第24話

 もう、逃げることも泣くこともせず、ただ立ちつくす私。

 ゆっくりと、微笑みながら、私の前に立つ彼。

 私はじっと彼の目を見つめる。

 とても優しい春の陽だまりのような瞳。

 微笑んだまま、彼はゆっくりと私に両の手をのばす。

 細くて長い指。この綺麗な手を私は大好きだと思った。

 桜色のあたたかい指が私の首にかかる。


 ――私はこの時を待っていたのかもしれない


 次は自分が殺されるかもしれない。そう思いながら恐怖心を無理矢理抑えて過ごしていた日々が、やっと今おわる。

 今はもう恐怖などなく、不思議な安堵感と甘美な感覚に包まれる。


 ふと、この人は誰だろうと思った

 でも、もうそんなことはどうでもいい

 ただ、この人の声を聞いてみたいと思った


 スッと意識を失いかけた瞬間、『……しもし? ねえ、起きてる?』と、遠くから姉の声が聞こえてきた。


「――お姉……ちゃん……」

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