第23話 家政婦のヨツヤ

「時間が来た時、僕ちゃんのチャンスは終わっているのよ。じっくりと触って言う女は反対のことを望んでいるの。覚えておきなさい」とソファーから立ち上がって言った。


「そんなんじゃ、アゲハに怒られるわよ」


まさか、再び彼女の口からアゲハの名前を聞くことは思わなかった。僕の横を華麗に歩いて、彼女は笑い声を僕の背中に残して玄関へ歩いて行った。そして僕の耳に知らない誰かと会話を交わす声だけが聞こえた。段ボール箱を抱えて一人の女性が部屋に入って来る。ヨツヤさん、あとはお願いしますねーーと、美琴さんの声がして、そのあと寝室のドアがバタンと閉まった。どうやら彼女は寝るつもりみたいだ。そして僕は大きなチャンスを逃してしまい、目の前で作業する女性を見つめるしかなかった。ヨツヤさんと呼ばれていたけど、一体誰なんだろう。女性は黙々と作業をしていた。段ボール箱の中身は、いろんな野菜や果物が詰めてあった。それを一つ一つ確かめては、冷蔵庫へと収めて行った。


「あの、あなたは誰なんですか?美琴さんの友達か何か……」


「ヨツヤと申します。私はアゲハさんと契約してるお手伝いです。坊ちゃんが昨日入って来た新入りさんね。初めましてヨツヤです」お手伝いと名乗ったヨツヤさん。改めて自己紹介をしてくれたが、気になってのは彼女がお手伝いとして契約している相手の名前である。


「アゲハさんと契約してるって言いましたよね」


「ええ、何か問題がありますか?私はアゲハさんに頼まれて、毎朝新鮮な野菜と果物を届けています。それは何十年と続いているわ。それに、私の仕事は坊ちゃんと会うことも、今日の仕事の一つとしてあります」とヨツヤさんはそう言うと、冷蔵庫にしまい終わった段ボール箱を床に下ろした。


「僕に用が!?」


「はい。まずはこれに着替えて下さい。坊ちゃんが今日から着る服は、私が御用意します。それから銀行口座とか住民票の届け出、坊ちゃんの環境全てを私、ヨツヤにお任せ下さい。それから……」とヨツヤさんは話しを続けようとしたが、僕はそれを遮るように質問した。


「アゲハさんと契約してるってどういうことですか?」


「どういうこと!?」とヨツヤさんの表情が変化した。


「だから、アゲハさんは美琴さんであって、彼女の正体と言うか……。僕が言ってる意味をわかりますか?」


僕の質問する意味をわかっていない様子だったので、僕は意味を理解してくれよと言わんばかりに、もう一度訊ねた。するとヨツヤさんは後ろを振り返って黙るのだった。まるで寝室に居る美琴さんを気にしてるみたいだった。きっとヨツヤさんは知っている。僕の欲する答えを用意してるようだ。


ヒロさんは教えてくれた。女性に聞くことはタブーだって、だったら聞かされるか、短な相手から聞き出すんだ。僕はこの数日、目まぐるしい時間を過ごしていた。アゲハさんと美琴さんを、ますます知りたい気持ちになっていたから。

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