「……よし。もうちょっと頑張ろう」
そう強く意気込んで、施設の中へと戻ろうとした時だった。わたしが《《お尻に誰かの手の感触》》を感じたのは――。
「きゃっ……」
首筋の辺りに生温かい吐息を吹きかけられて、わたしは反射的にその場から飛び退く。
すぐ後ろに同じ歳ぐらいの男の子が立っていた。
目付きが鋭く、不健康そうな顔色をした少しヤンチャをしてそうな子だ。
男の子はさっき触れたわたしのお尻の感触を確かめるみたいに、手のひらを握ったり開いたりして不気味な笑みを浮かべる。
「へへっ……その様子だと、子供は無事に生まれた? 花恋ちゃん、出産おつかれさま」
「……うん、ありがと」
名前を教えた覚えは無いのに、どうしてわたしを花恋と呼ぶのだろう。
そんなくだらない事を一瞬でも気にしているうちに、彼がこっち距離を詰めてきた。
「か……監視員さ――」
身の危険を感じたわたしはすぐに助けを呼ぼうする。けれど声を上げるよりも先に口を塞がれ、そのまま強引に物置部屋に連れ込まれた。
薄暗くて誰もいない物置部屋の奥で、身体を押し倒される。
「やだ! 辞めて離して……っ!」
「うるせぇ、静かにしろって」
わたしが叫ぼうとすると、彼は片手で頸動脈を強く絞めあげた。
苦しくて呼吸ができない。声が出ない。
あっという間に意識を失いそうになったギリギリのところで、彼は手を離す。
「……ゲホッゲホッ……」
既に逃げるとか叫ぶなんて思考はわたしの頭から消えていて、ただ死にたくない。という一心で這いつくばったまま呼吸だけに全力を注いだ。
わたしがもがき苦しむ間、彼は愛でるようにわたしの髪に触れて、身体を隅々まで揉んで、舌で舐め始めた。
「ああ! かわいい……良い匂い……甘いぃ!」
「やだ、やめて……お願いだからやめて……!」
「もう、恥ずかしがらなくていいってば。ほらぁ、花恋ちゃん。次はオレと赤ちゃん作ろっか」
抵抗したくてもさっき首を絞められたせいで酸素が身体に回ってなくて、身体に力が入らない。
「……いや……いやぁぁぁぁあぁ……ッ!」
そのまま力づくで服を脱がされ、股を広げさせられたわたしはされるがままに犯され続ける。
その行為は快楽なんて一切としてない、男の欲望を振りかざすだけの地獄だった。
一方的な性欲をこれでもかと発散させられたわたしは、身も心もグチャグチャでいっその事もう殺して欲しくなった。
――あぁ、多分これは天罰だ。
現実を受け入れたことにして、赤ちゃんを生んで、勝手に前に進んで行こうとしたわたしに神様が下した罰。新汰のことを、被害者にしたことを忘れようとしたわたしに対する天罰なんだ。
それから約一年間、男は施設という逃げ場のない鳥籠の中で監視員さん達の目を掻い潜りながらわたしに何度もレイプを繰り返した。
助けを求めても証拠がなければ前科者同士の問題に耳を貸して貰えることはなく、身体は一方的に汚されていく。
わたしは釈放される頃には男性恐怖症に陥ってしまって、まともにコミュニケーションを取ることすらできない状態で家族の元に引き渡された。
これら全ての経験を通して痛感したことはただ一つ。
人に与えた苦しみは、いつか必ず違う苦しみとなって自分に返ってくるということ。
この世には天国も地獄も確かに存在していて、選んだ選択と行い次第では、未来はいくらようにも変貌し、自分自身に容赦なく牙を剥くということだ。