最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162101話 ウツロ
アーミラの斬首という衝撃的な幕切れの直後、ウツロは災禍の龍をガントール流の剣技で討ち果たす。倒れた龍を後にして、ウツロは昏倒したニァルミドゥを抱え、南へと向かう。
場面は切り替わり、ウツロの意識が鎧として目覚めた場面へと入る。感覚の喪失、呼吸の不在、視界と聴覚以外のすべてが剥奪された異形の身体――その違和感と混乱の中で、ウツロは自らが「人間ではない」と悟り始める。
龍との死闘を終えてから中だるみさせずに別の物語を動かします。
これまでの戦闘中心の流れから大きく転じ、いよいよウツロの過去が語られる。
異世界転生者だろうことは読んでいてわかるようにできていますが、大きなフックであるウツロの真相が回収されます。
102話 ……君は何者か
意識を取り戻した鎧の男は、自分を取り囲む三人の娘たちと対峙する。彼女たちは並みならぬ風貌と空気をまとい、「君は何者か」と問いかけてくる。男は蝋板に名前を刻み返答するが、娘たちは明らかに反応を変え、彼の名に驚愕を示す。
やがて娘たちが継承者という特異な存在であること、彼女たちの世界に自分が迷い込んだらしいこと、そしてこの世界の正義が自らの想像とはまるで異なるものである可能性が、少しずつ明かされていく。
慧は彼女たちの私室で鎧として「保管」され、修理されながら、徐々に彼女たちの現実と世界の恐ろしさに触れていく――。
会話を軸とした導入ではじまり、「異世界転移の真実とはこうあるべきだ」という再定義。
異世界に来てしまった人間の言語、肉体、感覚、主観の時間感覚、すべてが脅かされるという描写は、『なろう』的な異世界無双譚とは真逆のアプローチとして描きました。
103話 お前もやるんだよ
慧(ウツロ)の回想が続く。
左手と下肢も動くようになった慧は、ようやく自由を得たものの、未だ言葉を発せず蝋板にカタカナで意思を示すしかない。そして、初めて扉を開いて出た外の世界が、彼の想像とはまるで違っていたことが明かされる――デレシスの私室は、実は彼女の持つ神器《天球儀》の内部空間であり、これまで外の世界を旅していたのだ。
「働いてもらう」という言葉通り、慧は出会ったその日から実戦へと駆り出される。しかもラーンマクによって、強引に戦場へと蹴り飛ばされる形で。
そこには泥と血にまみれた「本物の戦争」が広がっており、慧はすぐにその地獄の現実を知る。咎《トガ》と呼ばれる異形が殺意を向けてくる中、「それが敵だ。殺せ」と命じられる慧だが、彼には殺す理由がない――ただ逃げるのみであった。
慧の異物性が本格的に物語と噛み合いはじめます。
104話 白状すると、君を騙そうとしたんだ
慧は初めてトガを殺す。戦場の狂気と生存本能に突き動かされながら、自らの意思で命を奪うという一線を越えてしまった。
だがそれによって得たものは、虚しさと後悔、そして決して拭えない罪悪感だった。
その夜、デレシスは「自分たちは最初から慧を騙していた」と告白する。
本来は霊素を作るつもりが、なぜか異世界の魂を呼び出してしまった。慧に帰る手段はない。それどころか帰るには魂を消去する術しかなく、それはほぼ確実に死を意味する。
選択肢を与えられた慧は、仕方なく「戦って生きる」方を選ぶ。
その後、慧は自己を捨てて戦闘魔導具となることを選び、心を摩耗させながらも戦場で役目を果たしていく――いつか赦される日が来ると信じながら。