seventh chapter.狂乱の渦中

「狂乱の渦中」1

翌朝、学校でイッタに会って驚愕した。何故なら、昨夜の出来事は全て、幻覚で見たものだと思っていたからだ。それなのに昨夜同様、目の前のイッタは眼帯をしている。



口を開けたまま何も言う事が出来ない。そんな僕の顔をチラッと見てから、気まずそうに頭を掻いた。



「なんだよ、そんな驚いた顔して」


「だ、だって、昨日見たイッタと同じだから」


「昨日?昨日は眼帯してなかったろ」


「昨日の夜だよ。病院で会った時、眼帯してただろ」



イッタは目を丸くする。少し間を開けてから、何言ってんのと真顔で言われた。



「来たじゃん昨日。それで、俺が居なくなっても元気出せとか言ってきたじゃん」


「はあ?大丈夫かおまえ」



大丈夫じゃなかった。ウサミ先生に幻覚だと言われホッとしてたのに、また心がかき乱されてくる。



「それ、誰かにやられた?」



眼帯に手を伸ばすと、素早く払いのけられた。



「ちげーよ、た、ただのものもらいだって」


「そんな突然?昨日プールの授業とかなかったし――。」



その時ふと思い出す。そういえば昨日の放課後、ユウダイの事であんな騒動があったのに、イッタはその事に一切触れず用があると帰ってしまった。もしかしてユウダイに会いに行って、集団に襲われたのではないだろうか。そんな悪い予感で頭がいっぱいになっていると、イッタが笑いながら叩いてきた。



「たかがものもらいで心配しすぎ!どんだけ俺のことが好きなんだよ!」


「は?」


「ハルが俺を大好きなのは分かってるけどさあ、俺はそっちの気ないから。無理ですから」


「人が心配してんのに、茶化すなよ」



呆れていると、凄い剣幕で隣のクラスの男子が入ってきた。辺りをきょろきょろと見回した後に、僕達で目を止めそのまま近付いてくる。



「なあ、ユウダイ、見た?」


「見て、ないけど」



そう答えると、やっぱりと小さく呟く。イッタは真剣な眼差しで、真っ直ぐにそいつの事を見ている。そしてゆっくり口を開いた。



「何かあったのか?」


「このクラスに丸山って居るだろ?あいつが暴行被害に遭って入院する事になったんだ」



僕達は驚きで何も言葉を返す事が出来ない。初めにユウダイの名前が出たから、嫌な予感がしたのだ。きっとイッタも同じだったんだと思う。



「先陣を切って暴行したのがユウダイで、いま事情聴取受けてるって。警察に連れていかれんの見たって奴が何人か居てさ」



イッタは俯きがちに小さなため息を漏らした。



「ほんとバカだな、あいつ」


「それが本当だとしたら、退学になるんじゃないの?ちょっとユウダイに連絡して――。」


「止めろ」



スマホを取りだした所で、イッタに腕を掴まれる。濁りのない強い瞳が、真っ直ぐに僕を捉えている。思わず固まっていると、首を横に振ってこう言ってきた。



「関わんなよ」


「なっ――。」



“何でそんなこと言うんだ?”と聞きたかったけど、イッタはそれを遮るように目を逸らし、話してくれた奴の肩を叩いた。



「教えてくれてサンキュー。だけど、他の奴には言うなよ」


「ああ、そうするけど、もう噂になってるから手遅れだと思う」



そう言って教室を出ていく。心がモヤモヤとしていて、疑問で頭の中が埋め尽くされている。聞かずにはいられなかった。



「友達だろ?いつものイッタなら、こういうの1番放っておけなくて、居ても立ってもいられないはずじゃん」


「そうだけど―― どうにもならない事もある」


「そんなの可笑しい。ユウダイは根は良い奴だから、きっと何かの間違いだと思うんだ」


「落ち着けよ、気持ちはすげぇ分かる。悲しいけどさ、人って変わっちまう事もあるんだ。本人が間違いに気付かなきゃ、俺達がどんなに説得したって無駄だ。危険なだけなんだ」



イッタはいつになく真剣で、こんな風に説き伏せられた事は初めてだった。



ユウダイと一緒に過ごした日々、笑った顔、寂しそうな猫背の後ろ姿。それらを思い出すと悲しくなり、このまま放っておくなんて事は出来そうにない。



「話した事ないけどさ―― 鹿児島の時に仲良かった奴が、ユウダイみたいに変わっちゃった事があるんだ」



イッタは悲しそうに微笑んで、その友人の話をしてくれた。



元々少しヤンチャだったらしいけど、イッタと仲が良かったので何とか暴走せずに済んでいたようだ。だがイッタがこっちに引っ越してから、その友人は変わってしまった。悪い事をカッコイイと思うようになり、いつも自分が1番にならないと気が済まなくなった。皆を従え、喧嘩を繰り返し、悪い事をするレベルは上がっていく。最終的には法に触れ、その友人は少年院送りになったそうだ。



「俺が居なくなったせいじゃないと思うんだ。こっち来てからもよく連絡取り合ってたし、他の友達を通して悪さしたって聞いた時はマジで切れて説教もした。母ちゃんに頼んで、土日に鹿児島に行ってまで話し合ったんだ」



中学の頃、確かに頻繁に週末や長期の休みに鹿児島に行っていた。離れても友達を大事にする奴なんだなと思ってたけど、それ以上に深い理由があったとは知らなかった。



「あん時に思い知ったよ。人は変わっちまうって事をさ。どんなに相手を想ったって、そいつの信念や生きてく道はコントロール出来ない。本当、俺すげぇ無力だったよ」


「イッタ、が?」


「おまえ、俺を買いかぶりすぎ」


「だってイッタは――。」



イッタは僕を救ってくれた。日々を楽しく彩ってくれた。友達が出来たことのなかった僕が、誰かを必要だと思えるようになった。



「イッタは色んな意味で、凄い奴だと思ってる」


「凄くねぇよ。むしろ俺のが何度も心が救れた。その鹿児島の友達の件で、当時はすんげぇ落ち込んでたんだ。だけどハルは、多少の事じゃ揺るがない奴で、自分を持ってるだろ?人の悪口は言わねぇし、媚を売る事もない、友達も軽々しく作らない。なんか良い意味で、こいつはずっと変わんねーだろうなって思うと、凄くホッとしてさ。一緒に居て心が救われた思いだった」



イッタにそんな風に言われたのは初めてだ。



何度か思った事があった。人気者のイッタが、何で僕なんかと仲が良いんだろう?と。だけどわざわざ聞くまでもないと思って、今まで聞いた事がなかった。だから僕は、胸が熱くなるほどに感動していた。このまま語り尽したいくらいだったけど、チャイムが鳴って先生がやってくる。イッタはため息交じりに自分の席に戻って行った。



あいつは基本おちゃらけているので、中々真剣な話し合いにならない。恐らく、本人がそういうのを望んでないのだと思う。だけどああやって真剣に話してきたということは、事態を深刻に捉えていて、僕にもそれを分かってもらいたいという事だ。



ユウダイの事が気になって仕方ないけど、イッタが僕を想って告白してくれた想いも尊重したい。考えていたら、どうしたらいいのか分からなくなった。



頭を抱えながら授業を聞く振りをし、現実逃避でもするようにユミさんを思い浮かべた。



ユミさんに相談したら、何て言うかな。あっちの世界のイッタは、何て言うだろう?









放課後になり、今日もマイ・レメディーに入ろうと思っていた。



最近めっきり寝不足で、現実で眠っていても眠りが浅い。そして目が覚めた時、決まって今があっちの世界なのか現実なのか分からなくなる。依存しすぎるのはよくないと頭では分かっていた。だけど現実に色々と問題があるからこそ、あの世界を求めてしまう自分が居る。



スマホを取りだしてメッセージを確認しようとした時、イッタに背中を叩かれた。



「なあハル、今日うち来ない?」


「何で?何かあったっけ」


「明日例のあれじゃん、遠足」


「遠足じゃなくて、社会科見学ね。すっかり忘れてた」



以前ホームルームで、イッタがバレンシアオレンジを食わせろと騒いだ、例の社会科見学が明日に迫ってる。僕達の班は、学校からバスで行ける距離にある寺院に行く事になっている。ふと、その話し合いをしたホームルームの日の事を思い出した。



そういえばユウダイ、あの時には既に様子が可笑しかった。イッタと距離を置いているような感じだった。この間、先生に突然切れ出した時だってそうだ、イッタと何が違うんだと怒っていた。それらを思い返していた流れで、ユウダイと一緒にイッタんに泊まった時の事を思い出す。



『俺ってやっぱり、歪んでるよな たまに嫉妬で頭が可笑しくなりそうになる』



もしかしたらユウダイの歪みは、あの時から始まっていたのだろうか。その時々で違和感を抱いたはずなのに、僕はそれらから目を背けたんじゃないだろうか。



バイトする事を止めるべきだったのではなく、違和感を抱いたその時に、何かフォローをしていれば良かったかもしれない。そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれない。



「ハル聞いてる?だから今日はわくわくして眠れねーだろうから、泊まってけよ」


「それイッタだけじゃん。そもそも僕は――。」



マイ・レメディーに行こうとしている。そう思いながら手にしたスマホ画面に目を落とすと、母親からメッセージが届いていた。



今日ウサミ先生は急用がある為、立ち会えないそうだ。よって、マイ・レメディーを使用出来ないらしい。前にもあった事だし、今まで頻繁に入っていただけで、数日空く事もあった。だから特に気にもならなかった。今日はユミさんに会えないのか、というガッカリした気持ちはあるけど。



「今日は病院行けないや」



そう呟くと、イッタがスマホを覗き込んできた。



「急用?お、パンのミミ、今日病院に居ないんだな。ヤッター、だったらなおさらうちに来いよー」


「とうとうも付けなくなった。ウサミ先生はパンのミミじゃないから、いい加減覚えようよ」


「だーから、おまえは真面目かってのー」



朝に真剣だったイッタは何処へやらで、いつもの調子でげらげら笑っている。とりあえず、泊まるかどうかは置いといて、今日はイッタんでのんびり過ごそうと考えた。



一緒に駅に向かう傍らで、イッタが明日はどうすれば抜け出せてバレンシアオレンジが食べられるか、って事を熱弁している。適当に相槌を打ったり突っ込みを入れたりしていたその時、イッタが歩く事を止めた。



「おいハル、あれ」



そう言いながら、顔だけで合図を送ってくる。



イッタの視線の先を辿ってみて、ドキッとした。数人の男の中に、しゃがみ込むユウダイが居たのだ。頬辺りにガーゼを付けており、目の上は、遠目に見ても分かるくらい少し腫れているようだ。ユウダイは何かを見てニヤついていた。



立っている数名の男もユウダイも私服で、パッと見では学生なのか大人なのか分からない。ユウダイ以外の男達は、何かに向かって罵声を浴びせていた。



イッタのセンサーが直ぐに反応したようだ。物怖じせずに、その群れに向かってしまう。



イッタに気付いたユウダイが分かり易く表情を歪ませ、うんざりした様子で気だるそうに立ち上がった。イッタが現れた事によって群れに隙間が出来、そこから見えなかった人が現れる。口から血を流し、横たわるカシワギが居たのだ。



嫌な予感がして、僕も走ってそこへ向かった。




「おい、てめぇら何やってんだよ」



イッタがそう言うと、ユウダイ以外の男達が笑いだした。



「あれー、お猿くんじゃん、また会っちまったな」


「よくも懲りずに話し掛けてくるよなあ、昨日も言っただろ?ユウダイに関わんなってよ」


「ユウダイの事はもういい。今日は状況がちげーだろ」



驚いてイッタに目を移す。昨日?イッタは昨日も、こいつらに会った?



カシワギは咳込んで血を吐く。慌てて駆け寄り、大丈夫かと声を掛けた。



「中津君達には関係ない。放っといて」


「んな血だらけになって何言ってんだよおまえ!バカじゃねーの!?」



イッタが険しい表情でそう怒鳴ると、ユウダイ以外が馬鹿にするように高らかに笑い出す。居ても立ってもいられなくなり、思わずユウダイの前に立った。



「何で、こんな事やってんの?」



ユウダイがゆっくり目を合わせる。その目はもう、僕の知っているユウダイではなかった。凶器に満ちたような冷たい眼差しは、何もかもが手遅れだという事を表しているかのようだった。



「俺さハル、ちょっとヘマしちまって、さっきまで警察署に居たんだよ。証拠が甘かったから解放されたけど。誰かがチクりやがったからこうなったんだよねー」



そう言いながら鋭い目でカシワギを見る。



「いい気味だよな?こいつ昔からすげぇうざかったじゃん?ハルも気持ち分かるだろ?」


「――ユウダイ?何が、あった?」



僕の声は震えている。友達が何処か遠くに消えてしまったみたいだ。失った悲しみが、心を締めつけてくる。イッタは小さな声で僕の名を呼び、腕を引っ張てきた。そしてカシワギに向かって早く逃げろと伝える。だけどカシワギはかばんを抱きかかえ、その場から動こうとしない。おまけに切れ出したのだ。



「放っといてくれって言ってるだろ!?」



それはプライドからなのか、自暴自棄になっているのかは分からない。男達は冷やかすように笑っていた。だけど負けじとイッタは大声を出す。



「放っとけるわけねーだろ、このボケナス!さっさと帰れっつってんだよ!」



それに続き僕も言った。



「もう行った方がいい」



カシワギは涙を流しながら覚束ない足取りで立ち上がり、よろけながらこの場を去っていく。



「ユウダイ、いいのかよ帰しちまって」


「このチビ猿達、変わりに相手してやっていいってこと?」



ユウダイは冷めた目のまま僕達を交互に見つめ、僕で視線を止める。



「おまえだってうんざりしてんだろ?くだらない親、くだらない友達、くだらない世の中。全部捨てて、仲良くしようぜ」


「何を言って――。」


「今イッタの事ぶん殴ったら、おまえも仲間にしてやるよ」



表情も声も感情が全くない。まるで死んでるみたいだった。ユウダイの心は、死んで冷え切っている。そこに僅かな温かさも人間らしさも感じない。



イッタに目を移し、ゆっくり首を横に振った。



「くだらない理由で、友達の事は殴れない」



そう告げると、ユウダイが小さく舌打ちする。



「あっそ」



そう言って背を向けた途端、他の男達が一気に襲い掛かってきた。ガツンと強い一発を頬に受けたのも束の間、お腹にも一発、背中も足蹴りされる。そのまま倒れ込んだ時に視界に入ったのは、何の抵抗もせずやられるイッタだった。



強いのに、何でなにもしないんだ?そう考えながらも殴り続けられていると、気付けばギャラリーのように人だかりが出来ていた。こんな状況なのに、何処かからパシャッとシャッターを切る音が何度もする。暴行してくる男の内の誰かの叫び声も聞こえた。



「てめぇ、何処に電話してんだよ!」


「確かに目立ってヤベェ。あのおっさん今、警察に電話してたぞ」


「逃げっか、またいつでもやれるっしょ」



そんなやり取りと散っていく男達の声、足音、まだ聞こえるシャッター音、それらを感じながら、ぼーっとコンクリートの地面を眺める。地面の隙間から、小さな草が出ていた。すると、その草を誰かが踏む。



「もうこれで終わりだ。これ以上首を突っ込んだら、一生後悔する事になる」



ユウダイの声だった。目の前にあった足が去り、再び草が現れる。まるで今の僕の心を表すかのように、潰れてしまっている。痛いのは身体なのか心なのか、このまま此処で眠ってしまいたいほどの疲労感だ。



そこで誰かに体を揺すられた。何とか顔を上げると、口から血を流したイッタだった。



「おい、大丈夫か?」



起き上がらせてもらい立ち上がると、手を引っ張られ歩かされた。



「警察が来そうだ。もう行こう」



僕は放心状態でよろよろしながら歩く。だけどイッタは案外大丈夫そうで元気だった。やじ馬達達に向かって大声を上げ出す。



「すんませーん、お騒がせしましたー!ただの内輪もめでーす!」



そう言いながら駅構内に入り、その中にあるトイレに入った。洗面台の鏡の前に立つと、自分が酷い顔をしていて驚く。隣に立つイッタは、こともあろうに僕の顔を見て指差して笑ってきた。



「おまえすんげー腫れてんぞ!うけるし、その顔!とにかく、水で冷やせよ」



こんな状況になっても笑える気持ちが理解出来ず、無言でハンカチを取りだして水に浸す。顔を洗ったり乱れた制服を直したりしていると、イッタが顔を豪快に洗いながら、明るい声で言った。



「ったくよー、何だよあの分かり易いヤンキー共。だっせーんだっつーの」


「なあ、どうしてやり返さなかったの?」


「意味ないだろ、あんな奴らと本気で喧嘩しても。それに俺、師匠の墓の前で約束したし。もう簡単に人は殴らねーって。あいつら殴んのって、まじで無意味じゃん!」



“須藤先生”と、前にイッタの両親が言っていた。幼い頃からイッタに空手を教えてくれていた、亡くなった道場の先生の事だ。何故手を出さなかったのか納得した。



「それによ、ああいう奴等って群れるんだ。あいつら倒した所で、また知り合いのバカが現れて、そいつ倒しても更に上が現れてって、無意味な争いが無限ループなんだよ。だからなハル――。」



そう言って、僕と向かい合うようにして立つ。



「もうユウダイの事は諦めよう。分かったか?」



情けないことに、泣いてしまいそうになった。目線を下に落とし、人が変わったさっきのユウダイを思い出す。イッタに今朝言われた“人は変わってしまう”という発言、あれをこんなにも早く痛感する事になるなんて、思ってもみなかった。



どうしてこんな事になったかを追求したい気持ちはあった。だけど深追いすると、もっと酷い目に遭う気がする。その時、忘れかけていたある事を思い出した。



「そういえばイッタ―― さっきあいつらに、昨日も会ったって言われてたよね?」



イッタは分かり易く動揺し、目を泳がせながら後ずさりする。



「いや、その、あれだ、言ったらハルが心配するかと思って」


「やっぱりだ。その目、あいつらにやられたんだろ?」



イッタのような正義感の強いおせっかい者が、過去にあった事を理由にして友達を見捨てるなんて可笑しいと思ってた。昨日の放課後、用事があると一目散に帰ったのは、ユウダイに会いにいく為だったんだ。恐らくそこでイッタは、今日の僕みたいに変わってしまったユウダイを目の当たりにして、手を引いた方が良いと判断したのだろう。



その時、昨夜枕元に現れたイッタの言葉が脳裏を過った。



『なあハル、俺が居なくなっても、元気出せよな』



胸騒ぎで息苦しくなる。もしもあれが幻覚ではなく、予知夢みたいなものだとしたら?そういう不思議な体験を今までした事ないから確証はないけど、何か危険を知らせてくれているのかもしれない。



勢い良く顔を上げ、イッタを真っ直ぐ見つめた。



「もう1人で動かないで欲しい。絶対に止めてくれ」



イッタは眉を顰め、静かに頷く。



「分かった。だけどそれはハルも同じだ。やり切れない気持ちはあるけど、俺達はもう、完全にユウダイから手を引こう」



万が一でもイッタを失ってしまったら、僕はもう生きていけないかもしれない。お互いを守る為にも、ユウダイの事は諦めようと誓った。



イッタが慰めるように肩に手を回してきて、僕は支えられるようにして歩く。



イッタのような友達が居て、心の底から良かったと思えた。

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