外伝 真壱、占い
根羅町某所。
真壱は、一軒の古びた建物の前に立っていた。
看板には小さく、
――占いの館。
そう書かれている。
「……占いねぇ」
真壱は扉を開けた。
カラン……。
「いらっしゃい」
奥から声が聞こえた。
そこにいたのは、一人の老婆だった。
黒いローブを身にまとい、長い杖を傍らに置いている。
そして――。
何とも言えない、独特の雰囲気を放っていた。
「何を占いたい?」
「運命の人」
真壱は即答した。
老婆は少しだけ目を細める。
「……ほう」
「分かる?」
「少し待て」
老婆は水晶玉に手をかざした。
しばらく沈黙する。
やがて――。
「……見えた」
「誰?」
老婆は答えない。
ただ、水晶を見つめながら呟いた。
「……女だ」
「へぇ」
「とても美しい」
真壱が少し眉を上げる。
「どんな?」
老婆は静かに答える。
「白銀の世界が似合うような女だ」
「白銀?」
「ああ」
「そして――」
老婆は水晶を見つめる。
「瞳が、とても冷たい」
「怖そうだな」
「そう見えるかもしれんな」
水晶の中に、白い影が浮かぶ。
「だが……」
老婆の声が少しだけ小さくなる。
「不思議な雰囲気を持っている」
「不思議?」
「ああ」
「美しいのに――」
老婆は言葉を選ぶように、一度黙った。
「どこか、儚い」
「……儚い?」
「そうだ」
老婆は頷く。
「まるで、雪のように」
「触れれば消えてしまいそうな?」
「……そう」
老婆は静かに答える。
「けれど――」
水晶の中の白い影が揺れる。
「なぜか、目を離せない」
真壱は少し考える。
「変な人だな」
「そうかもしれんな」
老婆は微笑んだ。
「その者と出会えば、お前にも分かる」
「何が?」
「その美しさと――」
老婆は水晶を見つめる。
「その儚さが」
「……」
真壱はしばらく黙っていた。
「名前は?」
老婆は首を横に振る。
「それは言えぬ」
「なんで?」
「まだ、その時ではない」
「……占いって面倒だな」
「そういうものだ」
真壱は立ち上がる。
「まあいいか」
扉へ向かう。
その背中に、老婆が最後に声をかけた。
「金田真壱」
「ん?」
「覚えておきなさい」
真壱が振り返る。
「その人は――」
老婆は静かに微笑んだ。
「とても美しい」
「そして――」
一瞬の間。
「とても儚い」
「…………」
真壱は少しだけ老婆を見る。
「……変な占いだな」
そう言って、店を出ていった。
カラン……。
扉が閉まる。
老婆は一人、水晶を見つめていた。
そこに映っていたのは――。
白い世界。
その中に立つ、一人の女性の影。
長い髪。
冷たい瞳。
この世のものとは思えないほど美しい姿。
そして――。
どこか、消えてしまいそうな儚さ。
老婆は何も語らなかった。
ただ、静かに水晶を見つめ続けていた。