今作は暗めの事情なしでやりてえなあ、の気持ちがある。それと全然書き溜め進んでなくて草なんよ(まだ二万文字ちょっと)。
―――
6
「あの……キヨヒコ。なんだかすごく見られている気がするのですが」
「みんなシャルが可愛いから見てるんだよ」
「ええっ!?」
驚きながら俺の身体で身を隠そうとするシャルを微笑ましく思いつつも、浴びたことのない視線の数に内心辟易しながら校門を潜った。
俺一人じゃあ目もくれないのにな。
シャルみたいに可愛い女の子がいたら見てしまう気持ちも理解できるが。
家から翠鸞高校までは徒歩十分程度の道のり。
通学に時間がかかるのは面倒だから一番近い高校に進学したのだ。
なのにこれだけ見られると、軽い騒ぎになるのが目に浮かぶ。
「悪意はないと思うから隠れなくてもいいと思うぞ」
「それはそうなのですけど……あんまり見られるのに慣れていなくて」
「イギリスではこうじゃなかったのか?」
「えっと……非常に言いにくいのですけど、小さな頃は病弱であんまり学校に通えていなくて」
申し訳なさそうに瞼を伏せたシャルへ二の句が継げない。
どうして俺はピンポイントで地雷を踏むんですか??
和やかな雰囲気が一転、一気に気まずくなったんだけど。
こういう時にかける言葉がすぐ浮かばないのはコミュ力云々の問題ではないと思う。
どちらかと言えば人生経験?
とてもじゃないけどオタクには厳しい。
そんな俺の困り具合を察したのかシャルが薄く笑った。
「あまり深刻に考えないでくれると助かるのです。今は元気で日本の学校に通うのは楽しみですし、キヨヒコもいますから」
「……それならいいけど、そういうのをあんまり軽々しく言うのはやめような。オタクじゃなくても男は簡単に勘違いするから」
「軽々しくはないのですよ? 家族を信用するのは当然なのです」
ああ、そっちね。
シャルは俺を|家族として《・・・・・》信用してるだけ。
断じて男として見ている訳ではないぞ東城清彦恥ずかしい勘違いはやめなさい。
ぶっちゃけ家族としての信頼だけでも分不相応だ。
だからこそ、裏切りたくないとは思う。
……変に嫌われたくないし。
「――清彦くん、おはよう。今日もいい朝だね」
そんな俺の隣へしれっと並び、声をかけてきた男子が一人。
爽やか極まる声の主はアイドル並に顔がいいイケメン男子、朝倉颯真。
一年の頃は顔よし声よし性格よしで学園カーストトップに君臨し、王子様なんて呼ばれていたこともある。
だが、ある拍子に真の姿を晒して以来、不名誉な呼び名がついてしまっただけでなく、一部の生徒から避けられるようになった憐れな男だ。
しかし、こいつの裏側を許容できる人間としては、気が良い友人なのは間違いない。
「颯真か、おはよう」
「清彦くんは相も変わらず素っ気ないなあ。ところで隣の天使みたいな美少女は清彦くんが春休み中に作った彼女だったりするのかい?」
「俺に彼女なんて出来るわけないだろ煽ってんのか? ん?? ……あれだよ、前に話した親戚の子」
「ああ、例の」
一言で納得したらしい颯真が背後を回ってシャルの隣へ。
「はじめまして。僕は朝倉颯真、清彦くんとは仲良くさせてもらっているんだ。君の名前を聞いてもいいかな……って、日本語わからないか。参ったなあ」
「あ、えっと……! 日本語で大丈夫なのです!」
「おや、それは助かるよ。それにしても上手いね」
「ほんとだよな」
「褒めすぎなのです……!」
口を揃えてシャルを褒めると、顔を赤くしながら否定していた。
本当に上手いんだけどな……俺がこのレベルで英語話せと言われても無理だし。
シャルがこほんと気を取り直すように咳払いをして。
「わたしはシャーロット・ホワイトというのです。至らぬところもあると思うのですが、仲良くしてもらえると嬉しいのです……!」
「シャーロットさんね。僕のことは朝倉でも颯真でも好きに呼んで欲しいな」
「それかロリコン王子でもいいぞ」
「えっ?」
「そんなに褒めないでくれよ照れるじゃないか」
俺が差し込んだ呼び名に困惑を示したシャルと、肩を竦めて笑う颯真。
何を隠そう元カーストトップの王子様、朝倉颯真は二次元専門のロリコンである。
癖がバレたきっかけは切り忘れていたスマホのアラーム。
アラームにセットしていたロリ系の目覚ましボイスが颯真のものだと突き止められ、ロリコンオタクの烙印を押されてしまったのだ。
そうして颯真の圧倒的な人気は失墜した……かと思いきや、ロリコン王子などと揶揄される程度の立ち位置に収まっている。
ロリコン以外の欠点がないためだ。
顔はアイドル並、性格も分け隔てなく優しい上に気遣い上手。
ロリコンということを忘れれば、非常に魅力的な人間なのが朝倉颯真という男。
「僕はただ二次元のロリを愛しているだけなんだ。あの幼く愛らしい存在の全てを……ッ!!」
「とまあ、こんな具合だが、これでもこいつはモテる。でも全部ロリじゃないからと断る異常者だ」
「純粋だと言ってほしいね。あと、三次元は専門外なのさ」
「贅沢者め。私怨だけどいつか刺されてくれ頼むから」
「それは勘弁願うよ。ロリになら刺されても本望だけれどね」
無敵だろこいつメンタル強者過ぎる。
顔がいいオタクほど妬ましいものはない。
しかし、学校というクローズドな場で性癖を晒しながらも、自分を偽らなかった颯真は真なるオタクなのだろう。
その一点において、俺は颯真を信用している。
オタクは癖に忠実であるべきだ。
「シャル。ここまで聞いて信用できないかもしれないが、颯真は信用できる。困ったことがあれば頼るといい」
「編入となれば色々大変だろうから、僕で良ければ微力ながら力添えさせてもらうよ。まあ、シャーロットさんになら誰でも力を貸してくれると思うけれど」
「ありがとうなのです、朝倉さん。人見知りなところがあるのでキヨヒコのお友達に頼れるのは助かるのです」
「ロリコン王子じゃなくてよかったな」
「僕はどう呼ばれてもいいんだけれどね。にしても二人は仲がよさそうだ。シャルにキヨヒコ……もしかして既にそういう仲だったり?」
「しない」
「どういうことなのです?」
「ははは、これは失敬」
変な探りを入れてきた颯真にはきっぱり否定を示しておく。
これが他の男ならシャルを狙っているのかと思うのだが、颯真だからな。
単に言ってみただけだろう。
そうこう話している間に昇降口へ辿り着き、張り出されているクラス分けの紙へ目を通す。
うちの学校では毎年クラス分けが変わる。
昨年は颯真と同じクラスで、もう一人の知人は別だったけど――
「俺は二年二組らしい」
「わたしも同じクラスなのです!」
「奇遇だね。僕もみたいだ」
「シャルは俺が親戚だから一緒のクラスにされたのかもな。颯真はただの偶然か」
「僕は嬉しいよ?」
「そうかい」
颯真の軽口を流しながらもう一人の知り合いの名前もクラスにあるのを確認。
今年は騒がしくなりそうだな。
……まあ、それはそれで悪くない、か。