第2話

廣井そよかはこの春まで国立の総合災害情報研究センターの特任研究員をしていた。しかしマスメディアを大いに賑わせた研究不正により、巻き込まれる形で国公立の科研費予算が大幅に削られてしまいポストごとなくなってしまったのだ。


フィールドワークで計測を中心に活動していたそよかは准教や助教などの指導的立場の役職を得ておらず、あえなく研究センターの契約更新がされずお勤め終了となった。センターの部門長を務める教授がギリギリまで関係各所と調整してくれたのだが、全国的に職にあぶれた研究員が量産されており、実績の少ない自分が滑りこむ余地はどこにもなかった。

離任引継ぎ業務ということで、なんとか5月一杯までは延長してもらったのだが結果として考えるとこれが良くなかった。6月になっていざ契約が打ち切られ、仕事を探そうとしたらめぼしいところはどこも採用募集などが終了したあとだったのだ。



大学、大学院時代の奨学金の返済を雀の涙ほどの給料でやりくりしていたこともあって貯金がほとんど無い。研究奨励金という名の給与はわずかであるにもかかわらず、そこから国民年金と国民健康保険費を支払わなければならないのだ。また、研究所とは雇用関係もないので、いざ失職しても失業保険をもらうことができない。


すくなくとも、あと2ヶ月以内にせめて月に10万は稼ぐ仕事を見つけられないと間もなく家賃すら滞納してしまうことになる。しかし、20代後半の研究職しか社会人経験がない女性が求職しても仕事は一向にみつかりそうもなかった。

ハローワークでせめてアルバイトでもとお願いしたのに、それすらも見つけられずに絶望していたのだ。


人の通らない裏道を歩いていたのは、こんな顔を誰にもみせたくなかったし、誰にも会いたくなかったからである。うつむいて地べたばかりをみているうちに、つい習性で地形的に面白い裏へ裏へと入り込んでしまった。



たんめと逢ったのは住んでいる人以外通りそうもないような裏路地だった。




「そんな研究をされていたんですか。いやしかし、いまこそ防災研究にお金を投じるべきなのに政府は何を考えているのでしょうかね。」



当たり障りのないコメントなのだけれども、テレビの番組を見ているような変な気分になる。司会業というのは喋りが上手い人がやるのかとおもっていたが違う。聞き上手なのだということを体感した。

しっかりと濃くそれでいてまろやかに泡立てられた抹茶を一口くちに含む。路地から出たところにあった古めかしい喫茶店にはいったが、大アタリの喫茶店だった。




「私も隠居してからは色々気になることがあって調べているんですが、最近は体が言うこと効かなくなってきてね。」



にやりと口元だけで笑う。



「ちょうどよかった、もしよければ助手として雇われてみませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

(ミステリー)災害都市ワーストケースメイカー のーはうず @kuippa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る