第36話 素直な愛

野苺みたいな赤い果実を舌先で食べる。本能を操るみたいな糸が気持ちまで高揚させた。


初めての乳房の感触が血を脈々と熱くさせて沸騰させるようだった。無我夢中な本能を促して、濡れた陰部へ挿入した瞬間、射精は抑えることなく放たれた。


ことを終えて、僕は素直な気持ちを告白した。柔らかい生地の上で、柔らかい肌で包み込む彼女に、僕の告白に微笑んでは唇を重ねてくれた。嬉しい……と世界で一つだけの答えに似た言葉を返す。


そんな風に思えたし、僕は彼女を心から好きだった。


「不思議よね。僕ちゃんの素直な気持ちは、私の心に染み込んでは広がる。まるで素直な愛みたい」彼女はそう言って、僕から一秒も離れなかった。


「私たちはきっと惹かれ合って、素直に愛を結んだのね。僕ちゃんが私を好きと素直な愛で伝える。私も素直に愛を受けては、その愛を大切にしようと思ってるわ。生まれた時間も生まれた瞬間も違う二人が、素直に愛を結ぶ……」


「美琴さんは言ってたよね。恋をすると愛の難しさを知ってしまうと。僕はきっと惹かれ合って、美琴さんの中にいるアゲハも……」そう言ってから続きの言葉を探す。僕はアゲハの行為に嫉妬して、美琴のぬくもりに泣いた。


「いつかは目にした時、アゲハの役目を理解するわ。それから目を逸らさないでちょうだい。僕ちゃんの素直な愛を伝えて……」


夜の終わりは雨が上がった時だった。朝方近くなっても、僕たちは素直な愛の結びを解くことはなかった。この先、僕が愛した人は、美琴という女だけで、最初で最後のひととなるのだった。


翌朝、美琴はアゲハとなって僕の隣で目を覚ました。安らかな死を望む人間がどれだけ居るのか知らないけど、僕は少なからず、美琴の胸の中で死を迎えたいと思っていた。


一秒も離れなかったと、僕に伝えたのはアゲハ。起きた瞬間に入れ替わったアゲハだけが、僕と美琴が抱き合う姿を見ていたと、目を覚ました僕は思っていた。


「夕日、あなたは私の役目を逸らさないでくれるかしら?」とアゲハが言う。


その質問に答えられる強さは正直なかった。最愛の人が夜の仕事をしている。

そんな真実を真正面から受け止めるほどの心はない。美琴もわかってるはず、僕が嫉妬で苦しむ姿を……


それでも美琴というアゲハを安らぎの場所として求めて、訪れる人々がいる。

その一人に山川さんもいた。みんな、アゲハに魅了されて骨抜きとなるのだから……


「夕日は美琴に骨抜きにされた。他の人たちは私に骨抜きにされた。同じようで意味が違うのよ」


アゲハの言葉に頷いて、僕のことを名前で呼ぶアゲハが目の前にいた。アゲハひ裸のままベッドから抜け出すと、背中を向けてから立ち止まった。


「僕ちゃん。一緒にシャワーを浴びましょう」と美琴が言うのだった。


この時、僕はアゲハと美琴を同時に重ね合わせていた。このひとを独り占めしたいと思っては、ベッドから出て後ろから抱きしめた。


もう彼女を想う気持ちは、愛でしかなかった。

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メリーさんの行方 葉桜色人 @hijirigawa

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