(ミステリー)災害都市ワーストケースメイカー

のーはうず

第1話

廣井ひろい そよかは走りよった。

白い麻のスーツ姿の老人が路上に倒れていたのだ。側には杖と麦わらのカンカン帽が落ちている。この暑い陽気だ、熱中症だろうか。この人通りのない裏路地でいつから倒れていたの?無事だとよいのだけど。



「もしもし!大丈夫ですか!?」



駆け寄ると肩に手をあて声がけをする。

存外反応はすぐに返ってきた。


「静かにしてくれんか、聞き取れんじゃないか。」



意識混濁が見られる。危険な状態かもしれない。かばんを漁り携帯電話をとりだし119番をかけようとした手を起き上がってきた老人に抑えられる。



「いや、倒れていたわけじゃないのだよ。ここらへんに地下を流れる川があるはずなんだが水道管の流れる音と区別がつかなくての。」




そう言うと屈みながら杖を耳にあてて地面の音を聞く姿勢をとる。老人は、服についた土ぼこりをはたくと拾った帽子を被りなおした。



「僕のような老人を心配してくれて、どうもありがとう。」



ロープタイをゆらしながら、破顔するメガネの老人をどこかでみたことがある。

テレビをあまり見ない私でも知っている。1~20年ほど前までいくつもの人気テレビ番組の司会、ニュースキャスターなどをしていた男性だ。森ヶ谷もりがや たんめと言ったか。その後、ほとんどメディアには露出しなくなった。加齢して雰囲気こそ変わったが間違いようもなく同一人物だ。



暗渠あんきょなら、この筋じゃなくてもう一本向こう側ですよ。さん。」


思わぬ出会いに私も、つられて笑顔になる。



「おや、よくご存知ですね。いや、僕の事じゃありませんよ。君ぐらいの若い娘さんなら、暗渠なんて言葉もしらないと思ったもので。それに位置まで!」



「ええ、私、ついこの間まで国の防災情報センターで研究員をしていたので・・・。あの、いまは失職中なんですけど・・・。」



「これは、変なことを聞いてしまいましたがかな?」


もうしわけなさそうに言うたんめの言にたいして、私は黙って首を振る。今日も仕事をみつけられなかったことを思い出してしまったのだ。



「人の行く裏に道あり、花の山ってね。いや、もう花の季節ではないか・・・。」



老人はあたりを見回す。住宅街の青々と茂った木々が初夏の訪れを教えている。



「少し疲れましたね。お時間どうでしょう、喫茶店でお茶でも?ごちそうしますよ。」



私は人生で初めてナンパの誘いにのることにした。

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