朝6時ごろのことだろうか。
少女は鋭く尖ったカッターを持って部屋のお風呂場へ向かった。
「いっぱい血出したら紅華《くれは》ちゃん、喜んでくれるかな」
ふん、ふん、と鼻歌を歌いながら足取り軽く、少女はお湯の張っていない浴槽へ入った。
「そしたらきっと、わたしを紅華ちゃんの“眷属”にしてくれるよね。だって紅華ちゃん、わたしのこと好きだもんね。死なせたくないもんね」
真っ白なブラウスの袖を少女はまくる。
「白羽《しう》?どこにいるの?」
白羽、と、浴槽に入った少女の名前を呼ぶ声がわずかに聞こえる。
「紅華ちゃん、わたしのこと探してくれてる」
ふふふ、と甘い笑い声が浴槽に響いた。
ひんやりとした刃先が白羽の手首に添えられる。
「紅華ちゃん、こっちだよ」
血が、白いブラウスを赤く染めた。
何度も何度も、執拗にカッターの先は白羽の手首を往復する。
熱い。気持ちいい。
白羽はとろけるような意識の中で名前を呼ぶ。
「紅華ちゃん、だぁいすき」
***
息を切らしながら、少女、紅華は部屋中を駆け回る。
いつもは隣でぐっすりと眠っているはずの白羽が今日はいない。
それだけで紅華の不安はもくもくと膨らんでいく。
ベッドの下、トイレの中、カーテンの影。
どこを探しても愛しい人の姿は見当たらない。
紅華が浴室に着いたのは、白羽の体温が下がっていく頃だった。
「白羽!?」
浴槽でぐったりしている彼女に意識はない。
片手にカッターが握られ、もう片方の手首がおぞましいほどに傷つけられていた。
紅華は目を涙でいっぱいにして白羽を抱き上げる。
紅華の白いブラウスもまた、赤く染まった。
「白羽……わたしの大好きな人」
細い白羽の首元にそっとキスをして舌を這わせた。
「ごめんね」
紅華はその首に牙を当てた。
牙は白羽の首に深く、深く、刺さった。
「……やっぱり、助けてくれると思ってた」
つい先程まで冷たくなっていた白羽は紅華を見るなり跪いた。
「ありがとう。わたしのご主人様」