母の死

第10話

 葬儀からの帰り道、香織がポツリと言った。

「私、日曜日に由香と電話で話したの。明日二人で食事に行くんだって、お姉さん亡くして落ち込んでるだろうから美味しいもの食べて元気付けてあげたいって、由香が言ってた」

 私を思ってくれていた由香の気持ちに胸がいっぱいになり、涙がこぼれないように頷くのが精一杯だった。

「私たちに何も言わずに自殺なんかする訳ないわ。きっと……」

 香織も言葉を詰まらせた。

「でも自殺じゃないとしたら……。ね、彼女他に何か言ってなかった?」

 私が聞くと、香織は少し考えた後に思い出したように言った。

「普段と変わった話は何もしなかったわ。あとは……そういえば、桜の木の夢を見たって言ってたかな」

 夢――まさか由香が死ぬ夢を見たなんて、今は言えない。

「そうなんだ。由香と待ち合わせてた場所も桜の木がある公園だったのよ」

 私はそう言ってからまた、改めて由香がいなくなったことを実感した。

「最後に三人で会ったの、いつだっけ」

 香織が寂しそうに聞いてきた。

「ん……先月。食事に行ったじゃない、お祝いの――」

 私が言った途端、香織が泣き崩れた。

「結婚式……由香、いないのね。私の……どうして? なんで、こんなことに……」

 彼女の肩を抱きながら、私も同じ思いだった。


 どうして……なんでこんなことになってしまったの?

 由香がいないなんて……死んでしまったなんて、信じられない


 どうしようもない思いを抱えたまま、それでも香織をなぐさめた。連絡して迎えに来てくれた彼に彼女を託し、私も帰途に就く。

 途中実家に寄ろうかとも思ったが、母もこのところ落ち着いてきて普段の生活ができるようになっていた。何より、今は一人になりたかったためまっすぐ自分のアパートに帰ることにした。

 なぜだろう。毎日寄っていたのに、あの日に限ってまっすぐ自分のアパートに帰ってしまったのだろう。

 なぜ私は実家に行って母の話を聞いてあげなかったのだろう。なぜ……。


 その夜、母が自殺する夢を見た。姉が浮かんでいた、あの川で。

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