夜に暗躍することが多かった忍者は、見知らぬ土地で正確な方位を知る必要があった。
この時代、方角を知る主な手段は、夜空に浮かぶ月や星の運行に頼るものである。しかし忍務にあたる日が常に晴天とはかぎらない。むしろ嵐が吹き荒れる夜間こそ、はげしい雨音や突風が屋敷へ忍びこむ曲者の存在を隠してくれた。
そんな時役に立つのが、現代でいうところの方位磁石である。
忍者たちが懐に忍ばせていた方位磁石の名は、耆著《きしゃく》。
Twitterや小説の末尾にも概要を記載しているが、短文の注釈ではその全容を紹介しきれなかったので、こちらでよりくわしく触れておきたい。
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方位磁石をつくる方法はいくつかあるが、忍者がもちいた手法は「鉄を火であぶる」というやり方だ。
◆必要な物は以下の通り→ 小さくて軽い鉄、お椀、水、火
①まず、鉄が赤くなるまで火で熱する。
②尖った先端を北へむけた状態で冷ます。
③お椀に水を張り、安定した場所に置く。
④鉄をお椀に浮かべる。すると、鉄の先端は北を指し示す。
これは熱残留磁化という性質を利用した技術である。
熱された鉄は、地球の磁場の影響を受けて磁気を帯びる。
忍者は鉄を水に浮かべやすいように船型に加工した物を使っていたが、検問などで取り調べを受ける場合を想定して、針を携帯するパターンもあった。この場合、細い針を水に浮かべるのは困難であるため、葉などの上に乗せて方角を確かめたようである。
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このような逸話を聞くと、実際にやってみたくなるものだが、現代の家庭環境を考慮すると鉄を火であぶるという行為はなかなかに危険なので、推奨しがたい。
よって、現代人でもすぐにできる耆著のつくり方を併せて紹介しておく。
◆必要な物は→ 小さくて軽い鉄、お椀、水、そして磁石
①まず、鉄を一定方向に磁石で何度もこする。
②水に浮かべる、以上。
今年は節分で恵方巻を食べる時に、忍者式で方位を確かめてみるのも楽しいかもしれない。