第22話事件現場

「このひとがドロボーです」

「いいえ、ドロボーはこのオンナのほうです」

「・・・ふたりとも、どういうことなんですかっ」

 ふたりから聞き取りをしてる警官はあきれ顔だ。帰り着いたアパートの前には、パトカーが停まってた。真っ赤なパトランプが四方の雪に乱反射して、物々しいフンイキだ。それをヤジ馬が取り囲む。アパート二階の開け放たれた窓、塀やベランダに残る侵入の痕跡、尻が落ちてきて崩落した雪山・・・なるほど、どれひとつとってもただ事ではなく見える。

 それにしても、まさかこんな大ごとになってるとは思わなかった。ほっといていい、と断りを入れたにもかかわらず、大家が110番通報してしまったらしい。

 大家と、死にかけの担当編集者・宮古と、そして開けっ放しの窓から吹き込む風に巻き散らされた原稿という事件現場。そこでは、容疑者ふたり(もちろんオレと小麦)が警察官から聴取を受けながらも、見苦しい罪のなすり合いを演じてる。

「つまり、今夜のドロボーはこのひとなんです」

「だけどいつもドロボーするのはこのオンナのほうです」

「ふたりともいいかげんにしなさい。反省してっ」

「・・・はい」

「・・・はい」

 若僧の巡査にこってりしぼられた。ヤジ馬は散りつつある。

「ヤマキさん、冗談もほどほどにしてくれないと、もう部屋においてあげられないよ。小麦ちゃんもさ」

 大家は怒り心頭だ。

「あ、あの、あの、それよりも、げげ、原稿はまだですか・・・?」

 宮古は毛布にくるまって、歯をカチカチ言わせてる。凍死寸前で、それでも催促を忘れないとは、あっぱれなプロフェッショナル魂だ。

「飲食代金の不足分は、ツケにしときますから」

 スキンヘッド店員までが呼び出され、警察の前で余計なことを証言する。罪状がもうひとつ増えはすまいか、と焦った。

「とにかくふたりとも、クリスマスだからって、浮かれないようにね」

 ようやくパトカーが帰ってく。浮かれてなどいるものか。結局、沈みっぱなしのクリスマス・イブだった。

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