【ニーナとの出会い】
辺境の町ラザニア。
俺とソフィアはC級ダンジョンの攻略を終え、町に戻ってきた。
「さあ、ドロップした魔石を売りにいこう」
複数の魔石を入れた袋がずっしりと重い。この重みがFIREに繋がっているかと思うと嬉しくなる。
「ふふっ、もう、しょうがないなぁ」
ソフィアがくすくすと笑う。
彼女は俺の生態をとっくに把握済みだ。
「なぁソフィア、今日は何か食べたい物あるか?宿のキッチンを借りて作るぞ」
彼女は今日も頑張ってくれた。なんせ俺はただの盾で攻撃力が無い。せめて福利厚生で報いないと。
「いいの!?じゃあ、パンケーキがいいな。ノルのパンケーキ、好きなんだ」
嬉しそうなソフィア。
パンケーキか。材料費は200ギルもあれば足りる。これで勇者のモチベーションが維持されるなら安い買いものだ。
「分かった。じゃあ小麦粉と卵を買って帰ろう」
そんなことを話しながら歩いていると、前方にローブ姿の人物が立っていた。フードを深く被っているが、何かに驚いたように口を大きく開けている。旅人だろうか?
特に気に留めず。俺たちはそのまま横を通り過ぎようとした。その瞬間。
「ま、待って!」
旅人がソフィアの腕を掴んだ。
「え、え!?」
ソフィアが目を白黒させる。
旅人はソフィアの反応を見て、はっとしたように手を放した。両手でフードを下ろす。
長い耳に透き通るような肌、整いすぎた顔立ち。ちょっと言葉に困るぐらいの美少女。エルフだ。
「あ、あの!私!あなたと一緒に居たいの!」
「えっ!?えっと……え!?」
エルフがソフィアに向かって叫ぶ。ソフィアは思考がフリーズしているみたいだった。
「あ、突然ごめんなさい。わけがわからないわよね。えっと、その……」
俯いてしまうエルフ。こちらも思考が回っていないようだ。
……これじゃ話が進まない。ちょっと間に入るか。
「……よし、じゃあ順番に整理させてくれ」
俺はエルフに話しかける。
「まず名前を聞いていいか?俺はノル、こっちはソフィアだ」
「えっと、私はニーナ。ニーナ・セレスティンよ」
「ニーナだな。俺たちに危害を加える気はあるか?」
「いいえ!絶対にないわ!」
ぶんぶんと両手を振って否定するニーナ。嘘を吐いているようには見えない。
「そうか。じゃあ、とりあえず座って話そうか」
俺は通りの食堂を指さした。
「……あ、うん、分かったわ。」
頷くニーナ。少し落ち着きを取り戻した様子だ。
「え!?パンケーキは!?」
ソフィアが絶望の声を上げた。
俺はソフィアの頭をポンポンと撫でる。
「宿に帰ったら作ってやる。とりあえずこの人の話を聞いてみよう」
「……う、うん。……分かったよ」
なぜかソフィアの顔が赤い。ダンジョンの疲れが出ているのかもしれない。ついでに何か飲み物を飲ませよう。
ニーナが俺とソフィアをじっと見ていた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
食堂の隅の席。
飲み物の注文を終えた俺は、ペンと羊皮紙を取り出した。
「……ノル、なんで紙?」
ソフィアが不思議そうな顔をしている。
ヒヤリングの内容をメモするのは社会人の基本だ。俺は気にせずニーナに声をかける。
「では改めてだ。ニーナ、要望を聞かせてくれ」
「……ソフィアと、これからの時間を一緒に過ごしたいの」
なるほど。俺は紙に『要望:一緒に過ごす』と記入する。
「なるほど。それはどれぐらいの期間だ?」
「えっと、叶うのなら、期間はなしで、ずっと」
「無期限……っと」
続けて紙に記入を続ける。
「……よし分かった。こっちのソフィアは勇者で、将来的に俺たちはSSダンジョンの攻略を目指している。ニーナは何ができる?」
「勇者!……道理で。えっと、私は魔法使いよ。炎と氷は最上位魔法まで使えるわ」
え、今何て言った?
魔法使い。しかも最上位魔法を二属性も。
今のパーティはソフィアの負担が大きく、バランスが悪いと常々思っていた。ここに凄腕の魔法使いが加わればダンジョンの攻略速度は飛躍的にあがる。つまり、FIREに近づく。
これは、逃がしてはいけない人材だ。
ふと横に目をやると、ソフィアは俺をジト目で見ていた。どうした?
「おめでとうニーナ、採用だ」
俺は紙に『雇用契約書』と大きく見出しを書き、ニーナに差し出した。
「報酬は三等分だ。期間雇用ではなく期限なしの正社員登用。ソフィアと一緒に居たければ、ここにサインしてくれるか?」
「え、ええ……?えっと、ここに名前を書けばいいの?」
戸惑いながらも書類にサインするニーナ。
やった!これで戦力がグンと上がる。Bランクダンジョンにも挑戦できるかもしれない。
「……ねぇ、ノル。私、まだ一言も喋ってないんだけど」
納得のいかない顔のソフィア。頬を膨らませている。
「ああ、そうだったな。ソフィアから確認することはあるか?」
「え、いや、私はこのまま二人で……。いや、まぁ、仕方ないかぁ。そろそろパーティを増強したいって、言ってたもんね?」
ふぅと、ため息を吐くソフィア。
気を取り直したようにニーナに向き合った。
「……じゃ、私から質問ね。なんで私と一緒に居たいの?」
「えっと、私たちエルフはね、生き物の持つ魂の輝きが見えるの。あなたのは、まるで太陽みたいだった」
一拍置き、ニーナが続ける。
「一目惚れしちゃったの、あなたの傍に居たい。……その、できれば、結婚したいぐらい……」
「……えっ?」
固まるソフィア。
なるほど、ソフィアに恋心を抱いているのか。
パーティ内での男女間の恋愛はコンプラ違反だが、同性であればその限りではない。むしろ、この恋が上手くいけばより強固なチームが誕生し、強いモンスターと戦える。つまり、FIREが近づく。
俺がうんうんと頷いていると、なぜかソフィアの目からハイライトが消えた。責めるように俺を見ている。ちょっと怖いな。
ソフィアが気を取り直すようにぶんぶんと首を振った。
改めてニーナに向き合う。
「……じゃあ、もう一つだけ確認。ニーナさんは私の事が好きなんだよね?他の人を、近くにいる男性を好きになったりしないよね?」
昏い目だ。返事を間違ったら終わり、みたいな雰囲気がある。
……あれ?もしかしてこれは嫉妬か?ニーナには私だけを見ていてほしいとか、脈ありか?
「ええ!そんなことあり得ないわ!」
その返事を聞いたソフィアが、少し安心したように頬を緩めた。
「……ニーナさん、私はちょっと気持ちには応えられないけど、それでもよければ一緒に冒険してくれる?」
「え!いいの!?自分で言うのも何だけど、私、凄く怪しいと思うんだけど……。傍に居られるだけでもいいの。ありがとう」
優しく微笑むニーナ。
「よし決まりだ。ようこそ勇者パーティへ!俺はその恋、応援するぞ!」
「「えっ!?」」
二人が同時に声を上げた。ソフィアの目からはハイライトが消え、ニーナは何か信じられない物を見たような目をしている。
よく分からないが、これで火力が二人に増えて三人パーティだ。今日は本当にいい日だ。
帰ったらニーナの分もパンケーキを焼かないとな。
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