第12話 優雅な煙

どうして言わなかったのだろう。もしも貴子さんが生きていれば聞きたかった。それは二人の問題だったはず。だったら言うべきだったろうに。もしかしたら死ぬという選択を選ばなくても良かったかもしれない。


「それは違うな。間違っても貴子が生きる選択を選んだとしても、。アイツはそんな女だった。だからよ、俺は誓ったんだ。女が何を求めて、何を隠し持っているかを考えてあげる。それが一番の思いやりだってな。だからここで働いてる女性に確信は聞いちゃいけねえ。それは絶対的なタブーでルールなんだよ。年齢とか性格の分析だって本人に言わない。聞かないってことが大切なんだ。お前も生きてりゃそのうちにわかるさ。今は考えて考えて、女の本音を盗むんだ」とヒロさんは二本目の煙草に火を点けながら言った。


「関田さんから聞いてると思うけど、ウチで働いてる女性は六人。その中でもアゲハさんには気を付けろよ。あの人は新人に対して厳しいからな」


「ユリさんも言ってました。アゲハさんは若い男性を骨抜きにすると……」


僕がユリさんを知っていることに、ヒロさんは何故か驚いていた。どうやらユリさんは、かなりの天邪鬼でクセのある性格なんだと後に知るからだ。それは今後、僕がユリさんに振り回される事となるーーかも。そして僕は女の恐ろしさも覚えるのだった。夜も深まった頃、僕の仕事も終わりが近づいて来た。ヒロさんに外での仕事を学び、大まかなルールやタブーについても教わった。あとは実践と経験が培うと言ってくれた。


濃厚な一日が過ぎた時、僕はここに来てから始めての煙草を吸った。鏡さんから頂戴したジョーカーである。成長過程の僕には、ヒロさんのように優雅な煙は吐けなかったけど、僕なりの優雅で果てしない煙を夜空へ吐くのだった。星一つ無い街の夜空へ、煙は帯状となって泳いでいた。僕はこの日、明日の気配を見つめるように夜空を見上げた。


それは明日を楽しみしているからなんだろう。今の僕は数時間前と違っている。夜空の闇夜に漂う優雅な煙が、明日の僕を想像しながら思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る