『マキマキ(槙)は、どんな感じがええのん』
「つり目の玉●宏みたいな感じがいいです!!!(大声)」
私(わたくし)としては、それでもう薬師堂槙の眉目から骨格、立てば黙らせ、座れば上座、死ねば遺言で人を動かす、ド長男の威圧感まで、余すところなくお伝えしたつもりでした。
俳優の名前をひとつ卓上へ置けば、あとは絵うまお姉さんが香箱を開けるように私の脳内を展開し、必要な部品を拾って組み立ててくださるものと、こちらは無邪気に信じていたのです。
ところが、大阪訛りの脚長ビューティーギャルお姉さんは電話の向こうで難しい声を出しました。
『それってさあ、うちからしたら玉●宏は「の●め」のイメージなんよ。千秋先輩って、どっちかいうたらコメディの男やん。ていうか玉●宏、がっつりタレ目やけど。槙なん、それ(笑)』
「おおおおお………………?」
違います。
私(わたくし)が申し上げているのは、玉●宏氏の顔面および骨格をいったん土台として拝借し、そこから朗らかさを抜き、目元だけをつり上げ、旧家の長男として生まれ落ちた者に特有の諦念と威圧感を練り込み、最後に三十二歳で死ぬ運命(さだめ)の男の色気を刷毛で薄く塗っていただきたい、という話です。
槙が白目を剥いたり、後ろからハリセンで殴られたりするという意味ではありません。
しかし、それを口で説明する能力が私に備わっていたなら、初手から「つり目の玉●宏」などという、玉●宏氏ご本人にも槙にも些か失礼な、この世に存在しない男を発注書代わりに差し出し、すべて伝え終えた顔などしていないのです。
『ウケる~。アンタが原作なんやから、黙っとっても分からんやろ?(笑) いや、マジで』
「おおおおお………………」
脚長ギャルお姉さんに追い詰められた私はとうとう人語を失い、喉の奥から低い音を漏らすばかりの、原作者という肩書だけを首から提げたオタク以下になりました。
『つり目の……ええとこの……長男やろ。ハイハイハイ……』
それでも脚長ギャルお姉さんは、私の湿った鳴き声をひとつずつ採取して濾過し、その底に沈んでいた「つり目」「旧家」「長男」の三成分だけを正確に掬い上げると、
通話の向こうでさらさらと槙を描き始めました。
原作者の頭蓋をカチ割りもせず、その中身を原作者より正確に取り出していきます。
『槙って、まさしく長男って感じやね』
描けば描くほど、お姉さんの中では槙への理解が深まり、人物像が血肉を得ていく一方で、その生みの親を名乗る私は、受話口へ向かって相変わらず鳴き声を聞かせておりました。
やがて、ペンを走らせる音が止まりました。
『できたよ。うーん、アンタ好きだと思うけど(笑)』
その言葉には、長年こちらの性癖を観察してきた者だけが持ち得る、医師の診断にも似た確信がありました。
送られてきた画像を開いた私は、ひと目見るなり肺の空気を細く吸い込み、
「ヒィッ! これです!!!」
そこには、私が「つり目の玉●宏」としか説明できなかった男が、眉の角度から口元の薄笑いまで何ひとつ間違えず、すでに屋敷も会社も弟たちの人生も自分の所有物であると承知した顔で立っておりました。
この世へ生まれた瞬間から遺言を用意していそうな、まごうことなきド長男でした。
中でも私がたいへん気に入ったのは、槙の口元です。
唇はむに、と柔らかく、口角だけがにゅん、と持ち上がっており、真顔でいてもわずかに笑って見えます。
この「にゅん」は良い!!!!!
たいへん由緒正しい「にゅん」であると判断した私は、その口元を薬師堂家の血を引く者に共通する安静時の身体的特徴として正式に採用しました。
ただし、この「にゅん」について、本文では一度も説明しておりません。
いくら薬師堂家の血筋を示す特徴とはいえ、
攻め赤ちゃんたる嘉内が、兄弟の口元を順番に覗き込み、「あなたも槙さんと同じ角度で口角が挙上していますね」などと指摘して回るわけがありませんし、登場人物の眉がどう曲がり、鼻梁が何度の傾斜を描き、唇のどの部分がどれほど「にゅん」としているのかを、原作者が本文でくどくど申し述べるのもナンセンスです。
キャラクターデザインにおいて、ある程度の記号化が必要なのは承知しております。
しかし、実際の人間の顔は、特徴をひとつずつ読み上げれば完成する記号の束ではありません。骨の上へ筋肉と脂肪と皮膚が重なり、その内側には血管と神経が通い、笑い方や歯の食いしばり方、眠れなかった夜や生き延びてきた年月までが、少しずつ顔の形を変えていきます。
絵で伝わる造形は絵へ任せ、本文では彼らが何を考え、何を選び、誰の人生がこうなったか、を書くべきでしょう。
↓画像あり
こうして薬師堂家の血統は、口角から始まったのです。
『薬師堂家の未亡人たち』薬師堂柊 キャラデザへ続く
※本稿は事実をもとに脚色しております。