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14 眠る躰を引きずって 続き

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


115話 もう一度問います……誰ですか?
ウツロはガントールとの対話から、ラーンマクの子孫であるという驚くべき血脈の真実を知る。ラーンマクの奔放な素行すら、時を経て結果的に「神の血」を未来へつなぐ行為となっていた。
その後、三柱すべてが再び顕現するという奇跡が起き、ウツロとガントールは新たな継承者を迎えに神殿を出る。ナルトリポカの集落で出会った娘は、確かに内面から神性を感じさせる次女継承者だった。
しかしその夜、咎(トガ)が出現。蠍の姿を模した異形のそれは、ウツロを襲撃し凄絶な戦闘となる。自らの顔面に刃を突き立てるという自己犠牲的な行為で勝機を見出すウツロの姿は、もはや「人間性の喪失」と「魔導具としての完成形」を象徴するものとなっていた。

このあたりから本編の流れをウツロ視点でなぞっています。
当時ウツロが何を考えていたのかの答え合わせです。

与太話ですが、リナルディ家が辺境伯となる前は屠畜の生業をしていました(このあたりの設定を本編で語ったか覚えていません)。刃をふるって肉を切る仕事から、転じて前線の戦士となり、先代ラーンマクとの子供を設ける。という流れです。


116話 守り抜いたってわけだ
ウツロは咎《トガ》との死闘を制し、次女継承者アーミラのもとを訪れる。
育ての両親に見送られながら旅立つアーミラの姿に、かつて自分にはなかった「温かな家族の絆」を見出す。
アーミラは魔人種でありながらその素性を隠して生きてきた娘。人懐こく、脆く、そして妙に記憶を呼び起こさせるような存在でもあった(同時に記憶を持たない娘だった)。
彼女の振る舞いは、ウツロの深層記憶――かつての「病室」や「202号室」にいた誰か――をうっすらと連想させる。
しかし静寂は長く続かない。アーミラの荷物が盗まれたことをきっかけに三人の継承者が天球儀の杖内部の空間へと消え、ウツロは不穏な声に導かれて再びナルトリポカ集落へ赴く。そこで彼が目撃したのは、火の海に包まれた地獄と、襤褸を纏う間諜《うかみ》の少女だった。
敵でありながら額に「角」がない少女。代わりに尾を持ち、異世界の気配をまとい、戦うことに意味を持たぬその姿――それはかつての自分のようだった。
戦闘魔導具としての自己定義を根底から揺るがす同族の登場により、ウツロの記憶の靄がわずかに色づきはじめる。

ウツロの人間性と記憶に真っ向から踏み込んだ物語。アーミラたちの旅の裏で展開されていたもう一つの運命の歯車が動き出しています。
タイトルの「最後の異世界転生譚」が、ようやく静かに、しかし確実に浮上してきています。


117話 だめだ
本話は、ウツロの心の奥底に潜む「後悔」と「焦燥」が前面に押し出された内省的な回です。
アーミラとの間に生じた亀裂、禍人との因縁、そして二百年前の次女継承者デレシスの「奥義」にまつわる記憶。ウツロはアーミラを見守る立場に徹していたが、それがかえって彼女の復讐心を見逃すことに繋がり、彼女が「かつての誰か」と同じ道を辿りつつあることに気づく。
イクスの言葉を通して自らの無信念・無力さを痛感しながらも、ウツロは「空っぽだからこそ願いを受け止められる器」としての自覚を取り戻す。そして迎えるは、二度目の災禍の龍との戦い。戦場でアーミラが「奥義」の使用を示唆したその瞬間、かつての悲劇がまざまざと蘇り、彼女の中に「デレシスの面影」を見出す。
「同じ結末を繰り返してはいけない」
声も顔もない身であるがゆえに、彼はもどかしさと絶望に呑まれながらも、アーミラを止めようとする。しかし、彼女の瞳に映るのは――失望だった。

ウツロの過去→後悔→決意→絶望という流れを追っており、内面描写が緊密に積み重ねられています。前半と後半でリズムが明確に異なり、前半は後悔の反芻、後半は決意と再悲劇の予兆という構成で緊張感を持たせています。


118話 日緋色金を使いなさい
災禍の龍との死闘の中、先代の悲劇が再現されたかのようにガントールとオロルが重傷を負う。ウツロはアーミラの盾となって神器を構え、全身を灼熱の光輪に晒して彼女を守る。その果てに、神器と鎧が融合し、新たな「頭部」と鋭敏な五感を獲得。200年ぶりに人に近づいたウツロは、ようやく声を発し、アーミラと目を合わせる。
戦場に出現した尾を持つ少女の姿を目にしたウツロは、彼女が自分の妹であり、かつて失った大切な存在だったと思い出す。
彼女こそが災禍の龍の核だった。アーミラが奥義を放てば、妹は消滅する。
ウツロは咄嗟に日緋色金を生成して天球儀の杖を破壊し、アーミラを止める。そして意識を失った彼女を傍らに、龍に止めを刺す。
継承者たちを守り切ったものの、ウツロは妹を神殿に連れて帰れない現実に直面する。コトワリに促され、ウツロはセリナを抱えて禍人領へと去る。

――物語は、新たな章へと向かう。

衝撃の転換点だった100話から回想を経て現在の時間軸へ戻ってきました。なぜウツロはアーミラの首を切ったのか。神器を破壊したのか。龍の娘を連れて消えたのか。彼の謎が明かされました。
第118話は、いわば第14章「眠る躰を引きずって」の総決算であり、“人外の英雄”ウツロが人へと回帰する再生と、自らの喪失と訣別を受け入れる旅の始まりを描いた珠玉の回でした。

最大の見せ場は

「……芹那」
「そう。君が大事にしていたものだ」
「妹だ」

という会話シーンです。
この3行のやりとりに込められた重み。
人間性を失ってから二百年、初めて自分の大切なものを声に出す。

また、アーミラに対して自ら刃を振るうという選択も、単なる衝動ではなく、「守るために傷つける」という継承者の護衛役としての矛盾した愛情が現れており、複雑なドラマ展開です。

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