第1話 勝手気ままな司令官《コマンダー》



 航路管理衛星。

 それは、星系内におよそ100万基ある航路標識ビーコンを、保守管理するために作られた施設である。


 そのうちの1つ。航路管理衛星≪BCS-32≫は、12の惑星を持つラーブリア星系の、第7・第8惑星間宙域ちゅういきにあった。


 衛星本体は、独立戦争時に建設された補給基地を再利用したものである。しかし、現在では施設のほとんどが閉鎖され、限られた区域にのみ電力が供給されている。


 その最深部、中央制御室メインコントロールに1人の女性がいた。


 エイーダ・ローレンセン。

 航宙軍航路局所属、階級は中尉。

 この衛星の、たった1人の管理責任者である。


 エイーダは、並んだオペレーター席の後ろにある司令官席に座り、巨大な壁面ディスプレイが発する青白い光に目を細める。ディスプレイには、航路標識ビーコンがつくりだす巨大なレーダー網が表示され、船を示す無数の光点がチカチカとまたたいている。


「リアルで人に会うの、いつぶりだっけ……」

 オレンジ色に輝く髪をかきあげ、アンダーリムのメガネ越しに視線を動かした。視線に反応したシステムが、レーダーの一部を拡大表示し、衛星に接近してくる1つの光点をマークした。


「システム、この船に関する情報を表示せよ」

 即座に、新しいウィンドウが開く。


「なんだ、わかってるのは船籍と名前くらいか。システム、この船について情報収集を開始せよ」

『了解。開始します』

 システムが無機質な音声で答える。


「さあて、久しぶりのお客さんだ。奮発するかね」

 エイーダは、気だるげに立ち上がると部屋を後にした。



※2


 惑星ユーリアの衛星軌道港≪オービタル3≫を出港したラリ・ホー号は、惑星の重力圏を離れつつあった。


 3人は艦橋ブリッジに隣接する休憩室ラウンジで、ようやく食事にありついていた。入港から出港までたった20時間で整備と補給を済ませ、やっと船を自動航行モードへ移行させたところである。


「よくもまぁ、そんなもの嬉々ききとして食せますわね」

 容器に顔をうずめるマリコの隣で、クルミは形のいい眉をひそめた。

「ほお、カップ麺をバカにするか。こいつは、宇宙開拓期を支えた由緒ある食べ物なんだぞ」


 ちぢれ麺にジェル状のスープがからみつき、見た目はあんかけ焼きそばに近い。安価で高カロリー、かつ味もそれなりにいけるとあって船乗りに人気のロングセラー商品である。


「由緒と味は別次元のお話ですわ」

「味だっていけるよ? まあ、どうせ辺境出身のボクには粗食がお似合いだよ」

「そういう問題ではありません。宇宙だからこそ、食こそが人間の人間たる……」


「そうだ、アイス食ーべよ」

 ラナが、テーブルの向こうで勢いよく立ち上がる。

 クルミは切なげな表情を浮かべた。


「お2人とも、食は生活の基本ですわ。せっかく港で生鮮食品を買いこんであるんです。ジャンクフードばかりでなく、もっといいものを食べるべきですわ」

「そう? じゃあ、奮発してチョコチップとマンゴーシロップをたっぷりと……」

「いえ、そうではなく……」


「だって食べたいんだよ? それくらいしか楽しみがないんだよ? 退屈なんだよ?」

 カップに山盛りのアイスに、ラナはチョコチップをまぶしていく。もはや、シロップをかける隙間もなくなった光景に、クルミは小さく頭を振った。


 料理担当のクルミは、惑星ユーリアの軌道港で欠かさず生鮮食品を購入し、常に栄養バランスを考えた食事を心がけている。しかし、そんなメニューに対して、ラナとマリコが子どもじみた抵抗を試みることに頭を悩ませていた。


「そういえば、今回の積荷に珍しく食品があったねー」

「はい。コンテナで3つ。あとは、船の修理機材や電子部品です」


 引き受けた仕事は、航宙軍航路局からの輸送依頼。予定していた無人輸送船が欠航になったため、航路管理衛星≪BCS-32≫に指定されたコンテナを届け、帰りに廃棄物のコンテナを積んで戻ってくるというものである。


「航宙軍にしては、ずいぶん高価な食材が多いですわね」

 クルミが端末を操作し、テーブルの上に契約書類を立体表示させた。


「ランジュラ産ワインにユキカモシカの燻製くんせい、オオトビウオの羽なんかもありますわ」

 表示させた積荷の一覧をスクロールさせながら、クルミが読み上げる。


「ずいぶん高価な食材ばっかりだなぁ」と眉をひそめるマリコ

「軍のお偉いさんがパーティでもやるのでしょうか」

「じゃあ、パーティ潜入作戦でも立てる? 勝利条件は珍味のおすそわけ!」


 そう言ったラナが、いきなり自分の額をこぶしでゴツゴツと叩きはじめる。

 アイスクリーム頭痛は、叩いて治るものではない。


「でも、本当にパーティがあるのでしたら、お偉いさんとお知り合いになって、いいお仕事をいただきたいですわ。借金も、たーっぷり残ってることですから」

「げ、嫌なこと思い出させるなよ」

 顔をしかめたマリコは、そらした視線の先で同じ表情のラナに出会う。アイスの甘さでは勝てない、現実の苦さである。


 船を買うために、3人は数十年にわたる長期ローンを背負っている。当然、船は担保たんぽになっているため、返済ができなくなれば船を失い、自由航海者ランナーとしての仕事もできなくなる。


「いっそ、でっかくひと儲けしたいねえ」

「マリコさん。あなた、仕事探しを人任せにしておいて、よくおっしゃいますわね」

「あ、いや、その……」


「低リスクで収入が見込める仕事を探すのが、どれだけ大変か。ご存知ないんでしょう」

「あ、えっと、頼りにしてまーす」

 虎の尾を踏みかけたと気づき、マリコは軽く敬礼した。

 交渉事や対人スキルに乏しいと自覚するマリコにとって、クルミはまさに雲の上の存在である。


「低リスクは大事だけど。ちょっと退屈かなぁ」

 アイスのスプーンをくわえながら、ラナがつぶやく。

「少しくらい退屈でもいいじゃないですか。やっと手にいれた自由なんですから」

「まあね。それは、わかってるんだけど」

「わかりました。今度は、少し違った種類の仕事も探してみます」

「うんうん。よろしくね」


「んで、悪いヤツにひっかかって違法ドラッグの密輸に加担させられるとか。嫌だよそういうのは」

「あら、ヒッキーなマリコさんとは違って、私そんなにマヌケじゃありませんわ」

「ボクはひきこもりなんかじゃない。船にいる方が落ち着くってだけだ。用があれば港にだって降りる」

 ムキになって反論するマリコに、クルミは無言で慈愛の笑みを浮かべる。


「たとえばさあ、敵基地への潜入とか、決死の脱出とか、そういう血き胸おどる冒険とか、してみたいよねー」

 およそ無理難題を羅列して、ラナはアイスのスプーンを剣に見立てて突き刺すマネをする。山盛りだったアイスは、すでに空になっている。


「それを言うなら、血湧きだよ。いいよね、おどるほど胸があってさ」

「うん、なんていうか、たまには刺激のある仕事もしたいかなーって」

「スルーかよ」

 マリコは、傷ついた目で迫力あるラナの胸元をぼんやりと見つめた。



※3


「航路管理衛星BCS-32、光学で確認しました」


 望遠でとらえた衛星の姿は、中央部に厚みのある円盤に見える。その壁面はすべて保護塗装の灰色で塗られ、円周に沿って並ぶ閉鎖式ドッグの赤い誘導灯が点滅しているだけである。軍事施設らしい実用性を追求したその姿に、クルミは寂しげな表情を浮かべた。


「船長。そろそろ、管制への通信回線を開きます」

「あ、ちょっと待って。えっと、相手の名前なんだっけ?」

 照れ隠しに笑ったラナに、クルミは笑顔で応じて依頼書類を船長席へ送った。


「管理責任者は……って、ここ1人しかいないんだったね」

 ラナは書類をスクロールさせ、管理責任者のページにたどりつく。


「エイーダ・ローレンセン、階級は中尉。よし、回線開いて」

「了解。回線開きます。……どうぞ」

 船長席の通信パネルに接続完了サインが表示され、ラナは口を開いた。


「航路管理衛星BCS-32管制へ、こちら船籍番号YRX-778ラリ・ホー号。船長のラナリータ・キュイ・ミーティアです。航宙軍航路局より依頼されて、コンテナを運んできました。入港許可願います。どうぞ」

 ほっとした表情で言い終えると、すぐに応答があった。


「ラリ・ホー号へ。こちらはBCS-32、エイーダ・ローレンセンだ。貴船をレーダーと識別信号で確認した。進入航路は許容範囲内、入港を許可する。1号ドッグへ入ってくれ」

 エイーダは、どこか気の抜けた声でそう言うと、ひと呼吸おいてさらに続けた。


「ところで、今ちょっと水先案内パイロットプログラムの調子がよろしくないんだ。ちょっと、調整が終わるまで待ってもらいたいんだが、どうする? もしよかったら、手動操船マニュアルで入れてもらっても構わないんだが……」


 水先案内プログラムは、船の入出港に入港側コンピューターが使う自動航行プログラムである。操船をコンピューターに任せることで、混雑時の渋滞と、操船ミスによる他の船や施設が破壊を防ぐことができる。その使用は航宙法にこそ明記されていないが、施設を破壊して弁償させられるくらいならと、ほとんどの船が素直に受け入れている。


「ここまで来て立ち往生おうじょうか。せっかく時間通りだってのに」

「仕方ありませんわ。調整が終わるまで少し待ちましょう」

 2人は最終判断を求め、船長席へ視線を向ける。


「んー、でも、これってチャンスじゃない?」

 見開いたラナの瞳が輝いていた。

 予想通りの表情を確認した2人は、そろって覚悟の表情を浮かべた。


「大丈夫だって。シミュレーションでも実地訓練でも成功してるんだから」

 ラリ・ホー号を手動操船マニュアルで入港させるのは初めてである。クルミの脳内では、考え得る最悪の事態が次々とリストアップされていった。


 船乗りにとって、手動操船による入出港作業は緊急時の必須スキルである。3人もシミュレーション訓練を繰り返し、その手順は忘れようがないほど脳内に刻まれている。実際に、小惑星を目標にした訓練にも成功し、自分たちの技量にも疑問はないはずだった。


 しかし、今回のような閉鎖型ドッグへの入港は難易度が高い。少しでも船体が回転していたり軌道がずれていれば、ドッグと船体双方に被害が生じる。もちろん、事故が起きれば弁償するのは船側である。


 船長を信じて、自分のできることをしっかりやる。

 それが乗組員クルーの役目。


 湧き上がってきた不安を手放し、クルミは船長席に大きくうなずいてみせる。その視線の端で、すでに作業をはじめているマリコを見つけると、遅れを取り戻すべく席へと向き直った。


「よーし、がんばろう! それに、水先案内プログラムって、どうも好きになれないんだよ。なんていうか、自分の船なのに勝手に動かされちゃうわけでしょ?」

 返事をする余裕のない2人に代わり、AIが律儀に返事をした。

『同意します。船は、船長の指示のもとで航行されるものです。まろうどは、本船が外部プログラムにコントロールされることを望みません』


「だよね。あ、でも、まろうどのコントロールもいらないからね」

了解イエス。まろうどのコントロールが完璧であることについては、今さら証明の必要もありません』

 うんうんとうなずくと、ラナは通信パネルを操作し、手動操船で入港することを伝える。そして、操舵席へと移ると鼻歌混じりで作業を開始した。



※4


 水先案内パイロットプログラムに不調などない。

 我ながら意地悪だな、とエイーダは思った。


 選択の余地は与えたし、事故になりそうなら手を貸す用意もある。悪意があるわけでもない。ただ単に、戦闘艇のパイロットだったという船長の、その腕前を見てみたかったのである。


 エイーダは、そんな言い訳じみた思考の末に、もっともらしい結論にたどりつく。しかし、その本音は、単なる暇つぶしのお遊びに過ぎなかった。


「まぁいいや。せっかくだから、楽しませてもらうことにしよう」

 ディスプレイには、船の予想軌道や現在座標が簡略化され、リアルタイムで表示されている。エイーダは、それを視界の隅にいれながら、まるでスポーツ観戦でもしてるかのように、気分が高揚していくのを感じていた。


「いつもの無人輸送船が欠航って聞いた時には頭に来たけど。代わりに、面白い船が来てくれたんだ、感謝しないとね。システム、ラリ・ホー号に関するデータをもう1度、見せて」


 音声に反応したコンピューターが、新しくウィンドウを開く。そこには、コンピューターがこの短時間のうちに集めてきた、ラリ・ホー号に関する情報が表示されていた。


 情報の入手先を、軍のデータベースと星系ネットワーク、さらに造船会社や航宙船マニアのデータベースにまで拡げてあるため、集まった情報量は膨大なものになっていた。


「あの3人、いい仕事してるんだね。軍の評価は中のだけど、ざっと計算しても燃費効率は平均以上だ。今回の航路計画も、急な出港にも関わらず、なかなか経済的な軌道を選んでる……」


 1人が長いせいか、すっかり独り言がクセになっている。はじめの頃こそ抵抗があったが、今ではむしろ精神安定剤であった。


「メーカー公式の船種クラスは、ランス級快速輸送船っていうのか。高速じゃなくて快速ってあたりからもう個性的というか、コンセプトシップを思わせるよね。あー、なるほど倒産寸前の造船会社が起死回生を狙って開発したのか。……で、会社はやっぱり倒産と。パーツ交換とか、どうすんのこれ」


 エイーダのおしゃべりはまだまだ止まらない。


「そして驚きなのが、船長のラナリータ・キュイ・ミーティアだ。元航宙軍の少尉で、しかも戦闘艇のパイロットって、すごい前歴だよ。一身上の都合により依願退職か。なにがあったのかねえ。まぁ、退職理由なんて、聞いて楽しい話じゃないけどさあ」


 エイーダとしても、本人に根ほり葉ほり聞くつもりも、非合法な手段を用いて調べるつもりもない。情報を集めるのは、あくまで知的好奇心を満たすため。それを何かに利用しようとは思っていなかった。


 合法的、かつ自分に許された範囲内で。

 手持ちの札を最大限にいかして、思う存分に私利私欲を満たすのが、エイーダのポリシーであった。



※5


「さすが元軍事基地。この大きさなら、巡航艦クルーザークラスでも整備できそうだな」

 マリコが角度をあれこれ変えながら見ているのは、1号ドッグの立体構造図。たった今、光学観測と各種センサーによってミリ単位で測量されたものである。


「幅も高さも、余裕があって助かりますわ」

「だからって、なにもタイムアタックすることはないと思うけど」

 マリコは、スクリーンの片隅で経過時間をカウントアップするタイマーを見て、ゆっくりとラナへ視線を向けた。


「え? 気分だよ、き・ぶ・ん。達成目標があった方が楽しいでしょ?」

「無駄にプレッシャー感じるよ」

「船長さえよろしければ、いいんですけど。でも、やはり落ち着きませんわ」

 カウントダウンじゃなくてよかった、とクルミは思った。


「船体の180度回頭かいとう、完了。あとの軌道修正もこっちでやるね。クルミは進路の最終確認、マリコは出力調整、任せたよー」

 操舵席のラナは楽しげであるが、両隣の2人は笑う余裕もない。


 船は推進器側をドッグへ向け、姿勢制御装置スラスターの軽い噴射で減速しながら後進で入港していく。閉鎖型ドッグでは、船首方向を宇宙へ向けて入港し、出港時に備えておくのである。


機関エンジン、低速アイドリングへ移行。補助機関サブエンジンは出力50%で安定。あとは、外部アンテナの収納を確認、っと」

「レーダーに異状なし。進路上に宇宙ゴミ《デブリ》、障害物ありません」


「了解。船体角度ピッチよし、船体回転ロールなし。本船はこれより最終減速を開始する」

 軌道への進入から姿勢制御まで、ラナは作業のほとんどを1人で片づけた。船はたいした誤差もなく、ドッグへと近づいていく。


 船の完全停止は、コンピューターが制御する。しかし、事前に計測した構造データを基にしているため、計測が甘いと手動による修正が必要になってくるので、最後まで気が抜けない。


 もっとも、ラナは心配をするそぶりもなく、両手を操舵スロットルレバーに、両足をフットペダルに乗せたまま、リラックスしていた。


「いちめん星の海だねー」

 操舵席のディスプレイを切り換えて、ラナは楽しそうにつぶやいた。映っているのは、惑星の姿さえ見えない、ありふれた星の海である。


 一部の観光船を除いて、航宙船には窓がない。外を見たいのなら、外部カメラをディスプレイに表示すれば用が足りる。わざわざ構造的に脆弱ぜいじゃくな部分を作る必要がない、というのが1番の理由である。


 さらに、各種センサーによって障害物との距離が測定できるため、外部カメラの実用性もあまりない。ただし、数値だけを見ながらの計器航行では現実感を喪失しやすく、それによる事故が発生していることから、入出港時には外部映像の使用が推奨されていた。


 船はすべるようにドッグ内へと進入していく。

 やがて、船体は壁面に表示された目印に対してセンチ単位の誤差で停止した。


 停船を確認したドッグ側のコンピューターが、瞬時にアームを伸ばし、船を固定する。やや遅れて、ドッグ下部から可変型の台座がせり上がり船底を支えた。ロックが完了し、船長席のディスプレイに固定完了のサインが点灯する。


 入港許可の通信からわずか15分。

 ラリ・ホー号は、自動航行と変わらないスコアを叩き出していた。



※6


「ようこそ、宇宙の離れ小島へ」


 気密接続されたボーディングブリッジを渡ると、空港を思わせる広いロビーに出る。そこで、オレンジ色の髪をした長身の女性が待っていた。着ているのは航宙軍の軍服だったが、そうとは思えないほどゆるく着崩きくずしている。


「ラリ・ホー号船長のラナリータ・キュイ・ミーティアです」

 ラナが先頭に立ち、かかとをあわせて鋭く敬礼する。エイーダは苦笑いで、柔らかく敬礼を返した。


「航路管理衛星BCS-32の最高司令官、エイーダ中尉である。……なんて、な。かたっくるしい挨拶はやめよう。ここには上司も部下もいないんだ。私のことは、エイーダと呼んでくれ。なんなら、ちゃん付けでもいいぞ」


「わかりました。では、私もラナと呼んでください」

 ラナは快活な笑顔を浮かべ、エイーダと握手を交わす。


 マリコの『こりゃ曲者くせものだぞ』という視線に、クルミは無言で笑みを返す。その表情が同意のしるしなのか、『あなたもね』という意味なのかは判別できない。


「さてと。まずは、旅の疲れでも癒してもらいたいんだが……」

 それぞれ自己紹介を済ませると、エイーダは両手を腰にあて3人を順番に見る。そして、ニヤリと意味深な笑みを浮かべると言った。


「フロとメシ、どっちからにする?」

 その言葉の意味を理解するまでに、3人は数秒を要した。


「そこで迷わず、風呂って即答するあたりが、われらが船長らしいというか……」

「さすがですわ。その反射神経、何事にも動じない心!」

「あんまり動じないのも怖いんだけどなあ」

 マリコは、ふかふかのソファに身を預ける。

「あー、それにしても落ち着かねー。この部屋」


 ラナの帰りを待つ2人が案内されたのは、映画に出てくる貴族の応接室といった趣の部屋だった。金ぶちの赤い絨毯じゅうたんに天井のシャンデリア。飾りのついた木製のローテーブルには香りのいい紅茶と菓子が用意され、計算された間接照明が暖かな色で部屋を照らし出している。


 壁面には窓をしたディスプレイまであり、夕焼けに染まる空と緑豊かな草原が映し出されていた。


「これで暖炉でもあれば完璧ですわね」

「だが、悪趣味極まりない」

「あら、そうでしょうか?」

 素直に首をかしげるクルミに、マリコは不満げに荒く鼻息をならした。


「軍事基地にこんな部屋いらないだろ。ほんとにお偉いさんが極秘パーティでもやってるんじゃないか? もっとマシな金の使い方があるだろうに」

「無駄ではない、と思いますけど」

 クルミは菓子の包み紙を丁寧にあけて中身を口に運ぶ。そして、至福の表情で頬に手をあてた。


「ところで、マリコさんは行きませんの? お風呂」

「船のシャワーでじゅうぶんだよ」


 水は必需品であり、重くて運搬にも手間がかかる貴重品でもある。宇宙では循環させた温水でシャワーを浴びるのが一般的であり、湯をためて入浴するのは贅沢である。しかし、惑星上で育った人間にとっては、ゆっくり熱い湯に入るという欲求も捨てがたく、港には高い料金を取ってそれを商売にする者もいるくらいである。


「クルミこそ、遠慮しないで入ってくればいいのに。こんな贅沢、なかなかできないんだから」

「そ、そんな、他の方と入浴なんて! しかも、ラナさんとご一緒なんて、そんなのいけませんわ!」

「ああ、そっか。まぁ、いろいろと大変だねえ」

 語気を強め、わかりやすく顔を赤らめるクルミに、マリコは納得して紅茶をすすった。


 ひと口で高価な茶葉だとわかるその濃厚な香りに、思わず眉をしかめる。染みついた貧乏性が、茶葉のグラム単価を計算しはじめ、マリコは素直に味を楽しむ余裕がなかった。



※7


 ラナが頬を火照ほてらせ上機嫌で戻ってくると、3人は先ほど同様の装飾がなされた、さらに大きな部屋へと案内された。1度に20人は座れそうなテーブルには、レースで装飾された白いテーブルクロスがかけられ、4人分の食器とグラス、さらには燭台まで置かれている。


「趣味わるっ!」

 小声でつぶやくマリコを、顔をしかめたクルミが軽くひじでつついた。


「これ全部、エイーダさんが?」

 頬を上気させたラナが、テーブル脇に用意された数台のワゴンに目を輝かせる。

「もちろん。実は料理が趣味でね。残念なことに、なかなか披露する機会がないんだけど」


 漂うスパイスの香りに食欲をかきたてられ、席に座った3人は運ばれてきた料理に思わず身を乗り出す。見たことのない料理の数々に、目は釘づけである。


「それでは、航海の安全と仕事の成功に、乾杯」

 エイーダの挨拶で、奇妙な晩さん会がはじまった。


「さっきは水先案内パイロットプログラムの不調で迷惑かけたからね。しかし、素晴らしい操船だったよ」

 エイーダの視線の先で、ラナは照れくさそうに笑った。


「おびのしるし、ってわけじゃないが、遠慮なく食べてくれ」

 食材さえわからない、見たことのない料理を前に、3人は迷わず手を伸ばす。食べられる時にしっかり食べておくのは、宇宙全人類共通の生存術である。


「言っておくけど、毎晩こんな贅沢ぜいたくな食事をしてるわけじゃない。3食とも軍の保存食って時だってある。大量の食材を無駄にしないようにって、これでも結構気を使ってるんだよ」

 エイーダは感嘆の声をあげる3人を見て、満足げに笑う。


「エイーダさんは、ずっとここに1人で?」

「そうだね。ちょうど5年目にはいったかな」

 クルミの問いに答えると、エイーダはグラスに琥珀こはく色の液体を注ぐ。


 飲むと軽い酩酊めいてい効果が20分ほど続く、軍用のノンアルコールワインである。専用の分解剤を飲めば、瞬時にその効果も消えるという便利な代物だが、酒飲みには不評である。


「でも、1人なのに大量の食材って?」

「ここには軍用船が補給で立ち寄るからね」

 ラナの疑問にエイーダは笑って答えた。


「このあたりは警戒宙域じゃないから、船が立ち寄ったのは……半年くらい前だったかなあ。緊急の補給と修理をしにね。ついでに、使い古しの探査機プローブから汚れた下着まで、大量のゴミをおいていったよ。でもね、船が来れば乗ってるのは百人単位の食べ盛りだ。この腕をふるってあげたら、惑星を離れて長い連中は、泣いて喜んで大騒ぎだったよ」


 エイーダはあらためて3人の顔をみまわして言った。

「今日の食材は、在庫整理も兼ねてるから遠慮はいらないよ。軍のおごりだ、思う存分食べてくれ」


 星府の公的機関として、税金から予算が組まれる組織の人間とは思えないセリフに、マリコが露骨に嫌な顔をする。それに気づいたクルミが、あわててエイーダに新しい話題をふった。


「あの、エイーダさんは、ここでどんなお仕事をされているのですか?」

「一応、航路標識ビーコンの管理保守ってことになってるけどね」

 と言って、エイーダはわざとらしくため息をつく。


「あれって意外と頑丈なんだ。ここで管轄する5000基のうち、修理が必要になるのは3年に1基くらいなんだ。それに修理は航路局整備部のお仕事。私の仕事は、ここの留守番みたいなもんだね」

 エイーダの口調に自虐じぎゃくめいた色がにじむ。


灯台守とうだいもり、なのですね」

「あはは。その呼び方はいいね。孤独と哀愁が漂ってて」

「1人で、寂しくはありませんか?」

 クルミが続けて尋ねる。


「うん、それは平気なんだ。むしろ、人がたくさんいるのが苦手でね。それなのに都会のど真ん中で生まれたもんだから、いろいろ大変だったよ。人のいない場所といえば宇宙だ。だから航宙軍を志願したんだ。それで、紆余曲折あった末に、こうして気ままな一人暮らしをしてるってわけ」


 エイーダは饒舌じょうぜつに語ると、部屋の片隅から自走式ワゴンを呼び寄せる。そこに並んでいたデザートを見て、ワインを水代わりにしていたラナの瞳が再び輝いた。



※8


不整航行イレギュラー発生』

 食後のお茶も空になった頃、澄んだチャイムが鳴って一報が届けられた。


「システム、要約を報告せよ」

 3人の注目を浴びたエイーダは、表情ひとつ変えずに言った。


『無人輸送船YRZ-05293が航路を外れ、急減速中。ランクC要件』

「やれやれ、お仕事の時間かな」

 立ち上がると、グラスに水を注ぎ一気に飲み干す。


「事故ですか?」

「どうかな。事故ってわけじゃなさそうだが……」

 ラナの視線を受け止めたエイーダは、一瞬考えてから笑った。


「せっかくだから、お見せしよう。軍の機密にならない範囲でね。システム、ディスプレイ起動。セキュリティレベル3で詳細を表示せよ」

 照明が落とされ、壁面全体に大きなディスプレイがあらわれる。その中央に映し出されたのは、見慣れた航路標識ビーコンからのレーダー情報だ。


『……宙域を慣性航行中、目標は急減速の後、航路を大幅に逸脱。現在、目標は再加速し、予定航路へ復帰する軌道にあります。なお、周辺を航行中の船は、全て影響範囲外』


 時系列に沿ってシステムが淡々と報告を続ける。その度に小さなデータウィンドウが開いては、自動で整列していった。


「こりゃ、すごい急減速をしたみたいだね。人が乗ってたら、ぺちゃんこだな」

 表示されたデータを流し読みしながら、エイーダは小さく笑った。


「無人船の誤動作ってことですか?」

「みたいだねえ。ビット反転でもしたんだよ」

 真剣な表情のラナに、エイーダは、忘れ去られて久しい言葉を持ち出した。今では、コンピューターも厳重にシールドされ、磁力や宇宙線などによる誤動作は限りなくゼロに近い。


「無人船の船種クラスは?」

 食事中からほぼ無言をつらぬいていたマリコが声をあげる。エイーダはすぐに情報を表示させた。


「リリパール級無人輸送船だね」

「そいつは……最新型の無人船だ。操船コンピューターを3系統も搭載して、エラーがあっても、予備系統がすぐに操船を受け継ぐ設計になってる。さらに、自前の探査機プローブを先行させて独自のレーダー網を運用できるっていう、自律型安全航行がウリの船だよ」


「さすがマリコさん。船のこととなると、気持ち悪いくらいの記憶力を発揮しますわね」

「……ほめてないよね、それ」

 クルミは笑顔でうなずいた。


「でも、そんな最新型が誤動作?」と、ラナ。

「航路局の公式データを検索していますが……」

 クルミは自分の端末を操作し、関連するニュースや映像を確認していく。


「リリパール級の事故記録は見つかりませんわ。星系ネットでも、悪い評判はヒットしません」

「そりゃそうだろ。大手の星間輸送会社だって運用してるんだから」

「大手が採用してるからって、安全とは限りませんわ」

「それならそれで大問題だ」

「でも、最新型なら、未発見の不具合があってもおかしくないよね?」


「予定航路を外れるなんて、よくあることだよ」

 3人の会話を興味深げに聞いていたエイーダは、そう言って、表示をレーダー画面に戻す。

「大丈夫、もう船は、ちゃんと元の航路に戻る軌道をとってる。遅れだって取り戻せそうだ。それに、何かあっても無人なんだから、何の心配もいらないさ」

 3人は、沈黙のまま互いに顔をみあわせる。


「とまあこんな風に、ここでも航路の監視をしてるんだよ。といっても、同じデータを航路局でもモニターしてる。一応、ダブルチェックは必要だからね」

 これで話は終わりとばかり立ち上がったエイーダ。しかし、3人は納得のいかない表情を浮かべたままである。


「何か疑問でも?」

「ええ。船に問題がないのなら、他に問題があったのではないかと、そう思いまして……」

 クルミがおそるおそるといった様子で答えた。


 ラナも大きく相槌を打った。

「私もそう思う。これは船の問題じゃなくて、船外の問題に対処するために急減速して航路を外れた、ってことなんじゃないかな」


「なるほど。例えば、進路上にデブリでも見つけたとか」

 エイーダは、苦笑交じりに言う。


「いいや、その可能性は低い。レーダーに映るレベルなら航路局の警報が出る。映らない程度のチリやゴミなら、シールドではじきとばせる」とマリコ。


 かつて『デブリ』ならぬ『1インチ悪魔デビル』と呼ばれた、レーダーに映らない極小宇宙ゴミは、船が航行中に生成する微弱なシールドで弾き飛ばせるようになり、デブリ衝突事故はなくなった。


「船は何か異変をキャッチして、回避しようとした。なるほどね。私も人のことは言えないが、君たちも想像力たくましいね。よし、その可能性も航路局へ報告しておこう」

 半ばあきれた表情で、エイーダは端末を操作しはじめる。


「中尉。1つ、お願いがあります」

 階級で呼びかけた声の強さに驚いて、エイーダは端末から顔をあげた。向けられたラナの視線に、エイーダは突き刺すような痛みを感じて驚く。


「ここから、リリパール級へのアクセスは可能ですか?」

「可能、だ」

 圧倒されそうになって、エイーダは平静をよそおった。


「何もなければないで、それでいいんです。もし何もなければ、そうですね……かくし芸でも何か披露します」

 軽い冗談を混ぜて無理に笑いながら、ラナはこみあげてくる嫌な予感に身震いしていた。この手の嫌な予感は外れたためしがなかった。そして、その予感で危機を回避したことが、これまで何度もあった。


「君がそこまで言うなら仕方ない。気が済むまでつきあうよ」

 エイーダも無理に笑ってみせた。

 エイーダの操作で、壁の一部に操作パネルがあらわれ、その周囲に立体ディスプレイが次々に起ちあがる。食堂は、あっという間に即席の指揮所へと変化した。


「それで、何を知りたい?」

 エイーダは席の1つに座り、3人を振り返った。


「船が急減速する直前からの航行記録レコーダーを調べてください」

「わかった。不整航行イレギュラー発生時は、ここから無人船へのアクセスが航宙法で許されてる。私が操作する分には違法でもなんでもないが、それを君たちが見ることに関しては……まぁ黙認しよう」

 そう言いながら、エイーダは大量のログデータから、あっという間に目的の航行記録を探し出した。


「あとは、そっちで見てくれ」

 エイーダがデータを隣の席へ送ると、ラナはクルミにうなずいた。クルミは席に座ると、機械的に記録されたデータを高速スクロールで読みすすめていく。やがて、ある1点で手を止めた。


「ここを見てください。先行させた探査機プローブが、わずかですが細かいレーダー波をキャッチしています。これを解析してください」

 エイーダは言われたとおり、そのデータを専用の解析プログラムへ送る。表示された結果に、エイーダは動きを止めた。


「……射撃管制レーダー?」

「微弱ですが間違いありませんわ。そして、これがおそらく航跡反応です。そして、ここには通信妨害らしき形跡もあります」

 次々と指摘されていく証拠に、エイーダは沈黙した。


「なにがあったの?」

 ラナの問いにクルミがふりかえって答えた。

「リリパール級が襲われたわけではないようです。おそらく、先行させた探査機が異変をキャッチしたので、船は安全のために減速して距離を取った。反応はすぐに消えたため、航行に支障なしと判断して航路へ戻った……ということでしょう」


「どうしてリリパール級は通報しなかったんだ? 無人船だって、救難信号の転送くらいできるはずだろ?」

 マリコの疑問にクルミは首をふった。


「リリパール級は救難信号をキャッチしていません。それに射撃管制レーダーも、観測したとはいえ、自分に向けられたわけではありません」

「なるほどね、自分には関係ないってわけか。コンピューター制御の無人船らしい行動だよな。人間なら、どんな駆け出しでも大騒ぎするだろうに」

「ですわね。微弱とはいえ、射撃管制レーダーなんて民間船がめったに浴びるものじゃありませんから」


航跡こうせきは追える?」

 ラナは画面をのぞき込む。

 加減速時に推進剤が残す航跡を分析すれば、おおよそ船の向かった方向やその速度を推測ことができる。


「はい、ある程度は。圏外ですが、リリパール級の探査機がひと通りのセンサーを持っていますから……」

 クルミの視線の先で、エイーダが指を走らせている。


「待て。今、航跡から方位と速度を計算させてる。2隻分の航跡が入り混じってるみたいなんだ。ちょっと、解きほぐすのに時間がかかる」

 硬い口調でエイーダが答えた。


「2隻分の航跡、射撃管制レーダーに通信妨害。リリパール級がいる航路圏のすぐ外側で、戦闘が発生してるってこと?」

「可能性は高い。戦闘というより、一方的な攻撃にかもしれないが」

 ラナの問いに、エイーダが答えた。


「戦争が終わったら、今度は海賊が民間船を追いまわす時代なんて!」

 ラナは頬を赤くさせ、右のこぶしを握りしめる。

「まったくだねえ」

 忙しくパネルを操作しながらエイーダが他人事のように答えた。


「でも、星府も軍も海賊の存在は公式に認めていません。不審船あるいは所属不明の武装船、と呼んでいます。なぜでしょう?」

「ほんとだよ。あいつら、そんな生易なまやさしい連中じゃないって」

 クルミの指摘に、マリコは不満げに言い返した。


「仕方がないんだ。星府としては、反星府的活動に利用されるような愚をおかしたくないからね」

 エイーダが作業を続けながら説明した。


「現段階では、船単位で悪事を働いているヤツらがいるってだけだ。これをまとめて海賊だなんて呼ぶとどうなる? 市民をはじめ他の星系星府まで、この星系にはまとまった一つの犯罪集団がいると認識してしまう。これはよろしくない」

 大きく息を吐いてエイーダは続ける。


「あともう1つ。海賊って呼び名には、義賊めいた印象があるから使いたくない、という理由もあるんだよ。……よし、これが2隻の予想航路だ」

 ディスプレイに、数パターンの予想航路が表示される。


「速度がそのままなら、30分もすれば、このあたりの宙域に到着するはずだ。だが、ここは航路圏外。救難信号でも確認できない限り、船の現在位置を知るのは難しい」

 エイーダは両手を広げて、あきらめのポーズをとる。


「通信妨害って、救難信号まで妨害できるの?」

「いえ、通信系が1度にすべて妨害されるってことは、ちょっと考えられません。あるとしたら、通信システムがまるごと乗っ取られたか、通信アンテナが物理的に破壊されたか」

 クルミが答えると、ラナはすぅっと大きく息を吸うと、言った。


「……助けに、いこう」

 ラナの視線に、2人の乗組員クルーはすぐにうなずいた。しかし、その場にいるもう1人が首を横にふった。


「何を言ってるんだ。航路圏外の宙域で、居場所のわからない船なんて探しだせるもんか。それに、少なくとも1隻は武装している。これは民間の仕事じゃない。軍の仕事だよ」

「いいえ。これは、私たちにとって仕事ではありません。それに、戦いに行くわけじゃありません。助けに行くんです」


「そんなの詭弁だろう。全てのデータはすでに航路局と警備局へ送ってある。すぐに警備艇も駆けつけるから、あとは軍に任せてくれればいい」

「いいえ。私たちが、1番現場に近い場所にいます」

 ラナは落ち着いた声で言い、エイーダの視線を受け止める。数秒ののち、エイーダが先に目をそらした。


「居場所さえわかれば、第三者が割り込むことで助けられるかもしれません。船が乗っ取られているなら、救難艇やカプセルが射出されているかもしれません。無駄でも構いません。ここにいる者が、できることする。それだけのことですから」


 航宙法には、最も近くで救難信号を受信した船に、最低36時間の救助活動が義務づけられている。しかし、そこに自らの意思で救助に参加する者を止める条項などない。


 そもそも船乗りにしてみれば、救助活動とは考えるまでもない当然の行為である。彼らに言わせれば、古来よりその意思によって行ってきたことを、法が後から文字にまとめたに過ぎないのである。


「どうするつもりだ?」

 エイーダは首をふって、説得をあきらめた。彼女たちは部下ではない。それどころか、どの組織にも所属していないのだ。


「ご協力をお願いします」

「何か策があるのか?」

 ラナはうなずいた。



※9


 ラナが艦橋ブリッジに駆け込むと、すでに航行システムのほとんどがスリープから目覚めていた。


「ボクらが来た時には、もう起きてた」

 機関士席からマリコが報告する。


『船はいつでも動けるようにしておくべきです』

「さっすが、まろうど。仕事が早い!」

『まろうどが、すべての準備をしてもいいのですが、法がそれを許さないのは残念でなりません』


 船長席にすべりこんだラナに、まろうどが答える。航行支援AIにも緊急時の操船が許されているが、通常時には船長によるログインが必要である。


「準備整い次第、ただちに出港。予定座標に到着後に作戦開始」

 手慣れたとはいえ煩雑な出港作業が進められ、各系統の表示が次々とグリーンに切り替わっていく。


「例の荷物はOK?」

「はい。右舷格納庫に1基と3基。すべてデータリンク完了。自動射出モードでスタンバイ中です」


「識別信号は?」

 マリコは無言で船長席にサインをおくった。

「了解。えーと、識別信号の発信装置が故障した。航行中に修理を行う、っと」

 わざとらしく宣言し、ラナは航海日誌に記録をつけた。


 識別信号なしでの航行は、れっきとした航宙法違反である。

 だが、航路圏外で識別信号を発信すれば、周囲に自分の居場所を叫ぶようなものである。目標を発見した後、いかに存在を隠して接近するかが作戦の要であるため、すでにエイーダの黙認をとりつけている。


「でも、システムを使わないで、どうやって信号を切ったんです?」

「ケーブル引っこ抜いてきた」

 クルミのささやき声に、マリコはすまし顔でこたえた。


「なんですって!?」

「だって、システム側からいじったら履歴ログに残るだろ!」

「そ、それはそうですけど……乱暴ですわ」


「証拠として履歴ログを提出するかもしれないんだ。書き換えなんてしてバレたら……怒られるのは航宙士と船長だぞ」

「では、私は何も聞いてないことにします」

 クルミは澄ました顔で自分の仕事に戻った。


「出港後、全レーダー系を一時停止。センサーは受動系パッシブのみ。通信はエイーダからの受信のみ。とにかく、船からは何も発信しないからね」

「了解ですわ」


機関エンジン出力は、慣性航行に移ったらなるべく抑えておいて。でも、必要ならすぐに最大まで上げるから、調整よろしく」

「了解した。まるで潜入作戦スニーキングだな。こりゃ面白い」

 髪をまとめたバンダナを締めなおし、マリコは他人事のような笑みを浮かべる。



※10


 中央制御室コントロールルームの司令官席で、エイーダはディスプレイを流れていく起動画面を目で追っていた。時間最優先の簡易的な起動ではあるが、システムは基地としての機能を着実に取り戻していく。


 全ての植民星系の宗主たる、太陽系中央星府セントラル


 ラーブリア星系はじまって以来の総力戦となった独立戦争は、正確にはまだ終わっていない。相手からの通信による一方的な停戦宣言に対して、ラーブリア星府が同意しただけである。そして停戦とは、戦闘の一時中止という意味でしかない。30年も経てば事実さえ風化するが、軍にとっては今現在も戦時中なのである。


 したがって、この基地の機能も封印されているわけではない。施設が有人であるのも、緊急時に即応できるようにとの意図があった。エイーダには、その時のための運用マニュアルも渡されていた。


 とはいえ、軍の想定する緊急時にはほど遠い状況である。見過ごせない状況ではあるものの、普段なら警備局に任せる案件だ。しかし、こうして30年も眠らせたままのシステムを、許可も得ないまま起動させている自分が、エイーダには少し意外に思えた。


「この基地の軍用レーダーを使えば、船の位置を探せるはずです」

 2人の仲間を先に船へと向かわせると、ラナはそう言って詰め寄ってきた。思わず、殴られるのではないかと、身を引きたくなるような勢いだった。


「司令部の許可を取らずに?」

「問われるのは結果責任だけです」

 抵抗を試みるエイーダに、ラナは一歩も退かない。


「中尉。これは、最上位士官の判断が許される状況です」

「確か、緊急時における指揮系統に関する通達、だったかな?」

 半ば予想していた内容を口にしたラナに、とうとうエイーダは抵抗をあきらめた。


 超光速通信の実現により、星系内での通信時差はほぼゼロになった。しかし、その通信を支える航路標識ビーコンが破壊されたり、星系ネットワークに障害が起きれば、通信は光速の壁にはばまれる。


 司令部から発せられた命令が星系外縁部がいえんぶまで届くのに、最低でも片道10分は必要だ。秒単位で状況が変わる戦場で司令部の指示を待っていては、すべてが後手にまわってしまう。


 そこで独立戦争時、航宙軍は前線部隊に対する現場判断を許した。

 つまり、その現場の最高指揮官、艦隊であれば司令官、艦であれば艦長が命令に先んじた状況への即応が許され、報告を追認する形で司令部から命令が追いかけてくるのである。


 これは独断専行による指揮系統の混乱を招きかねない策であったが、独立戦争に勝利したのは、こうした現場判断によるものが大きかったとも分析されている。


 一刻を争う事態にも適応されるため、現在でも救難隊や災害対策部隊などで日常的に適用されている。その結果責任こそ問われるものの、現場判断自体の責任は一切問われない。


「見つかるとは限らないぞ」

「できることがなくなったら、あきらめます」

 ラナは気丈に笑って見せた。


「できないことにチャレンジするのもいいですけど、それだと命がいくつあっても足りません。だから、できることだけ全力でやるだけです」

 ラナはそう言い残して、船へと向かった。


「今の私にできること、か」

 それはエイーダの信条である『手持ちの札を最大限にいかす』と同じだ。

 ただし、その力の向きだけは異なっているが。


「自分の欲求は、あらかた満たしてきたからね。余力を持て余すのも、もったいないか……」


 僻地へきちでありながら適度に人が訪れる場所での、生死の危険が少ない単独任務。快適な居住空間や贅沢な入浴設備、豪華な食材。これらをエイーダが手に入れたのは偶然ではない。自分にできることを正確に把握し、それを全力で行使した結果、手に入れたものである。


「昔の基地に最高司令官が1人。あとは勇敢な女の子3人と足の速い船が1隻。さてこれで何ができるのか……うん、なかなか燃えるシチュエーションじゃないか」

 広い部屋でたった1人、孤独な作業を続けながら、エイーダは3人の存在を近くに感じて、不敵な笑みを浮かべる。


 その場にいる最高士官が指揮をとるのが軍のルールである。だからエイーダは法規上も、間違いなくこの基地の最高司令官である。


 決断できる人間が1人いれば、物事は動く。かつて独立戦争においても、艦橋ブリッジで唯一生き残った若い少尉が指揮をとり、前線から生還した艦があったといわれている。


「問われるのが結果責任だけなら、思う存分やってやるか」

 ラリ・ホー号が星の海へと向かうその背後で、基地内部に格納されていた巨大な軍用アンテナが、ゆっくりとその姿をあらわしはじめていた。



※11


 ラリ・ホー号は短時間の加速の後、機関エンジン出力を下げて慣性航行中である。そして赤外線や電波、光学などのあらゆるセンサー系をフル稼働させ、じっと耳を澄ませている。


「基地からのレーダー波をキャッチ。さすが軍用は強いですわ」

 クルミは、最大感度にしていたセンサー類の微調整をはじめる。


探査機プローブ4基、すべて射出に成功。全機、正常稼働を確認。レーダー最大出力、指定座標への移動を開始する」

 探査機の操作を担当するマリコが、クルミに合図を送る。

「本船を経由した、探査機と基地とのデータリンク、接続開始」


 基地から放たれる強力な軍用レーダーに、探査機4基のレーダーが加わる。4基のうち3基はラリ・ホー号が装備している民間用だが、残る1基は基地から借りてきた軍用である。これらが作り出す即席のレーダー網は、基地側ですべて処理され、船へと送られてくる。


「さすがに、大きいですわね」

 さっそく送られてきたデータは、レーダーディスプレイの表示限界にまで拡がっている。


「お願い、無事にここまで逃げてきて。必ず、見つけてあげるからね」

 待つだけの時間が過ぎていく。ラナは船長席でひたすら祈った。

 いくら巨大なレーダー網であっても、予想宙域のすべてはカバーできない。それに、もし途中で進路を変えるか、あるいは船が破壊されてしまえば、見つけるのは難しい。


「レーダーに反応、2隻!」

 到着予想時刻を数秒過ぎて、レーダーの端に光点がまたたいた。

 全員が顔をあげ、2つの光点を確認する。


 同時に、基地から圧縮されたデータが送られてくる。それはエイーダが計算した、ラリ・ホー号が2隻へ接近する最短軌道であった。クルミは迷わず、そのままデータを流し込むと叫んだ。

「航路入力完了! いつでもいけます」

「今、行くからね! 機関エンジン最大出力!」



※12


「どこのどいつか知らんが、ビビッて逃げてくれよ」

 エイーダはいらだちを抑えて、つぶやいた。


 レーダー網に飛びこんできた2つの光点。それは、ディスプレイ上で重なる寸前にまで接近していた。基地のシステムは、その2つを赤くマーキングし、すでに交戦可能距離エンゲージにまで近づいていることを告げている。


 追われている船は、すでにシステムが識別信号を元に情報を集めはじめている。しかし、追いかけている方の船は、予想通り信号を切っているため、探査機が近づくまで詳細はわからない。


 ラリ・ホー号にも基地にも攻撃能力がないため、作戦の主旨は妨害と威嚇いかく、そして時間稼ぎである。警備艦隊はすでに向かっているとの連絡を受けているが、到着まであと1時間はかかるだろう。


 手持ちの札での勝利条件は、敵の逃亡しかなかった。


 高速で移動する2隻の後方へ、5つの光点が近づいていく。

 先頭の探査機4基は縦列に並べてデータ通信の限界まで距離を離し、最後尾のラリ・ホー号が基地へとデータを中継する作戦である。これが完了すれば、基地から遠く離れても、探査機の直接制御ができる。


「残しておいて正解だったよ」

 ラリ・ホー号に積み込んだのは、半年前に軍用船が残していった古い探査機である。耐用年数を過ぎたとはいえ、使えるからもったいないという理由で残しておいたが、実際は廃棄処理が面倒だから放っておいただけである。


 そして、探査機には、軍の識別信号が残されている。

 それこそが、自分たちの唯一の武器である。

 後は、それにビビッてくれることを願うだけだ。



※13


「先頭の軍用探査機プローブ、レーダー波をキャッチ。所属不明船ボギーのレーダーに捕捉されたと思われます」

「船に動きは?」

「まだ変化はありません」

 クルミは小さく首をふる。


「本当なら一発お見舞いしたいところだけど。頼むから、しっぽ巻いて逃げて」

「大丈夫。ああいう連中は、圧倒的に有利な状況でしか攻撃しない。いじめっ子と同じさ。不利と悟れば、きっと逃げる」

 いら立ちを抑えるようにマリコがつぶやく。


「わずかに進路を変更しました!」

 船がわずかに軌道を変えた。

 しかし、まだ様子を見ているような中途半端な動きである。


「後方の探査機3基、移動を開始しました」

「追い込む気か」

 レーダーをのぞき込んで、マリコがつぶやく。


 近距離で追いかける軍用探査機の後ろ、3基の探査機が距離を縮めて囲い込むように動きだす。さらに、それぞれが最大出力のレーダーとセンサーを放った。


「目標、進路を大きく変えました!」

 数秒の沈黙の後、クルミが報告した。


 軍用探査機の追跡に加えて、後方から未確認のレーダー波を3つも浴びた船は、包囲網から逃げるように、大きな曲線軌道を描きはじめる。それを確認して、ラナは立ち上がった。


「よおし! こっちも全力で、助けにいくからね!」



※14


「無事だったんだから、それでいいじゃないか」

「まったくですわ。今どき、面と向かって何時間も事情聴取なんて、横暴です」

 げっそりした表情のマリコと、目の下に隈をつくったクルミが、それぞれの席で弱々しくうめいた。


 結局、警備艦隊の捜索むなしく、逃げた船の行方はわかっていない。


 ただ幸いなことに、追われていた船は乗員も積荷も無事が確認された。通信設備を破壊され、機関部をはじめ各所にダメージは負っていたが、自力航行も可能であり、けが人もいなかったことから、目的地への航行を優先させることになった。


 老齢の船長から感謝のメッセージを受け取った3人は、警備艦隊にエスコートされながら航路圏へ戻っていく船を見送った。そして、達成感とともに基地に戻った3人を待っていたのは、軍による事情聴取であったのだ。


「ぜひ、また立ち寄ってくれ。君たちなら大歓迎だよ」

 丸1日にも及ぶ聴取も終わり、ようやく出港許可がおりると、エイーダはドッグまで3人を見送った。


「ところで、ここだけの話。実はこの基地でも、水と食料と燃料を正規の価格で補給できるんだ」

 内緒話をするような口調でエイーダは言った。


「規則によると、余剰分であれば、緊急に補給を求める船に提供できる、ってことらしい。だから、前もって緊急だって連絡くれれば、問題ない」

「前もって緊急、ですか」

 ラナが笑う。


 港以外で、それも正規の値段で補給を受けられるとなれば、航行計画にも余裕ができる。願ってもない申し出に喜ぶラナとクルミ。そして、公私混同とか私的流用とか拡大解釈とか、そんな言葉が浮かんできて素直に喜べないマリコであった。


 ラリ・ホー号は航路圏へと戻り、自動航行で惑星ユーリアへと向かっている。

 作業を終えた3人は、乗員用の休憩室ラウンジで、まったりとした時間を過ごしていた。


「エイーダさん、面白い方でしたわね」

「最後の最後でとんでもないヤツだってわかったけどな。あれだけ詳しく調べられてると思うと、いい気分じゃないよ」


 帰り際に、エイーダは5000基の航路標識ビーコンが作りだす巨大レーダー網を見せてくれた。しかし、それに圧倒される3人は、画面の端にとんでもないものを見つけてしまったのだ。


「船のデータから航行履歴、ボクらの個人情報まで、よくもまぁ、あれだけ調べたもんだよ」

 3人が見つけたのは、エイーダがコンピューターに調べさせた、ラリ・ホー号に関するデータだった。


 思わず詰め寄ったマリコだったが、合法的かつ公開情報のみであり、軍の機密扱いだから外に漏れる心配もない、とエイーダに軽く受け流されてしまったのである。


「確かに面白い人だったし、悪い人でもないと思うな」

 ラナはエイーダをそう評した。

「面白いのは、彼女の私欲が、他の役にも立つってあたりでしょうか」

「どこかだよ」

 不満げなマリコに、クルミは思案気しあんげな表情をする。


「そうですわね。もし、マリコさんが疲れて帰ってきた時、私がめったに食べられない料理にお風呂まで用意して待っていたら、どうします? 泣いて喜びません?」


「まぁ、泣きはしないけど。う、嬉しい、かな」

「でしょう? 実際にはあり得えませんけど。そういうことですわ」

 澄ましたクルミの表情に、マリコは口の端をゆがませる。


「任務とはいえ、あの基地に立ち寄るのは長い航海をしてきた方たちです。少しくらい豪華なお食事を用意したって、かまわないと思いますわ。軍用船でのお食事って、美味しくないんでしょう?」


「艦によるけどね。でも長期航海だと、どうしても後半は保存食だよ」

 何か思い出したのかラナは苦い顔をする。

「料理を褒められて嬉しそうだったし。エイーダだって、心の奥では人の役に立ちたいって思ってるんじゃないかな?」


「ええ、私もそう思いますわ。冷笑的シニカルな誰かさんは、そう思わないんでしょうけど」

「うるさいな」


「知ってる? 楽観主義は信頼から、悲観主義は感情から生まれるんだよ」

「まぁ、素敵な言葉。誰の言葉ですか?」

「えーと、大事な人、かな?」


「だ、大事な人!?」

「うん。大事な人」

 取り乱すクルミに、ラナは珍しく笑ってごまかした。


「ところで、探査機の件なんだけど」

 ラナが、強引に話題をかえる。

「いっそのこと軍に請求書まわしてみる? 払ってくれるかもしれないよ?」


 レーダー最大出力のまま、限界まで動かし続けた探査機は、回収こそできたものの、3基ともメーカー修理、間違いなしの状態である。


「その件については大丈夫ですわ」

 クルミがぽんと手をあわせ、満面の笑みを浮かべる。

「さきほど、軍から弁償するとの打診がありました。最新型の探査機4基、1年間のサポート付きだそうです」


「マジか! 最新型かー!」

 マリコが、ガッツポーズで立ち上がる。

「いったい、どんな交渉したの?」

 目をまるくするラナに、クルミは小首をかしげる。


「いいえ、別に何もしていませんわ。軍に送ったレポートに、これは軍に対する勇敢なる民間協力の証です、と付け加えただけですから」

「実際は、露骨でえげつないこと書いたんだろ?」

「はぁ。だからマリコさんはダメな子なんです」


「だ、ダメな子!?」

「丁寧な言葉遣いだからこそ、相手も応えようと思うのですよ」

「なんか、すげーへこむんだけど、その言葉」


「あと、もう一つご報告があります」

「フォローなしかよ」

「追われていた船の運航会社へ詳しい報告書を送ったところ、乗組員クルーと積荷を守ってくれた謝礼として、ぜひとも金一封受け取ってほしい、との連絡をいただいでおります」


 クルミは、ざっと計算してみせた臨時収入に本来の報酬額を加え、燃料その他の経費を差し引く。残った額を見て、3人は歓声をあげた。それは、ラリ・ホー号運航開始以来の収益であった。


「これでブースターの燃料を満タンにできるぞ!」

「いえ、むしろレーダー系を充実させた方がいいですわ。ね、船長?」

「やっぱり武装を……」


「ダメだって」

「それはダメですわ」

『賛成できません』

 同じ話題でまたしても集中砲火を浴びたラナは、しょんぼりと肩を落とした。


 そして船は一路、星の海をく。

 まだ見ぬ、新しい出会いに向かって。


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スペース・フリーターズ! ~天駆ける銀河の乙女たち~ あいはらまひろ @mahiro_aihara

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