――次の夏まで、待てないかもしれない。
大正十年、冬の帝都。
病弱な旧家の若主人・花房清継のもとで、長年仕えてきた深見静馬には、誰にも明かしていない計画があった。
夏の花火を見られなかった清継のために、冬の海へ花火を上げること。
ただ、それだけだった。
ところが静馬が花火師へ手紙を送り、金を動かし、夜ごと海辺へ通い始めた頃、彼の背後に帝都警察の影が現れる。
清継から依頼を受け、静馬を追うことになった軍探偵《紅椿》が見つけたのは、火薬、秘密の書簡、古い写真、そして一つの窓へ向けて引かれた海上の線だった。
恋人に花火を見せたい。
そんな願いを証明するために、いったい何枚の紙が必要なのか。
やがて警察が踏み込み、静馬が連行されようとしたそのとき、《紅椿》は机いっぱいの資料を抱えて前へ出る。
「彼ではなく、私が」
そして。
「今から、私が説明します」
これは、次の夏を約束できない二人が、
今夜だけは確かに一緒にいるための、冬花火の物語。