第14話「わたしメリーさん……明らかに左乳より右乳が大きいの」


 ここは王都、井戸屋敷。

 井戸娘が所有する『百合ハーレム』の地下室は、神々の教育施設になっている。

 地下牢には、今日も神々の悲鳴と絶叫が満ちていた。


「ごめんなさい! 許してください! もう仕事をさぼ……ひぎぃぃ!」

「い、いやぁ……も、もうビデオ棒でおしおきは……」

「井戸娘様の経営哲学本を20冊購入するノルマ……ひぎゃぁぁぁっ!」


 その地下牢の一室に、10柱の神が集められた。

 全ての装備を剥がれて、全裸のまま鎖で手足を拘束される神々。

 いずれも、おっさんタイプの神だった。


「ハイハーイ、皆さんは誰ですか? 教えてあげます、奴隷ですよぉー♪」


 ニコニコ笑顔の井戸娘は、異世界で様々な会社を経営している。

 王都で人気の『白いたいやき屋』もそのひとつで、従業員は奴隷化した神々だ。

 全裸で拘束されるおっさん神たちに、経営者は言うのだ。


「こちらは、お客様から頂いたアンケート用紙です。さっそく読んでみましょう」


 井戸娘は、紙の束を読み上げる。


「邪神ミルガデスさんの腕毛が、とても気持ち悪いです・・・接客は良いです」

「竜神カオスドライブさんですが、ヒゲが不潔に思えます・・・接客は最高です」

「魔神ヴォードゥさんは、筋肉がムキムキで怖いです・・・接客は文句なしです」


 井戸娘がアンケート用紙を読み上げるたび、神々は震え上がった。

 理不尽なクレームもそうだが、お客様至上主義である井戸娘の怒りに触れたら……

 ガチガチと奥歯を鳴らす神々に、井戸娘は言うのだ。


「えー、皆さんは男性タイプの神です。考えてみましょう。かわいい女の子の作るたい焼きと、むさいおっさんの作るたい焼き、どちらがおいしく思えるか。どちらの店員さんの方が、気持ちの良いお買い物をして頂けるか」


 笑顔の井戸娘は、全裸のおっさん神たちに言葉を続けた。


「そこで、わたしは考えました。皆様には――女の子になって頂きます」


 神たちが、悲鳴を上げた。

 理不尽には抗議せず「どうかご慈悲を!」「この報いはキッチンで必ず!」「お客様の信頼を必ずや取り戻して!」と、口々に言葉を紡ぐ。

 それらに聞く耳もたずの態度で、井戸娘は告げた。


「はい。こちらの魔道書はなんでしょう? そうです、禁呪が記された魔道書です」


 井戸娘が取り出した魔道書に、全裸のおっさん神たちは口々に言うのだ。


「禁呪だと……」

「禁呪とは古代魔法文明で……」

「あまりに効果が危険すぎるゆえ……」

「一切の習得が禁じられて、厳重に封印された……」

「だが、禁呪の習得は生半可では……」

「魔力が400万近く必要なはずだ……」


「――俺なら可能だ」


 話に割り込んだのは、純白の学ランを着た少年だった。


「俺が貴様ら神々から簒奪した魔力は397万6554ポイント。問題なく覚えられる」


 言いながら、冥介は魔導書のページをめくる。

 魔道書の表紙からおぞましい光が放たれ、謎の旋風が地下牢に吹き荒れる。

 バサバサと暴風にページがめくられ、冥介の魔力を吸い取っていく。


 そして、


「クククッ、俺は覚えたぞ――男性器を自在に付け外しする魔法――を」

「やめてくれぇぇぇ!」


 冥介は「ハァ――ハッハッハッ!」と高笑いを上げながら。

 怯えて震えて涙を流す、高貴なる魔神――不死王ノスタードの股間に手を当てる。


「やめろ……取らないでくれぇぇ!」

「不死王よ。男に生まれながら少女向けの飲食店に務めた、己の不幸を呪うんだな」

「拙者は清潔を心がける! ダンディーな口ヒゲも剃る! オールバックもやめる! だから……」

「不死王――貴様の男性器を貰い受ける!」

「ぬほぉぉぉぉっ!?」


 男性器を握る手に、むぎゅっっと力を込めると、

 ――すぽっ

 不死王の男性器が取れてしまった。


「なにこの魔法……」

「素晴らしい魔法ですわ。醜くて存在価値のない殿方を、素敵で愛でるに相応しい女の子に変えるなんて」

「女の子に変えるって……うそでしょ?」


「は、恥ずかしいよぉ……///」


 冥介に男性器を奪われた不死王は、男をやめていた。

 筋骨隆々だった体つきが、柔らかな曲線を描く女性のモノに変わっていた。

 胸毛でモジャモジャのバストは、女性らしい膨らみに変化していた。

 ダンディーな顔が、美少女の顔に変化した。

 身長も140cmぐらいに縮んで、声はキュートなロリボイス。

 そう、ロリ巨乳で妹タイプの魔神になっていた。


 冥介は、満足そうに「クククッ」と嗤いながら。

 次の目標に、邪悪な視線を固定する。


「やめてくれぇ……拙者は女の子なんぞに……」

「時操神クロノキアよ。貴様の男性器も、俺が貰い受ける!」

「いやだぁぁ!!」


 冥介が男性器を握るたび、むさいおっさん神が変身する。

 美少女な女神へと、性転換していく。

 冥介が男性器を握るたび、ザルに並べられる新鮮な男性器が増えていく。

 気づけば、ザルの上には「ピチピチッ」魚のように跳ねる男性器が10個あった。

 美少女にされた神々がすすり泣く地下牢で、メリーさんは言った。


「どうすんのよ、それ……」

「メリーよ。こいつが欲しいのか?」

「いらないわよっ!///」

「俺の魔法は男性器を自在に人体へと接着できる。股間以外の場所にも接着可能だ。どうだメリー、おでこに男性器を付けてみないか?」

「ンな斬新すぎる『チョウチンアンコウ』のコスプレなんて、断固拒否よ!」

「メリーちゃん! 超『チン』○んこ○!」

「井戸ちゃん! 巧妙すぎる誤字と協調と伏せ字のコンボはやめてぇぇ!///」


 ザルの上で跳ねる男性器を眺めながら、冥介は思案する。

 この男性器は勿体ない。何かに使えないか。現状では使いみちはない。

 だから、とりあえず。


「誰かに預けておくか」






「あら、九條様。お久しゅうございます。

 わたくしは、王女キャロル。

 清楚に見えても、実はEカップのダイナマイトボディーですわ。

 王城の廊下の曲がり角で、わたくしをお待ち伏せですの?

 ――むぎゅっ!?」


 王女と、出会い頭、

 冥介は、彼女の唇を奪う。

 グラマーな肢体を抱きしめて、豊満なEカップの乳を揉む。

 耳たぶを甘く噛み、鼓膜に優しく息を吹きかける。

 それだけで、


「九條様……わたくし、オッケーですの」


 HEY!! HEY!! カモン! カモォォォォォン!!

 わたくし、いつでも、受精、オッケー!

 足を開いて、カモンベイベー!

 あなたのサムを、インサイト・ホール・ミー!

 甲高く「Poooo!!」と叫ぶ王女キャロルは、まさに淫欲の姫君(意味不明)!

 クールでハンサムな冥介は、スイートな口調で問いかけるのだ。


「キャロルよ。ちんちんが欲しいか」

「欲しいれす……わたくし、おちんちんが欲しいれす……」

「ならば、寝室を整えておけ」

「はきゅんっ!」

「今夜、貴様の寝室を訪れる。そして――お前の淫らな体に大好きなおちんちんをたくさんプレゼントしてやる」

「はひ……お待ちしております」



 その日の夜――

 キャロルの寝室から――

 乙女の悲鳴が――

 漏れ聞こえたという――



「ザルの上に並べられた、なまこめいたモノはなんですの……」

 とか、


「いや、そんなのいりませんの!」

 とか、


「おでこにアレを……ひ、ひぃぃっっ!!?」

 とか、


「おちんちん……おちんちん、いやぁァァァァ!」

 とか、


「そ、そんなところに……しかも左右対称で……おちんちんを……」

 とか、



 翌日――

 王女キャロルは、黒い鉄仮面を装備して玉座の間に現れた。

 素肌を隠す黒い甲冑で全身を覆い、背中には漆黒のマントがたなびいている。

 父親でもある国王の問いかけに、キャロルは答えた。


「わたくしのフォースは……男根面だんこんめんに染まってしまいました」

断黒面だんこくめん……なんだそれは?」

「お父上には関係なきこと。今日よりキャロルは修羅に生きます」


 そう宣言する、王女キャロル。

 その表情は、鉄仮面に隠されて伺えなかった。


 後に、自らを「ダースキャロル」と名乗った王女は、国内のあらゆる悪を武力で弾圧したという。

 異世界から輸入した「FG42」という軽機関銃を片手に、漆黒の甲冑とマスクを身につけて姫君は戦い続けた。

 やがて姫君に共感する部下が増えて、異世界の火器と防具で武装した特殊部隊を結成した。


 その特殊部隊は、正義側の戦力として伝説的な活躍をすることになる。

 一部の噂では「憂さ晴らし」をしているだけとも言われたが、王女の活躍が国内の治安を良くしたのは確か。


 今日もキャロルは「謎のテーマソング」をバッグで流しながら。

 漆黒のマスクから「しゅこー」と呼吸音を響かせて、国内の治安維持に奔走するのだ。


 正義を愛して、悪を断罪する姫君。

 その素顔を見た人は、だれもいなかった。 

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