明治に入り、職を失った多くの士族たちが選んだ職業の一つに「人力車夫」があります。 発明されたばかりのこの乗り物は、体力と脚力が全ての商売。剣術で鍛えた足腰を持つ元武士には、うってつけの仕事でした。
しかし、かつては馬に乗る側だった彼らが、今は人を乗せて地を這うように走る。 その背中には、どれほどのプライドと、諦念と、意地が張り付いていたことでしょうか。
「刀は捨てたが、足は残っている」
そんな、汗と泥にまみれた明治の男たちの息遣いを想像しながら、この物語を紡いでいます。 華やかな文明開化の影にある、男たちの労働の熱を感じていただければ幸いです