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お稲荷様のお使いはじめましたが、村人が多すぎて覚えられません!~序章~


 歓迎会から数日。

 あの日吉津音村の人たちと挨拶をしたけれど、全然覚えられる気がしない。青い空に浮かぶ雲を見ながらついため息を零した。


「サクラ?」

「琥珀さん」

「ため息なんて吐いて、どうかしたのか?」


 仕事に向かう前の忙しい時間。そんな時でもボクを気にかけてくれる優しさに少し涙ぐんでしまう。慌てて目元を拭って不安を伝えると、琥珀さんは少し考えるように顎を手で触れた。


「よし。サクラ、今日は俺の職場においで」

「え?」

「よし、準備するぞ。御空、今日はサクラを仕事に連れて行くから」

「えぇ? まったく、急ですね」


 驚いている間にあれよあれよと着替えさせられて、御空さんが急いで用意してくれたお弁当を持たせてもらった。靴を履くと手を繋がれたまま色守荘を出た。

 村役場に着くと、一番奥にある会議室に通された。お茶を一杯用意してくれた琥珀さんは、ボクに一冊のファイルを見せてくれた。


「これは?」

「吉津音村の住民の名前とか家系図とかをまとめてあるファイルだ。村役場には村の外から来る人もいるからな。この村はお稲荷様への信仰と人の縁で成り立っているから、顔と名前と、家系図くらいは頭に入ってないといろいろ作業する上でも支障が出るんだよ。その対策で見ておいてもらうファイルなんだけど、今のサクラにも役に立つかもしれないと思って。読むか?」

「お借りします!」

「良かった。ただ、これは内部資料だからこの部屋の外に持ち出せない。読むならここで読んでもらえるか?」

「分かりました!」


 仕事に戻って行った琥珀さんを見送って、ボクはファイルを開いた。

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