第43話 Super Lyrical Girl
深夜。
病院の裏手にある、使われていない駐車場。
街灯が一本だけ点いている。
周囲には誰もいない。
車もない。
人の気配もない。
その中央に、雫が立っていた。
白衣のポケットに両手を突っ込み、ぼんやりと夜空を見上げている。
そして――。
「……わたし、富森市に住む平凡な女子高生!」
静かな夜に、妙に可愛らしい声が響いた。
「高峰 雫!」
一拍。
「じつはひょんな事があって魔法天使になることになったの!」
さらに一拍。
「この世の万事を揺るがす奇々怪々に立ち向かう一筋の刃として――」
雫は拳を握る。
「悪を蹂躙することになったの!」
言い切った。
静寂。
雫は無表情で前を見る。
「……。」
数秒後。
「…………何やってんだ、俺。」
自分で自分にツッコむ。
だが、なぜか納得できない。
「いや……違う。」
雫は腕を組む。
「もっとこう……キラキラしてた気がするんだよな。」
もう一度、やり直す。
「わたし、富森市に住む平凡な女子高生!」
今度は少し高い声。
「高峰 雫!」
さらに身振りを付ける。
「ひょんなことから魔法天使になったの!」
「そして、この世の――」
「……。」
途中で止まった。
雫は遠くを見る。
「……悪を蹂躙する。」
低い声に戻る。
「そこだけは、俺らしいな。」
そのとき。
背後から小さな物音がした。
「……。」
雫が振り返る。
誰もいない。
ただ、風に揺れた空き缶が転がっているだけだった。
雫はしばらくそれを見つめる。
「……聞かれてねぇよな。」
返事はない。
雫は安堵したように息を吐く。
そして再び夜空を見上げた。
「……魔法天使、か。」
少しだけ笑う。
「案外、悪くねぇかもな。」
街灯の下。
その姿だけが、誰もいない夜の駐車場に取り残されていた。