第四章 降魔戦争開戦

 リリトは単身で、アーベルの屋敷に辿り着いた。

 大きな庭があり、まさにお屋敷と呼ぶにふさわしい家である。

「アーベル! 何処にいる! 姿を見せろぉ!」

 瞳孔が開いた目で、リリトは叫んだ。屋敷から一人の仮面を付けた男と、チャイナドレスを着た少女が現れた。

 以前、リリトと戦った事のあるリーヅであった。

「君がリリトか、お初にお目にかかる。アーベルは生憎眠っているよ。要件は……一応聞いておこうか?」

「ゼッハを返せ!」

 仮面の男は笑いだした。

「ははは……あっはっはっは! 憎いシンゲンの娘か?」

「どうして、こんな真似をする」

 仮面の男は低い声で言った。

「復讐だよ。勝手に死んだあの男に対するな。残念だが、ここにはゼッハはいない。別邸の方で預かっているよ。後程、来たまえ。生きていたらね」

 そう言うと、仮面の男はゆっくりとその場からいなくなった。

 残されたリーヅは静かにリリトに尋ねた。

「鉄腕は ?メイドさん」

「鉄腕はもう来ません」

 がっかりした表情を向けると、突如リリトに向かって走り出した。

 右腕が肥大化し、リリトを襲う。

 それを避けるが、リリトは逆方向から思わぬダメージを受けた。

「貴女……それは!」

 リーヅの両手が肥大化しているのである。

「お前と鉄腕を滅殺する為に、私は兄様を食べた」

 段々、リーヅの髪の色が真っ白に染まる。

 以前と違う所は、目は赤く染まり、頭から動物の耳が生えている事だった。

 リリトに詰め寄るリーヅのスピードは、以前を遙かに凌駕していた。

 そして、両腕を変異させたリーヅの戦闘能力は、リリトと同等の物を持っていた。

 何とかリーヅの攻撃をよけ、リリトの高速の掌底、パンツァ・ファウストを放つがそれを両腕で受け止めるリーヅ。

「そんな……」

 前の戦闘ではリーヅの腕を打ち抜いたリリトの必殺攻撃だったが、今回はリーヅが耐えきった。

「身体を少し硬くした。もう、お前の攻撃は届かない。次はこっちの番だ」

 リリト攻撃が無効化された事で、リーヅの一方的な攻撃が始まった。

 避け続けていたリリトだが、攻撃の一つがヒットする。

「ぐぁ……」

 倒れるリリトに詰め寄ると、リリトの頭を掴む。

「死ね」

 リリトの身体に、巨大な腕を叩きつける。

 ――刹那、ドラムを叩くような大きな音が響き、リーヅの腕を何かが貫通した。リリトを離すと、音のする方をリーヅが振り返る。

「やっほー、メイド長! 生きてる?」

「……お前は……鉄腕っ!」

 赤い瞳を大きく開き、今まで戦っていたリリトを無視し、ブリジットに駆け寄る。ブリジットは冷静に狙いを定め、アサルトライフルの引き金を引いた。

 反動で数回、ブリジットが小刻みな反復運動をする。

 そして、リーヅの腕に大きな穴がいくつも開いた。

「どうだ? 対戦闘ヘリ用のバレットの味は?」

 驚いた顔で、その様子を見るリリト。

「ブリジット、どうして……貴女、動けるような怪我では」

 頭をかくと言った。

「このままサヨナラなんか出来るわけないさ。とりあえず、お嬢様奪還に行きますよ。まずは、この狼ガールを倒します。メイド長もこれを!」

 M16をリリトに投げると、ブリジットは、さらにリーヅに弾丸を撃ち込んだ。それに続き、リリトも引き金を強く握る。

「貴女には恨みはありません。ですが、ゼッハを救う為に方法は選んでられません。貴女が立ち塞がるなら、殺してでも押し通ります」

 アサルトライフルの火力の前に、リーヅの再生が追いつかない。

「ちくしょう……鉄わ……ああぁあああ」

 身体の至る所を打ち抜かれながら、リーヅは捨て身の突進をかけた。ブリジットは、腰に手をかけ、手榴弾のピンを抜いた。

「地獄で待ってなよ。その時は、殺されてやっからさ」

 MK-Ⅱをリーヅに向けて、放り投げると、それをAKで撃ち抜いた。

 リリトは目を背け、ブリジットは煙草を一本取り出すと、それに火をつけ、十字を切った。

 一服つけると、ブリジットは言った。

「メイド長、行くよ」

「えぇ」

 その時、リリトの鼻がピクリと動いた。それに遅れて、ブリジットも気づいた。

「厄介な奴がいたもんだな」

「この香りは……」

「メイド長、これはバーサーカーポーションだよ。あのサムライビッチだ。私のバイクで先に行って! あいつは私が殺る」

「ですが、ブリジット……」

ブリジットが、相当無理をしている事を、リリトは分かっていた。

「大丈夫、早く行って! 私のバイクは表にあるから!」

 玄関から覗く離れた所に、対戦車ミサイルを括り付けてあるブリジットの青いバイクが見える。

 そこに向かおうとするリリトの前に、サヤカが立ち塞がった。

「別館には行かせません。ここで貴女達はヴァルハラに逝くのです」

「行け! メイド長!」

 アサルトライフルを連射しながら、ブリジットはサヤカに詰め寄った。

 サヤカは銃弾を避けると、ブリジットと交差した。

 金属が擦れ合う嫌な音が響き、ブリジットの持つAKが銃身から切り落とされる。

 すかさず、サヤカは振り下ろした刀をそのままブリジットに振り上げる。

「まずは死に損ないを一人」

 サヤカの振り上げる日本刀の前に、ブリジットが二丁の拳銃を抜いて受け止めた。その銃身の先にはコンバットナイフの刃が仕込まれている。

「私が軍にいた時の相棒、デネブとベガだ。次は簡単に殺られない。サムライビッチ!」

 青く塗装された改造ベレッタを握り直すと、そのまま引き金を引いた。リリトがバイクに跨がるのを確認すると、さらにブリジットは追い打ちをかける。

「ブリジット、どうかご無事で」

 リリトに返事をするように、左腕を上げリリトを見送ると、ブリジットの顔つきが変わった。

「お前は私の本能が危険だと叫んでいる。さっきの雨妹の方が戦闘能力は高いかもしれない。しかし、お前はそういうレヴェルのものじゃない。クレイジーな奴はこの世界、沢山いる。だが、そのどれともお前は違う。お前は何だ?」

 刀を鞘に収めると、サヤカは言った。

「第一のワルキューレ、シュベルトライテ。絶望の世界を見て、神に転生した者。別名をオーガイーター」

 ブリジットの唇が緩んだ。

「処刑されたって聞いてたけどな。そりゃウルトラクレイジーだはな、お前!」

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