[全能の魔術王]の小話。
時系列、27話後。
「グリムの事が好き?……結構今更だね。僕的にはいつ告るのかなあ、と思ってたんだけど」
「ぼ、ボス!?告白するなんて無理だよ!最近身長も伸びてきて漢らしさも増してるのに!匂いにも気にかけてるから良い匂いするし。私には似合わない」
「うーん、それ理由じゃないと思うんだけど。あの人のここが好きだー、でしょ。というか、どこが似合わないのさ」
心底理解できない、と疑念の視線を向けるボスだけど、私的にはそう思ってしまう。元々の身分は王族とは言え、没落をしており、滅んだ国だから。現貴族であるグリムには似合わないと感じるのは仕方ない。
それがただの言い訳である事は、もちろん理解している。没落しただろうが何だろうが、今抱えている問題を全て片付けた後に、武功を立てれば良いのだ、という事も。そうすれば妾の立ち位置になってしまうが、グリムの嫁へとなる事ができる。
「何と言うか、君の血族は随分と重い恋煩いなんだね」
「ボス?何故いきなりそんな事を。私の血、それは今、関係が無いでしょ。例え私を滅びの身から救ってもらい、忠誠を誓った相手でも限度があるよ」
「へぇ、なるほど。なるほどね。ふふふ」
可笑しそうに、そして面白そうに笑うボスを疑問に感じてしまうのも仕方ない、のかな。ボスって心の底から笑う事なんて無いし。
控えめに、人を引き込むように笑う見た事がないボスを不気味そうに見ていると、それすらボスは笑うの材料にしてしまう。うん、ますます意味分からない。
「やっぱり、変わったよ。クリスは。魔神への憎しみとか、殺意とか、そのような負の感情を抱いていなかったクリスが、その為に僕に着いてきたクリスが怒りを向けている」
「えーっと、ごめん?」
「怒っている訳じゃない。ただ、嬉しいだけ。自分の娘のように可愛いがっていたクリスが反抗期にまで成長して」
「どちらかと言えば、兄妹とか姉弟に見られる事が多かった気がするけど」
「だまらっしゃい」
手のひらで叩かれるが、力が全然と言って良いほどに入れられていない。ポコ、と音がしただけ。じゃれあいにしか過ぎない会話、行動。昔にはできていなかったそれができて、心から嬉しいと感じる。
部下と上司の関係以上に踏み込めなかったのが、家族並みに踏み込めるようになった。その原因というか、要因は間違いなくグリム。私の、私達とグリムの出会いは最悪そのもの。それなのに、グリムは遠慮なく助けてくれる。
そういうお人好しなところ、魔術バカ魔法バカなところ、研究に熱中し過ぎて栄養も取らずに研究室にこもっちゃうところ、仲間思いで家族思いなところ。全て、グリムの全てが、私は…。
「好きだなあ」
「あのさ、何で普通の会話してたのに、惚気話に突入してるの?どう考えても普通の会話だったでしょ。心の声だったとしても、この話からどうしたらグリムが好き、の話になるの。話を聞くのは大切だって教わらなかった?」
「ボス!私は惚気話なんてしてないよ!」
「本当に人の話聞かないじゃん」
そんな呆れるような言葉が、私に向かって発されてしまった。聞いてはいる。聞いてはいるのだが、「惚気話」の点に反応してしまった。そう説明しても…。
「あーうんうん。恋は盲目と言うしね」
そう言ってあしらわれてしまった。
解せぬ。