第31話 エピローグ

 夜、オルガンの練習を続ける魔遊。

 詩亜の作曲した「FLY TO  THE INFINITY」だった。譜面とにらめっこしながら弾き続ける。

 子供たちが寝る時間になってもまだしつこく練習していた。

 最初は子供たちからうるさくて眠れないと文句が出ていたが、今では慣れたのか、それとも曲が子守唄になるのか、魔遊の下手くそな練習の音の中でも眠りについてしまうようになった。

 しかしその魔遊も、夜遅くまで練習しているうちに、昼間の肉体労働の疲れと、練習に疲れでそのまま眠りこけるのだった。

 そこへ空から一筋の光が教会に差し込む。光の筋の中を、ひとりの少女がゆっくりと降りてくる。半透明の姿の少女はエーテル体の安堂詩亜だった。

 オルガンのそばの床で寝ている魔遊に、詩亜はそっと毛布をかけてやる。魔遊や子供たちは気づいていないが、ほぼ毎日、詩亜はこうして教会に現れているのである。そして魔遊たちが平和に暮らしているのを見て安心するのだった。そして眠っている魔遊にそっとささやきかける。


 EDENの悪は一時的に無くなったけど、世界にはまだまだ悪ははびこっているし、今も増え続けているわ。

 これらをなくすのが魔遊、あなたの役目よ。

 人と人とがつながることこそが真の道。ノックヘッドでの意思疎通も、現実での対話でも、使うのは人間。使う人の意志ひとつで変わる。

 人と人とはきっと分かり合えるはず。お互い悪しき気持ちをなくして、相手を思いやって、むしろ自分が犠牲になることで、お互いが信頼し合えるはず。

 魔遊はその指針となるために世の中から悪しき心を取り除く役目を負って、この世界にやってきた。それはわたしがあなたに与えた智力。

 果てしない道のりかもしれないけれど、これがネガティブジェネレーターの宿命。

 今、魔遊がやろうとしている、世界中の人たちから悪しき心を取りのぞくという決心は、間違いではないわ。きっとあなたならできる。そう信じてる。

 この世界を作ったのはわたしだけど、世界を左右するのは魔遊次第なのよ。

 

 詩亜は言葉を伝え終えると、子供たちをひとりひとり見て回る。そしてまた魔遊のそばにやってくる。そうやって明け方近くまで教会にいる詩亜は、子供たちが起き出す前に光の筋を登って空に帰っていく。

 詩亜の言葉にもあり、魔遊自身も決心している、世界中の人から悪しき心を取りのぞくという作業。世界百数十億もの人たちから取り除くことなどできるものなのか。それは全て魔遊の双肩にかかっているのだった。完全悪である魔遊が悪の心を取りのぞく。

 それはまさしく果てしなく遠き道のりである。

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偽天使(ぎてんし) 真風玉葉(まかぜたまは) @nekopoku

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