毎度しっかり答えてくれた。
今回もそう。
元のレヴィーアがどんな人だったのか? という私の質問を、思い出も交えて一時間近くも話してくれた。
レヴィーア・フローディアは、間違いなくリベル様にとって思入れのある人間だったんだろう。
そんな彼女の名と身体を今は私が使っている。
「……リベル様」
リベル様を救いたい。
これは私だけの願いだとずっと思っていた。だけど話を聞いて、それは違うのだと知る事ができた。
これは私たちの願い。
彼女が望み、私が叶えてみせると意気込んだ二人の願いだった。
私は一人じゃない。
「お話ありがとうございます! 今日の話を聞いて、いっそう決意が固まりました。誰が何て言おうと、私はリベル様が笑って暮らす未来が見たい!」
「勝手にしろ」
「はい、勝手にします!」
——ええ、 |私《わたくし》たちの願いで、あなた様の願いを打ち砕いて見せましょう。