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15 焔を呑む 続き

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


123話 貪欲な梟
地下の螺旋道を進むウツロとセリナ。
ウツロは彼女の言葉に含まれる「神」や「蚩尤(シユウ)」という表現に違和感を抱き、その意味を問いただす。
蚩尤とはつまり、神族。
龍人の視点では神族ラヴェルは梟(ふくろう)の末裔とされている。

ウツロは、神話上の蛇と梟の役割が鏡写しのように反転していることに気づき、両神話がかつて同じ事件を起源にしている可能性に思い当たる。ならば神話上の舞台『楽園』とはつまり――この地下遺跡ではないか。
世界の根幹を揺るがす神話の原罪が、ウツロの推察によって浮かび上がる。

このあたりから世界の「神話構造」と「政治的視座」が噛み合い始めます。ハイファンタジーと人類史の物語が絡みあるミステリー要素が浮かび上がってきました。楽園に住む娘たちを悪の道へ唆したのは蛇か、梟か。

ハラヴァンについて。
彼は会話の全てが理詰めで、「感情的には嫌だが、論理的には納得せざるを得ない」発言をします。狂っているようでもあり、明晰でもあり、独特の悪役です。


124話 空の器
ハラヴァンとニァルミドゥ(セリナ)の論争は、かつての戦術的選択と、その是非を巡る感情的な対立で始まる。
話題は転じ、セリナとウツロの関係が「兄妹」だったと明かされる。ハラヴァンは驚愕し、ウツロが魂のみ召喚された存在であると知る。
一方、セリナもまた空の器として塔の地下で発見されていたことが明らかになる。元の世界にいたはずの妹がなぜ異世界に?

そしてハラヴァンは蚩尤にまつわる秘密を明かす代償として、兄妹の転生の事情を求める。
ウツロは彼の話を聞くと決意。後悔しないために互いの知識を交換する判断をした。それが、世界の真実への扉となる。

戦闘が収まってからここまで、ハラヴァンとウツロの知的な駆け引きが続いています。


125話 もう終わったことだよ
セリナの独白により、彼女とウツロの過去が明かされる。それは後ろ暗い恋の物語だった。
事故によって両親を失い、兄と二人だけになったセリナは、親族の口から「血が繋がっていない」という事実を聞かされる。
それまで何となく感じていた親の温度差の理由に納得すると同時に、兄に対し、兄妹以上の感情が芽生えはじめる。
しかしその想いを打ち明けることは叶わず、麻痺した身体の看病を受けるうちに、「このまま時間が止まれば」と願ってしまう。その願いは皮肉にも破られ、兄は地震と津波により命を落とす。
残されたのは後悔と絶望の日々。セリナは心のどこかで「このまま死んでしまいたい」と願うようになり、ついには幻覚の少女に導かれる形で屋上から飛び降りた――。

その直後、異世界の塔で目覚め、ハラヴァンに器として扱われることとなる。
現在、ウツロとセリナは互いに転移の経緯を明かし合い、なお残された謎と向き合うべく神殿に向かう決意を固める。

秘めた恋心という焔を呑む。
セリナが願った「手足が動かないままでいてほしい」は、愛を得るために自分を壊してしまいたいという倒錯した祈りです。この倒錯性が器としてのセリナを強く補強しています。


126話 ならば帝も耄碌じゃな
三日三晩の移動を経て、継承者たちは神殿へ帰還する。
しかし彼らを出迎えたのは歓迎ではなく、異端審問めいた糾弾だった。
近衛隊隊長カムロは、アーミラに対して疑いを突きつける。

ウツロの反乱への幇助の疑い
龍の光輪から現れた禍人の逃亡の責任
神器の喪失とガントールの重傷についての責任追及

それらは「帝の勅命」によるものであり、アーミラを拘束・尋問の対象とする命令だった。
これに激しく反発したオロルは明白な冤罪であると宣言し、アーミラの拘束に身体を張って抵抗を示す。
その場は一時的に膠着するが、神殿と帝の内部における亀裂と権力の思惑が本格化したことを強く印象づける回となった。

神殿の描写(三女神の巨像)が神聖さと恐怖を両立させており、アーミラの「もう恐ろしくない」という感慨が成長を象徴します。

「心像灯火」という設定は、命の扱いの儚さ、信仰と生存の結びつき、継承者の非人間性に説得力を与えており、世界観の骨太な拡張として優れています。

オロルの台詞:「ならば帝も耄碌じゃな」は勇敢な皮肉であり、彼女の立場と矜持、理性と激情の同居を一言で表しています。

この話はまさに国家と宗教による弾圧。
人々を守る女神継承者として立てられた者が、その権威に逆らえば即座に異端とされる脆さ。制度というものがいかに容易く「正義」と「異端」をすり替えられるかが描かれています。


127話 平和を願い、その身を捧げる者のために
前話の緊迫した糾弾劇の余韻が冷めぬ中、アーミラの心臓の焔が直接触れられるという禁忌の暴力が加えられる。
その痛みに苦しむアーミラを救ったのは、突然空から舞い降りたウツロだった。
変貌した姿で現れたウツロは、近衛隊の前でアーミラの焔を呑み込むという異形の行動によって彼女の心臓を確保する。

ウツロは高らかに自らの忠誠を宣言する。

「俺が従うのはラヴェルではない。継承者だ。平和を願い、その身を捧げる者のために俺は存在する」

オロルとアーミラの最後の会話は、互いの無事を祈りながらも口に出さぬ別れとなり、アーミラは再び「神殿から逃げる少女」として山を駆け降りる。
彼女はかつて失った記憶のなかの自分に重なりながら、
継承者でありながら神殿に見放された者として、放浪の道を歩み始めたのだった。


「焔を呑み込む」という行為が幻想性・神秘性・戦略性の三要素を兼ねています。
アーミラとオロルが確かにはぐくんでいた紐帯の絆がラストで描写され、互いに涙を隠して別れるシーンは好きです。アーミラが自らの境遇を呪うのでなく、「最後に残った友との絆に涙する」という情緒が、彼女の品格を象徴する描写となっています。


アーミラは物語を転げ落ちる。しかし、差し伸べる手も存在している。

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