3:黒猫ⅩⅥ

「随分と派手な格好だ。見違えたぞ」





 突然現れた男は、青髪を揺らしてそう言った。魔界からやって来た処刑人、ギルを知る様子のその人は、片手に白い銃を所持している。この人も、魔界から来た一人なのかもしれない。





「質問に答えたらどうだ? どうしてお前が此処にいる」





 手酷くやられたようで、血を流すギルは言う。





「おかしな奴だ。お前がいると知ったからに決まっている」


「ちっ、そうかよ」





 ギルは舌打ちをしたあとは黙ってしまった。同様に、ギルを追ってきたという、この人も黙ってしまった。そして……。








「まさか……人間を連れていたとはな」





 先に口を再び開いたのは、青髪の男。視点は、二人が話している間にリリアに駆け寄った私に向いていた。





「お前には関係ねぇよ」


「そうはいかない。見れば一般人だ。保護の必要があるだろう」





 なら、とギルは失笑しながら言葉を発した。





「今俺が、そいつを囮にしていると言ったら?」


「何……だと!」





 その人は更に真剣な面持ちになる。そして、手にしていた白い銃をギルに向けた。





「ちょっと!」





 たまらず私は叫ぶ。急に現れ、訳も分からないまま勝手に話が進んでしまっているのだから。





「……あんたは黙ってろ。こいつが何なのか知っているのか。こいつは、すぐにでも殺すべきだ」





 殺意がより濃く宿る眼光を、銃と同様、真っ直ぐにギルに向けていた。





「待って。それは、どういう意味?」





 私はギルに向けられる銃を押さえて向きを変えた。近寄り難い雰囲気を持っていたものの、自分と同じ人間の外観だったせいだろうか。さっきの恐竜に比べれば、恐怖は幾分かマシだった。





「離せ」


「離したら撃とうとするでしょ」


「離せ。あんたから撃ってもいいんだ」





 そう言って、銃口をギルから私に向け直した。





「……!?」





 青髪の男は飛び退く。


 リリアが立ち上がり、風を起こしたからだ。





「サキから、離れて」





 ボロボロだというのに、リリアは攻撃を続ける。刃のような風の連射だった。





「しぶとい奴だ」





 大きく飛翔して、その人が改めて銃を構える。空から射撃しようとしていた。





「……!?」


「どうした? 隙だらけじゃねぇか」





 銃を構える男も、背後から現れるギルには、とても反応出来なかったようだ。そのまま銃の男は会心の一撃を喰らった。





「ギルっ!」





 男は叫ぶ。地表近くでなんとか受け身をとり、着地する。





「隙を見せたお前が悪いんだよ」





 ギルも着地を終え、戦闘態勢を取る。


 突然、地に倒れる音がした。





「リリアっ」


「ハァ、ハァ……」





 既に限界なのに、無理をしたからだ。





「……そいつはほっといても死にそうだな」





 青い髪の男は冷淡な声を投げ掛けた。男は意外なことに、銃を納めて背を向けた。





「おい、俺を殺しに来たんじゃないのか?」





 ギルも呆気に取られたようだ。敵対の相手に疑問をぶつけた。男は背を向けたまま答える。





「殺したいのは山々だ。だが、今回は許可が下りていない。どういうわけか俺には分からないが、お前だけは先送りにされている」


「へぇ。上の奴らは俺にビビってんのか?」


「俺が知るか。危険視されているのは事実だ。だが、必ず俺が殺してやる」





 そして男は闇へと消えた。

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