拙作『このAIは永遠に』は三題噺の自主企画に投稿するために制作しました。
企画主の意向により、ここに制作経緯などをまとめようと思います。
前提として、自分は三題噺を書くのが好きな方です。今回、作品執筆に至ったきっかけもたまたま三題噺の自主企画を見つけたからです。
またSF好きなので基本的にはSFの短編を制作します。一種の縛りですね。三題噺同様ある程度縛りがあった方が作品はまとめやすいですから。
はじめに今回の企画のキーワードを確認しましょう。
キーワードは「秘密」、「塩」、「花束」です。
まず、素材の味を活かしていこうと思います。三つのキーワードを組み合わせて何かユニークでインパクトのあるワードを作ってみます。
すると「塩の花束」というワードに魅力を感じました。無機的な「塩」と温かみのある「花束」。絶対に組み合わさることない二つの単語が一つの言葉として奇妙な調和をしています。そこで今回は「塩の花束」をメインにストーリーを練ることにします。
では、なぜ「塩の花束」なるものが存在するのか?
この命題に対して一番簡単な答えは「花がないから塩で代用した」というものです。塩の結晶自体は確かに神秘的な美しさがあります。ギリギリ花束としての体は保てそうです。
なぜ花が存在しないのか?
ここは手っ取り早く植物自体が死滅してしまったことにしましょう。その場合、植物がいないと草食動物もそれを食べる肉食動物も生きていけません。もちろん人間も。
では、背景を単純にするために生物を根絶やしにしてみます。理由はいろいろ考えられますが、今回は核兵器にしましょう。知識として生物を効率的に殺傷する中性子爆弾の存在を知っていたので今回はこれを採用します。その方が後に取れる選択肢が多いからです。
ここまでで「中性子爆弾を主とした核戦争により地球上から生物が死滅。当然、花も存在しないのでやむなく塩を花に見立てて花束を作った」という世界観が完成です。
次に「誰が」「何のために」花束を必要としたのかを考えてみましょう。
花束は基本的には祝意などを込めた贈り物としての用途で使われます。しかし、設定した世界観では残念ながらすでに人間は絶滅しています。なので、花束を受け渡しできる存在として考えられるのは宇宙人かロボットくらいです。
宇宙人については、姿や生態など自分で定義する要素が多い。一見自由度が高く使い勝手が良さそうです。しかしながら、今回は短編でまとめる予定。ただでさえ先程の世界観を読者と共有しなければいけないのに、そこに宇宙人のことまで共有するとなるとちょっと読者フレンドリーではないですね。宇宙人の文化における花束の位置づけも再定義しないといけないのでやはり煩雑です。
では、ロボットはどうか?
ロボットと一口に言ってもたくさんあります。しかし、二足歩行ロボットと言えばどうでしょう? いっそ人間に近いとかアンドロイドと言ってもいいかもしれませんね。こうするとおおよそのイメージは共有できます。一言で読者とイメージが共有できるので読者フレンドリー。花束の文化に関しても、高度なAIで人間を模倣しているとすれば話が早い。何より、絶滅した人類にロボットがとって変わるなんていうのはポストアポカリプスの世界観としては一般的。きっとすんなりと受け入れられるでしょう。
ということで花束の受け渡しを行うのはロボットに決定です。
ここまでの話をまとめるとこうです。
「中性子爆弾を主とした核戦争により地球上から生物が死滅。代わりに高度なAIを備えたロボットが支配者となり人間と同じような生活を営む。花束を贈る文化も健在。しかし、花は存在しないのでやむなく塩を花に見立てて花束を作っている」
これで世界観は構築できました。あとはこれを土台にストーリーを作るだけです。
できればメインに据えるとした「塩の花束」に何か特別な属性を付与したいですね。
そこで塩の花束と一般的な花束の違いを考えてみましょう。塩と言えば白色ですね。顕微鏡で拡大してみると結晶は無色透明です。
一方、一般的な花束はどうでしょう?
白いバラの花束などもありますが、多くのイメージではカラフルな花で構成されていると思います。
となると「塩の花束」はどことなく地味で質素で味気ないイメージですね。
ここで塩を別の読み方にしてみます。塩は「しお」以外に「えん」と読めます。塩を「えん」と呼ぶと、科学では化学反応後の生成物の呼称として使われます。化学反応により生成される物質の中には赤色だったり黄色だったするものもあります。
おや?
先程の花束のイメージに近いですね。
ここで塩(しお)と塩(えん)の対比が生まれました。普通に考えればカラフルな塩(えん)を使った花束の方が綺麗ですね。お題にはルビが指定されていないので塩(しお)の花束はなかったことにしてもいいのですが、せっかくの乗りかかった船です。何より「塩」というお題に「塩(えん)」で返すのは企画者の意図を無下にしてしまっているように感じます。
では、一般的にロボットたちはカラフルな塩(えん)の花束を贈ることとしましょう。となると今度は塩(しお)の花束を贈る意図を決めなければなりません。なので、カラフルな塩(えん)についてイメージできる要素を考えます。
検索すれば、カラフルな化学物質には毒々しい色のものもあります。実際、毒性を示すものも少なくありません。振り返れば、学生時代の化学の授業でも毒性のある物質の存在を習いました。他にも社会や歴史などで習う公害も原因としては水銀や銅といったものが原因で、それらが含まれる化合物はそこそこ綺麗な色をしています。
一方、塩(しお)はどうでしょう?
摂りすぎると有害ですが、一般的には危険性のない物質です。ということで、有害性という点の対比を活かしたいところ。
しかし、この有害性というのは生物に対しての話。世界観設定ではすでに生物は死滅しています。ロボットに対して有害性という要素は活かしにくいように思えます。
ここで花束の要素を今一度掘り下げましょう。
お葬式などでも見られるように花はしばしば弔いに使われます。墓に花束を供える光景などは多くの物語で描かれてきました。
今回はその描写を採用することで解決できそうです。お供えと言えば故人の好物など故人の性質の影響を受けます。すなわち、故人にとって毒となる花束を供えることは避けるだろうという話。これにより、見出した性質の対比を活かせるばかりかエモーショナルなシーンを演出できます。
さて、改めてこれまでの世界観とストーリーをまとめましょう。
「中性子爆弾を主とした核戦争により地球上から生物が死滅。代わりに高度なAIを備えたロボットが支配者となり人間と同じような生活を営む。花束を贈る文化も健在。しかし、花は存在しないのでやむなくカラフルで毒性のある塩(えん)を花に見立てて花束を作っている。そんな状況である一体のロボットが塩(しお)で作った花束を所望する。それは故人を偲んで墓に供えるためだった」
あとは短編の形に整えるだけです。
ここで今まで放置していた三つ目のキーワード「秘密」を使いましょう。ちょうど秘密になりそうな内容はすでにありますね。カラフルな塩(えん)を扱っている花屋で何故か質素な塩(しお)の花束を注文する客。店主などが客観的に見れば何か秘密を感じさせます。
ということで、あとは全体的な流れを考えましょう。
墓参りのシーンを入れたいところですが、そんなエモーショナルな場面で世界観説明は無粋です。ここはストーリー前半で世界観説明もかねて一般的な庶民のロボットの暮らしを描写してしまいましょう。ここの描写ではできれば花屋や花束に関する話にもっていきたいですね。
では、いっそのこと花屋の店主にフィーチャーしましょう。とはいえ、花屋視点で描写を書き続けるのは少し面白みがありません。なぜならこの世界における花束の説明はしたいですが、花屋やそこに来る一般的な客の描写はこれまでの流れで決まった骨子にさほど影響しないからです。特に、花屋に来る客を描写をするために何パターンか客を用意しないといけないのはコスパが悪いです。あくまで前半から後半へとスムーズにつなげるために必要な情報は「秘密を抱えてそうな客が花屋に来た」です。
効率的に世界観説明からそういう情報につなげるにはどうしたらいいか?
マクロからミクロへの視点の移動。身近なものだと世間話が該当しますね。景気の話から近況報告へ。この流れを踏襲すればうまくいきそうです。
というわけで、最終的にはこうなりました。
まず、世界観は人間が滅んでロボットが反映するポストアポカリプス。意表を突くため、序盤は濁して描写します。
前半は居酒屋パート。二体のロボットがお互いを労いながら仕事の話をします。この流れで世界観説明を済ませてしまいましょう。また、片方を花屋にしました。ついでに花屋を最近始めた新しい仕事にしてしまえば、この世界における花の定義を自然に説明しながら、後半に必要な不思議な客の情報をスムーズに出せます。
後半は墓参りパート。亡くなってしまった人間の恋人を偲んで花束を供えます。恋人との思い出話やこれからどう生きていくか宣言する決意表明も描写してすっきりした読後感につなげます。
以上が、今回の作品制作におけるバックストーリーになります。
参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
皆様も良き執筆ライフ、読書ライフを!