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10 勇名の矜持 後編 について

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162


72話 私にはわからない
有翼のトガを討伐したことで、アーミラは兵たちに賞賛されていた。夕餉の席では彼女を囲むように男たちが集まり、浮かれる雰囲気が高まっていたが、あえて「イクス」の名前を出して話題を一転させる。
部下殺しの汚名を負うイクスについて兵たちは口を濁す。そこにナルが現れ、冷たい怒りで場を収める。彼女は父を殺された娘だったのだ。

前回の章終わりがかなり大きく動いたので、物語の立ち上がりは和やかな食堂(アーミラはテンション低め)でスタートです。イクスに関連するストーリーを進行させていきます。エピソードのゲストキャラであるナルの性格についても描いてますね。
これまで戦争や陰謀にさらされてきた読者にとって、『疑いと悲しみを持ちながらも信じることを諦めない少女』という存在は、心を打つキャラクターとして個性が光るのではと思います。
……そう、これは矜持《プライド》の物語です。勇ましきものは誰か。


73話 姉様ではありませんね
空気は湿り、空は重く、討伐隊は一斉出撃していた。アーミラとスークレイは邸で待機しながら、会敵の報せを待つが、それは訪れない。
そして突如として現れるのは、長女継承者・ガントールを模した何者か――。アーミラはその違和感に即座に反応し、剣戟を交える。「姉様ではありませんね」という言葉と共に、緊張が爆発する。
場面転換し、時系列は一月前へ。
初の本格戦場に対峙したオロルは柱時計による時の停止能力を駆使し、戦況の把握と敵の観察を始める。ラーンマクが激戦地であること、そしてそれすらも神殿の戦略の一環であることが、彼女の冷徹な目で語られていく。

偽ガントールが邸を襲うに至る結末を最初に提示しておいて、これまで書かれなかったオロルとガントール側の視点が描かれます。いったい何が起きたのか、ストレスを押さえながら興味を引くように構成したつもりです。
何より『偽物』という存在が敵として現れる。矜持や誇りとは反対にいる存在が立ちはだかります。


74話 だとしたらおかしい
オロルとガントールは時を止めた空間で、禍人の住処について思考を巡らせる。彼らの本拠地が見当たらないことを不審に思い、かつてトガが占領していた遺跡や井戸の痕跡こそ、かつての生活圏であった可能性に気づく。
『邸の井戸だけが生きている』という事実に着目し、不自然な点を突き止める。すなわち、周囲の井戸は皆涸れているのに、スペルアベルの邸にだけ水があるのは不自然だということ――そこからオロルは地下構造や地質、歴史に基づき、禍人が地下に居住しているのではないかという仮説に辿り着く。

「涸れた井戸」「地下水脈」「街の瓦礫」――これまで無駄に(え?)描写してきた具体的な地理・地形が伏線として機能し、それが謎解きに繋がる回。
地質学や歴史、信仰が絡む、あまりにも難解な推理を必要とするため、読者に先読みさせるよりもオロルの独壇場にした方が天才キャラが描けると判断し、この形になりました。「なるほど」と思わせる論理の積み重ねになっていれば十分です。
実際、「敵の本拠地が見えない=地下にいるのでは?」という発想に持っていく流れでしかないので、映像化しても難解過ぎない塩梅かなと思います。


75話 あれは井戸ではない
オロルの推理により、涸れた井戸は間諜の通路ではないかという仮説が立てられる。
戦場は依然として膠着状態が続いており、継承者二人は手分けして行動することになる。ガントールは探索を任され、涸れ井戸を探し続ける中で、ついに有望な井戸を発見。狭く暗い地下通路に単身で潜り込み、砂と汗に塗れながら、地下奥へと進んでいく。
地下への通路であるという考察をしっかりと提示し、後半でそれを検証・行動に移すという構成。戦況を一旦整理し、二手に分かれるという的転換点を丁寧に描いています。オロル、ガントール、アーミラのメインキャラが完全にバラバラに行動しているので、端折ることができませんでした。静の展開が続いているのでさっさと動に転じたいですね。


76話 燭台みてぇだな
地下通路の探索を続けるガントールは宿敵ダラクと遭遇する。しかし交戦は回避され、なにか得体のしれない敵が襲い掛かる。
体内に侵入した敵によって脳まで蝕まれ、精神崩壊寸前に陥る。非死の加護さえも捕食のループを助けるだけ。ただ死を繰り返す。
かつて希望を託された継承者の一人は、誰にも知られぬまま再起不能に――。
一方、前線では異形の存在がオロルの前に現れ、同時にスペルアベル南方では討伐隊が壊滅。現場を目撃したウツロもまた、ダラクの奇襲と、何者かによる妨害に遭う。戦線は、崩壊の瀬戸際にあった。

緊張がかなり高まっていく場面に突入しました。
① 地下通路でのガントールvs粘液(蛭?)の場面はパニックホラーテイスト。
読者の理性を掻き乱すような不快描写の連続で畳みかけました。

② オロルvs異形は謎めいた死闘の予感。
頭は切れるけど、一人でこの強敵を戦わなければならないのは勝敗が読めません(ガントールは負けたし、全滅もあり得るか……?)。

③ ウツロvsダラクは因縁のバトルは必至。
「首がねぇと燭台みてぇだな」というダラク。シリアスな笑いでテンションを上げています。

大盤振る舞いのバトル。バトル。バトル展開です。ここまで付き合ってくれた読者を楽しませるために総力戦を描きます。


77話 自分の目を潰しなさい
ウツロの前に立ちはだかったのは、新たな敵『エンサ』。彼の支配下にある兵士は、身体を侵蝕し顔を奪って化けるトガの存在を伝える。そして目を潰すように命令されて瀕死に。彼を助けるか、ダラクを追うか、ウツロは判断を迫られる。
場面は変わって、邸に偽物のガントールが現れた場面に戻る。
妹であるスークレイに襲いかかるガントールの姿は継承者の威厳など微塵もない。一体なにがあったのか……スークレイとアーミラは戸惑うが、セルレイは背後から刃を突き立てた。

顔を奪って成り代わるトガの存在がここで明らかになりました。スペルアベル編の全体像が見えてきました。ガントールが涸れ井戸で襲われたのもこいつです。顔を奪われて、偽ガントールが邸にやってきたというわけですね。そして、このトガの存在によって、イクスの立ち位置もはっきりします。

スペルアベル平原はクライマックス。

理不尽が蔓延り、真実の見えない世界。
顔も名も捨てた兵士よ――矜持を貫け。

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